召喚陣
神託の聖女、それは偉大なる女神ディアンクスの皆において召喚される。
地中よりの瘴気に侵された国家を救う存在である。
聖女は異世界より召喚されるという。そして、様々な異世界の知識を与え、この世界に貢献してくれるというありがたい存在である。
アルタイルは後方で聖女が現れるという召還陣を見詰めていた。前列は王族すべてが並んでいる。
かつて聖女が召喚されたのは、彼の祖父がまだ若い時、あれから数十年ぶりの聖女召喚だ。
陣の中心が徐々に光り始めた。
そして、目も明けられない光が周囲を純白に染めた。
アルタイルは光にやられた目を瞬かせながら陣の中心を見た。
そこには一人の少女が佇んでいた。
闇色の髪の頭頂部を一部丸く結い上げ、あとは垂らすという奇妙な髪型にしている。
切れ長の目はやはり闇色、月のような色合いの肌。そしてくるぶしまで覆う長い純白の見たこともないデザインの衣装ををまとい、腰に多様な糸を織り交ぜた帯を締めている。
明らかにアルタイルの母国、ディアルートの民とは人種が違う。
これが異世界人かと思わずこぶしを握り締めて少女を見詰めた。
「ここはどこで、お前たちは誰だ?」
少女は、甲高い声で詰問する。
その様子を祖父は怪訝そうな顔をして見ていた。
かつて聖女召喚に立ち会ったのは祖父だけだ。
「聖女様、女神の加護をわれらに与えください」
最前列に立つ王がそう恭しく求めた。
「女神とは何ぞ?」
「女神ディアンクスの聖名により、貴方様は召喚されたのでございます」
「それは、以下なる邪神だ」
沈黙が、あたりに落ちた。
「私はディアルートの王である、我が女神を邪神とは何事だ」
「私は国家安吾のため偉大なる統理天孫様を崇めることにより皇帝陛下にお仕えするものぞ、聞いたこともない国の王に指図されるいわれはない」
少女は傲然と言い放った。
ざわざわと周囲がざわめき始める。
アルタイルはそばにいる祖父を恐る恐る見た。
彼らはしならなかった、かつて呼び出された聖女が、日本人というその世界でも特にいいかげんな宗教観を持つ民族であったなど。
一つの家に複数の宗教の祭壇があるという極めてわけのわからないことを平気でやっていた。
そして今回召喚された聖女は極めて厳格な宗教国家から連れてこられた巫女だった。
聖女は猜疑に見た眼差しを周囲に注いでいる。
「われらを救ってくだされないのか」
「われが救うのは、偉大なる皇帝陛下の民のみ、他国の、異教徒など誰が救うものか」
少女ははっきりと言い切った。
どうなるんだろうと、アルタイルは思った。