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事情説明

 水色の髪をしたローブの子が提案した。

 が、断る。


 「すいませんが、俺の宿の食堂にしてくれませんか?」


 「あっ、はい。分かりました」


 怪訝な顔をしたが、受け入れてくれた。正直相手の薦める店で毒を入れられないか、部屋に細工されないかなど警戒してしまった。俺は確かにお人よしだが、疑っていないわけではない。だから、せめて短い時間とはいえ俺の知っている場所で食事をとることにした。


 宿屋のカウンターの横には、中々広い空間が広がっていた。山賊のようなゴツイ顔つきをして、胸にレザーアーマーのような鎧を着た男達が、豪快に食べ、飲んでいた。


 「おまえ、ブルーバードなんかで怪我したのかよ、バカだなぁ!」

 「勇者って御伽噺だろ?」

 「教会の使者がこの町に来ているらしい」

 「ところで今入ってきた2人かわいくね?」


 食堂では、何人かの女性や少女達が、木のトレイに載った食事や飲み物をせっせと運んでいて、その中には一際容姿の際立った少女もいた。注目を集めているのは、その少女だった。しかし、俺達が入って着た瞬間、注目のいくつかがこちらに集まった。


 お、落ち着かない。どうやら俺ではなく、俺が助けた二人の少女に注目が集まっているらしいが、それでも視線がこちらを向いているだけで緊張してしまう。2人はこうゆうのに慣れているのか、平然としている。がやがやと喧騒漂う中、俺達は自己紹介した。


 「私、シリア・リーキャスト一応神官です」

 

「私は、ルティア・フォーレンハルト、魔術師よ」

 水色の髪の子はシリアと、金髪の子はルティアと名乗った。俺も名乗ることにした。


 「俺の名前は、太郎 山田、剣士だ」

 偽名を


 「ヤマダ?聞いたことない苗字ね、貴族じゃないとしたら、もしかして商人?」


 「冒険者だけど」


 「あっ、そうなんだ。Gランクって、ずぶの素人でもないけど、6人の冒険者を倒せるほど強くないはずだけど?あと本当に剣士なの?」

 詮索が始まった。

 底意地の悪い回りくどい聞き方だ。


 しかし、目元が赤い。

 襲われて怖かっのだろうか?


 感性が素直である可能性があるなら、とりあえずほめてみるか。

 「貴方の魔術すごかったですね、私は魔術使えませんからうらやましいです」

 「あ、あ、あんなの……べ、別に凄くもなんともないわよ!!馬鹿じゃないの!?」

 言葉とは裏腹に頬が緩んでいた。


 分かりやすい子だ。

 「って、そんな言葉でごまかされないわよ。ヤマダ、さっきのあなたの姿、そんな誤魔化しで追求しないわけないでしょう!?イタッ!?」


 そこでルティアが頭に手を当てた。その背後には、なぜか眉毛を三角にして、かわいらしく怒っている青髪の少女の姿が。

 「めっ!」

 シリアが、可愛らしい顔で精一杯凄んでいた。迫力はちなみにあるはずもない。


 「質問攻めはだめですよ?ルティアさん。恩人なんですから」

 ふうとため息をつき、怒った顔を笑顔に変えて話すシリアは、見ていてとてもその笑顔に癒された。


 現代では苛められッ子で、幼馴染達は色々と酷いし、世話になっているとはいえ義理の家族も冷たい人ばかりだったからな、たまに会う実の妹だけが俺の癒しだったから、こいつは本当いやされる。


 教会関係者だという理由で疑っているのが申し訳なくなるほどだ。ただし、質問されてばかりなのでこちらも質問する。

 

 「聞いてもいいですか?なんで襲われてたんですか?」

 黙った。なにかヒトに聞かせたくない深い事情でもあるんだろう。

 「……わかりました」

 

 なら引き下がろう。こちらが下手に詮索して、さっきのことを蒸し返されてはたまらない

事情を理解した俺の様子にシリアは満面の笑顔だった。

 

 「それで、さっきの能力ってどこで手に入れたんですか?」

 俺の愛想スマイルにぴきりと皹が入る。

 シリアさんまさか。

 

