聖女の言葉
「貴様、何を言った?」
巫女は茫然としている男を凛とした目で見据えている。
「女神という愚物」
一語一語はっきりとした発音で、聖女は答えた。
男が小刻みに震える。
「我が女神を愚弄する、愚かな巫女よ、その驕慢を思い知れ」
手にした杖を高々と振り上げる。
アルタイルはその光景を黙って見ていた。
止めようとかそんなことは考えない、どうせ無駄なのだから。
杖がまっすぐに聖女の頭部に振り下ろされる。そして明らかに不自然な曲線を描いて聖女の頭から外れた。
聖女に危害を加えることは不可能。そうでなければアルタイルがこの生意気な聖女をひっぱたいて言うことを聞かせている。
明らかな侮蔑の眼差しを向けて聖女が言う。
「おや、ものの分かった男と思ったが、まだ気づいていないのか、女神とやらはただ下らぬ存在、そのようなものを崇め奉るなど愚の骨頂」
再び杖を手に聖女を打ち据えようとするが、何度振り落としても聖女にかすりもしない。
「あの、女神を崇めるわけには」
明らかに聖女に守られているだろうとアルタイルが言うと、聖女はケロッとした顔で答えた。
「これは、我が神のご加護である、女神など関係ない」
ああ、これは何言っても無駄だ。
この聖女に比べれば、狂信者のほうがまだ話は分かる。
「おい、お前いったい何をしていた」
第神官が、厳しい顔で、アルタイルの肩をつかんだ。
「頑張っては見たんです」
成果は何一つ見いだせなかったけれど。
「何しろ、この場所にいる、女神を崇める神官どもが、誰一人まともな人間がいないのだ。女神の威光とやらも知れたものよ」
あ、これは我々の悪口を言われているな。
この場にいる全員を敵に回して聖女はにっこりと笑う。
「滅びればいい、存在する価値のない世界だ」
そんなにも美しい笑顔で、そんなにも無慈悲なことを言う。そんな巫女を持っているその塔理天孫様とやらも知ったことだと言いますよ。決して口にする勇気のないアルタイルは必死に口を閉じている。
口にしたら何かが終わるとわかっている。
「この世界のことはこの世界で解決すればいい、その手段があるのに、異世界から安易に力を借りようとする」
それができれば、と言いかけて、アルタイルと第神官は目をむいた。