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ミスリル原石

前話で今いる町の名前を間違っていたので、修正しました。

修正部分前話のルティアとシリアとの会話中の主人公の独白。

森林都市『フォレスト』→森林都市『オデラス』です

 ギルドに入る。依頼を受けて出ていったものが多いのか、人は少なかった。

俺は受付をみた。可愛らしい受付嬢が、すまし顔で一人カウンターに座っている。


 あいかわらず翠の髪が美しい女性だ。背が少々低いがよく見れば、かなりの美人じゃないか。

これから俺が拍手歓声大喝采を受ける相手として申し分ない。

むふ、むふふ、

 「むっふっふっふ!」

 「きもいのでその笑い方やめてもらっていいですか」

 ぴしゃりといわれた。

 「むふ……?おっと失礼」

 おっと笑い声が口から出ていたらしい。危ない危ない、全裸で俺のイメージは失墜してるのだから、これ以上失墜させたら落ちるところまで落ちてしまう。見ろ、俺を不審者を見るような眼で見ているぞ。

これではいかん!


 「はぁ、またメクロ討伐ですか?」

 「いや討伐依頼じゃないな、ちょっと買い取りを頼みたくてな、」

 「貴重品が、見つかったから、ぜひギルドにとね」

 「はぁ、こんな短時間で見つかるモノなんてたかが知れてますけどね」


 「じゃあ、あっちの採取カウンターにお願いします」

 その言葉に俺は不覚を悟る記憶がよみがえる、俺が助けた少女は採取した薬草を別のカウンターで処理してもらったことを。


 「なに!?」


 このままでは、俺が受付嬢に感謝されて、名前を教えてもらう栄光の未来が……。いったいどうすれば?俺は考えた。考えた末に。


 「いや、ぜひ君にと」

 ごり押しした。

 「えぇ?なんかきもいんですけど」

 「ぐふぅっ!?」

 きもいという言葉に心に尋常ではないダメージを受けたが、俺はその場から動かず耐える。しばらくして受付嬢は、やれやれという感じに首を振ると

 「はぁ、まあいいですけどね、後からあっちへもっていけばいいだけですし、で、なにを取ってきたんです?短時間だからどうせ薬草でしょうけど」

 よかった、困ったらパワープレイに限る。あんま多用したらギルドの規則的にまずいが、一度くらいはいいだろう。次からは強い魔物の討伐依頼を受けたり、機械を倒して持ってこよう。


 「これを買い取ってくれないか?」

 俺は袋から取り出した白と青が混じった淡く光る水晶を見せつけるように掲げた。

俺は次にくる歓声を待った。ふふ、どうだい?ミスリルだよ

 俺を召喚したゼロディアの王都でも、限られた貴族しか所有を許されていない超貴重品だよ!こいつの価値、わかるだろ?さあ、俺を称賛せよ!歓声をあげるのだ。そして名前教えて!

 「こ、これはミスリル!?」

 だが、それは歓声でも好意の声でも彼女の名前でもなかった。

 「衛兵!この人を捕らえてください!」


 受付嬢の号令に従い、どこからともなく現れる鎧を着た男達。ギルドに常勤でもしてるのか!?