 邪気がない笑顔でにこにこしているが、なんだかすごく苛立つ顔に見えてきたぞ。

 こうなれば、癒される云々など前言撤回だ。

 「え、えっと、シリアはちょっと世間ずれしてて、空気読めない子なの!!」

 慌ててルティアがフォローしだした。

 

 「く、空気が読めない!?」

 しかし、フォローどころか背中からだまし討ちする勢いだ。ショックを受けた表情で机に突っ伏すシリアさん。

 

な、なんてヤツだ。雑どころか、味方にまで凶悪なフォローを放ち、ルティアはこちらにどや顔をした。いや、できてないからルティアはなぜか誇らしげな顔をして、話す。

 

 「こういうのは、話すべきよ。シリア、ここまで巻き込んだんだし」

 意外にもルティアは、殊勝な態度だった。貴族の中でも恩を忘れない家系だったりするのかもしれない。


 まあ、そういう家でも些細なことで名誉が怪我された決闘だ!服が汚れたぞ無礼者!腕一本で勘弁してやるから、差し出せ!など言い出すことがあるから油断はできないのだが。

 

 シリアは、ルティアに諭されても、いまいち口がもごついているばかりで、話が進まなかった。


 「べ、別に話さなくてもいい空気でしたし」


 いや、確かに追及はやめたけどさ。

 「もういい私が話すわ」

 「ル、ルティアさんそれは」

 「助けられたなら、こちらの事情を話すのは最低元の礼儀でしょう、貴族として私はそれをする義務があるわ」


 戸惑うシリアを一瞥し、ルティアは俺に向かい礼をする

 「先ほどは、助けてくれてありがとうございました。この恩は必ず我が記憶に刻み、返すことを我が神に誓いましょう」

 

 そういってルティアは目の前でゆっくりと指先を反時計回りにくるりと回した。魔法陣でもないため、おそらくは機械神の習いかなにかなのだろう。

 「些細なものですが受け取ってください」


 そのまま紫色の袋に包まれたものを、差し出された。

 

 ふむ、これが例のブツ(ミスリルの原石)か。まあ、お礼だというのなら受け取っておこう。

 念のため、罠がないか十分注意しながら受けとる。ルティアは、にっこり笑うと2人が襲われていたときの事情を話し始めた。

 

 「おっほん、私とシリアは、ギルドの依頼「キラーマジシャン」の討伐依頼を受けてたんだけど、さっきのごろつきにからまれていたのよ」

 『キラーマジシャン』

 メクロとは違いランクが二つ上の機械だ。


 魔法使いを執拗に狙う特性を持ち、機械の中でもかなりの嫌われ者として有名だ。にしてもごろつきか、俺みたいな流れ者がいるわけだから外からの人間がいてもおかしくはないが……。

 

 「なんか変な場所に連れ込むか、誘拐してきそうな感じだったから、断ってたらいきなり切れてね、襲い掛かってきたってわけ」

 

 「貴族をわざわざ狙ってですか?」

 

 「あんたのいうことは、まあわかるわよ、でも私は、嫌われてるから街の住民は誰も助けなんて呼ばないわ」

 

 「住民たちは、衛兵に通報もしないんですか?」

 

 「しないわ」

 

 「そんなことしたら処罰の対象になるんじゃないですか?」

 

 「特別な事情があってね、この町の人間は、ある程度の私への無礼を許されているの」

深い事情があるのだろう。貴族見捨ててもいいとか、よっぽどの事情とみた。いずれにしても俺の場合はあまり役に立たなそうなルールだ。


 「最も外から来た奴は通常通り貴族の権利が使えるから変なことは考えないようにね、逆らったら無礼討ちなんだから」

 

 ぎろりと睨んでくる。へいへい。


 「そんな感じで私は領主だけど、嫌われ者だし、シリアは教会関係者だから私よりも嫌われてるの、この辺りは機械神の信仰が盛んで、魔法神なんてマイナーだから余計にね」

 

 言われてこの町の所属国家を思い出す。機械神を崇める国だったはずだ。名前は確か、ゲ、ゲイ……。なんだっけか?

