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遭遇

 聖女は、静かに文字を追っていた。

 見たこともない図形が、視線を追うごとに、見知った文字へと変化する。それは今まで生きてきた中でも指折りに不思議な現象だった。

 美辞麗句はさっくりと無視し、目的の場所を探す。

「愚者というやつはどうにも度し難いものだ」

 それが、聖女の感想だった。

 偉大なる塔理天孫の巫女たる自分を異郷の聖女に仕立て上げようとするあたりで、いろいろとおかしいとは思っていた。しかしそれは予想以上だ。

「どこまで愚者を極めるつもりなのか」

 聖女はすうっと立ち上がる。

 番人は、ただ黙って聖女を見ていた。

「どれほどのものが、ここにやってくるのだ」

 その意味を計りかねて、番人は目を瞬かせる。

「日に、何人やってくる?」

 番人は首を振った。

 数か月に一度、新たな書物を持ち込むものがいるぐらいで、ここには誰も来ない。

 埃がたまらぬように、はたきをかけるぐらいしかすることはない。

 ふんと聖女は鼻を鳴らした。

 頭が煮えている自覚はある、しかし、自らの信じる神の巫女、常に清水のごとく澄み切った心でなければならない。

 聖句を唱え、塔理天孫を讃えた。

 その様子を見て番人は不思議そうな顔になる。

「何かしゃべりましたか?」

「神を讃える聖句だが」

「その言葉だけ、鳥のさえずりのような音に聞こえましたから」

 自分としてはずっと自分の言葉でしゃべっているつもりしかないので、その言葉は以外だった。

「さえずりねえ」

 この国の言葉は、自分たちの世界の言葉と随分違うようだ。勝手に翻訳されてしまうので、その差はわからないけれど。

「聖女様、何事もございませんか」

 アルタイルが慌てたように、書庫扉を乱暴に押し開けた。

「別に」

 kの男に対して、聖女は思うところがないでもないが。暴力や暴言に訴えることはない。

「何かあったのですか?」

「賊が」

 この連中も内輪でもめているらしい、どうでもいいことなので、さっさと聞き流す。


 アルタイルは、大きく息を吐いた。

 焦ってここまで走ってきたが、聖女は普段通りだし、番人ともめている様子もない。このまま落ち着いてくれたら。 

 詮無い望みとは知りながらアルタイルは祈るしかなかった。

 番人の話では、ただ巻物の文字を見詰めていただけだという。

 アルタイルにも読む事の出来ない書物を読む事がなぜできるのかは謎だが。

 アルタイルの期待はすぐに裏切られた。

 禿頭の男が立っていた。

 指名手配の肖像で見た狂信者の一派だ。

「女神のお心汚すものは滅すべし、この世界も滅すべし」

 この世ならざるものを見る目をしていた。

「その通りだな、女神などという愚物の世界など滅びればいいのだ」

 聖女の言葉に一瞬狂信者の目が、正気の光を放っような気がした。



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