もういないであろう誰かに
「そんな手段があるのか?」
「いったいどこにあったんだ?」
アルタイルと第神官は聖女に詰め寄る。
「書庫に置いてあったぞ?」
その言葉に一気にアルタイルの膝から力が抜けた。
「つまり、世界を救う手段は、ずっと神殿内にあったということですか?」
「あの中身を確認しなかったのか?」
いかにも呆れたという顔で、聖女は大神官を見た。
「私は何度でも、過去、塔理天孫様を称える文書を読み漁ったものだぞ、なぜおまえたちはしないのだ」
つまりすべてを救うための手段は、神殿の書庫に死蔵されていたということだ。
大神官は慌てて、書庫に向かう。
書庫の番人に聖女が手に取った書物を片っ端から持ってこさせたが、その一枚を見てその顔は絶望に染まる。
アルタイルも覗いてみたが、一文字たりとも読めない。
「これは一体」
聖女は怪訝そうな顔をした。
「どうやって読んだんですか?」
「見ればわかる」
堂々と胸を張る。
「この文字は私も見たこともない文字ではあるが、何が書かれているかは一瞥すればいくらでもわかる」
どうやら聖女の特殊技能で読んでいたらしい。
「全く読めないということは相当な昔に書かれたものなのだろうな、今までの文字を使いやすくしようと改変する。それを何度も繰り返せば、最初に書かれた文字を解読するのが難しくなる」
その言葉にアルタイルは立ちくらみをおこしそうになった。
いったいどれほどの時を無駄にしたのか。
「お願いします。読んでください」
恥も外聞もなくアルタイルは床に頭をこすりつけて懇願した。
聖女のほとんど感情をうかがわせない顔に初めて驚きの表情が浮かんだ。
隣にいた大神官も後に続く。
「前準備として」
聖女は素直に読み上げ始めた。
そしてその内容に倒れそうになった。
まず巨大な魔方陣を作らなければならない、それもかなりの強度を持つ、岩化煉瓦を用いて、作るのにおそらく数年かかる。
その後の手続きもややこしいが、前準備にかかる時間はどう考えても間に合わない。
「本当にそう書いてあるんですか?」
「その通りだが、最後に結びの形として、準備が間に合わないからもう一つの方法をとる。しかし、それは事態を後回しにするだけで、再び同じことが起きる、時間を稼ぐためには仕方がないと記されている」
つまり誰かが、安直な方法があるなら根本解決しないでいいやと考えたんだろう。
予算も死ぬほど食いそうだし。
アルタイルはその誰かを絞め殺したいと思った。もう死んでいるだろうが。