逃げる暇なく剣と槍を四方から隙間なくつきつけられる。

 「な、なにをする!?」

 俺の悲鳴に受付嬢はうつむいたまま、

 「ヤマダさん、あなたは全裸でしたが、悪人ではないと思っていました。そんなあなただからこそ、わざわざ

 倉庫のなかから、あまった服をめぐんであげたというのにあなたは

……やってはいけない犯罪を犯してしまったようですね」

 ちなみにヤマダは俺の偽名である。

 「受付嬢!違う、俺は……」

 「信じてたのに」

 彼女は、悲痛な顔で涙を流し始めた。突如涙を流す姿に思わず動揺してしまう。涙を流す受付嬢を見て、周囲の殺意が俺に集まる。


 「あの冒険者クソやろーだな、全裸のくせに」

 「女を騙すなんて最低、全裸のくせに」

 「変態で、全裸のくせに」

 なにか余計な言葉が多い気がするが、今はそんなことではなく目の前の誤解を解かないと。


 「違うんだ、信じてくれ受付嬢」

受付嬢は俺をうるんだ目でじっと見つめた。

 「ええ、信じましょう、目の前のこの結果を」

 「受付嬢ーッ!?」

 俺の悲痛な叫びに耳を貸すこともなく受付嬢は暗い顔でうつむき、呟きだす。

 「この近くでミスリル原石とれる場所なんてダンジョンか鉱山です。どちらも馬車か移動系スキルありで丸1日はかかる場所、それ以外なら領主様の屋敷くらいです」

 そこできっと顔を上げて、涙交じりに俺を睨む。

 「つまりあなた盗人ですね!?」


 「ご、誤解だ!これはもらったんだ!さっき領主の娘が襲われていたのを助けたら」


 「ルティア様が?……ふむ、そうですか」


 「衛兵、すいません、誤報でした、撤収~」

 今の一言で察することができたのか、受付嬢の号令に従い、俺をとりかこんでいた衛兵たちがその場から速やかに去っていく。一切の無駄口叩かず、乱れないすさまじい錬度と統率を感じる。こいつら戦闘のプロだよたぶん。


 「あんたなにもんだよ」


 「ただのギルドの看板受付嬢です」

 いつのまにか涙を綺麗に拭きとり、すまし顔で答える受付嬢に底知れないものを感じるぞ。


 「それで、誤解はとけたかな?」


 「ええ、どうやら誤解してしまったようですね、申し訳ありませんでした」

そういって頭をさげる受付嬢。


 「いや、いいんだよ間違えは誰にでもある」

 俺は男として寛大なところを見せる。そんな俺になぜか少し不安そうに受付嬢は声をかけてきた。


 「でもいいんですか?売っちゃって?」

 「どうしてそんなことを?」

 「だってルティアさんって、貴族ですし、自分が渡したもの、即その日のうちに売り払われたことを知ったらオーガのごとく怒る可能性が」

 ちなみにオーガは、鬼のような姿をした魔物である。

 俺の感想だと、倒せるオーガよりも貴族の方が怖いからあんまりぴんと来ないが。


 受付嬢は、腰に手をあて、声真似なのか尊大そうな態度でしゃべりだした。


 「『貴族の感謝の気持ちを金で売り払うなんて無礼極まる平民ね!ならせっかくだから、私はあなたの

心臓も高値で買いとってあげるわ!この剣でねッ!』とか『魔法でもいいわよッ!魔法なら火の魔法で骨まで買い取ってあげるから、お得よッ!?』とか言われません?」


 背が低いからか、かわいらしさはともかくあんまり威圧感は伝わってこなかったが言いたいことは伝わった。

 いかにも貴族のルティアが言いそうだが、幸い今回その心配はない。


 「いや本人が売り払えっていったんだ」


納得いったのか、テーブルの上に置いたミスリルの原石である

白と青が混じった淡く光る水晶のようなそれを指さす


「なら遠慮なく」


 そういってミスリルの原石を受け取り観察を始める。よく見れば受付嬢の瞳は瞳が青く光っていた。

鑑定系のスキルでも使用してるんだろうか?


 「ふむふむ、なかなかの密度ですね、コイツは中々、お支払いは、この額ですけど現金で?」


 あまり金額を口にするのは良くないと思ったのか、明細書をすっとテーブルの上から差し出される。受け取ってみてみると0がかなり多い。 俺を召還したゼロディアよりも随分高い気がするが、たぶん相場なのだろう。


 「口座に頼む」


 一度言ってみたかったんだ。

 「はいはい口座ですね」

 「それではまたのご利用をお待ちしております」

 「あの少しいいですか?」

 「なんですか?」

俺は意を決して言った。

 「あの、名前教えてくれませんか?」

 すると受付嬢は満面の笑みでこたえた。

 「まだいやです」

 むむ?まだとは少し答えが変わったな。まだ、つまりいつか答えてくれる気があるともとれる。

死んでから答えますよ、とかひねくれた答えじゃない限り、以前よりも印象が上がった可能性は高い。

いいだろう次の機会だ、次は大物とってきて、度肝を抜いてやる。そして名前を教えてもらおう。

 「そうですか、ありがとうございます、それじゃまた明日」

 「ええ、また明日ギルドで」

 

 俺はギルドに背を向け、宿に帰った。




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