 

 「そんな場所であなたみたいな機械神の加護クラスのモノ見せられたから、気にならないはずがないでしょ、周囲の人間の顔見てみなさい」


 俺は言われてみてみると、確かに周囲の俺を見る顔色が、ここに来た当初と違う。心なしか、目を輝かせ、どこか遠巻きにこちらを見るような、逆になんとなく近づきたいと考えて

いるような、そんな複雑な顔をしているものが多い。


 「あれは尊敬とか畏怖よ、機械神の信仰が根強いこの場所であなたのような人間は、神の使いにでも見えるんでしょうね」


 「メクロとかだって機械ではないですか?」


 「機械ならなんでもってわけじゃないわよ、機械神から逃げ出した子供のさらに眷属なんて人間の敵だし、人を導き、守り、救うっていう教義にも反しているから、メクロみたいなのは敵扱いは変わらないわ」

 そこで言葉を区切り、ルティアは俺をいたずらっ子のように右手で指さす。


 「あなたは、逆に正義の使者にでも見えるんじゃないかしらね」

 

 「んな馬鹿な」

 

 「助けたのが私達じゃなかったら、すぐ話しかけてきたんじゃないかしら?私達だからこの程度で済んでるけどね」

 

 「にしても」

 

 そこでシリアに振り返るルティア。

 

 「あんたは神殿に篭ってばかりで、外にも出ないから、空気もろくに区別を付けられないそんな天然になるのよ」

 

 「ひ、ひどい!?私だって、親に言われなきゃ、ギルドの受付とか、冒険者とかになってたのに、好きで神官になったわけじゃないのにぃ!」

 

 その言葉で周囲にいた人間の何人かがシリアを睨んだ。

 おそらくは、信者か教会に所属している人達。

 彼らはそれぞれどうにもならない状況に救いを求めて、一様に教会を妄信しているため、狂信的な信者になりやすい。


 もしここが、教会本部のある西方の首都であれば、今の発言だけで袋叩きになっているだろう。神官がいれば、その場で宗教裁判もありうる。

 

 だがそうはならない。なぜならここはどちらかと言えば反教会の人間が多い。

 機械神を崇める社の信者達のほうが圧倒的に多いのだ。

 

 まだこの世界については余り知らないが、それだけは散々教会の連中が言っていたから知っている。


 現在いるのが、二つに割れた大陸の一つ大陸アトリアの中でも大国に数えられる機械神を崇める国ゲイルアルク。


 そうだ、ここはゲイルアルクだ。思い出せば、実に早い。

 俺を召還した国が、強く敵視していた国の筆頭だったからいくつかの内容は、よく覚えている。ちなみにその国境街からいくつか街を超えたさきにある森林都市『オデラス』が俺が今いる場所の名前だ。

 

 そこまで多くないとはいえ、自分達が睨まれていることに気がついたルティアが慌てる。

 「バカ、そんなこと思っていてもいうなぁ!怖い人達に怒られるわよ!!」

 「ふぇっ?あれっ!?なんか回りに睨まれてるぅ~~!?」

 「今ごろ気がつかないでよ!?バカ!!」

 「なんで言ってくれないんですか!?」

 「それくらい気がつきなさいよ!」

 「うう、友達だと思ってたのに」

 「あんたねぇ!」

 なんだこいつら?

 

 いつのまにかお互いの服を掴んで取っ組み合いまでしている始末。

 頬を掴まれなみだ目のシリアや首をつかまれ、半ば意識が朦朧としているルティア。

 目魔麗しい2人の少女が責任の処遇を巡り、醜い争いをしているのを見ると、片方がとてもあの血の通わない 『教会』の人間とは思えなかった。

 

 それにしても今度もしシリアに会うことがあれば、ずばりと言ったほうがよさそうだな。



 「ぎゃー!!」

 「うーっ!!」

 宿屋の食堂で暴れまわった二人は、注文をとりに着た食堂のおばさんに注意され、なぜか俺まで頭を下げるハメになった。


 というか2人と話したくないのか、俺だけが怒られていた。納得できないものの、迷惑をかけたのは事実。

 謝った後、話し合った結果2人が喧嘩したせいでうやむやになった彼女達の話は、後日することになり、俺達は、明日、広場の噴水で会うことを決め、別れた。


 さて夕食の前にギルドに行ってこのミスリルの原石を売却してこよう。うまくすれば俺の功績が、うなぎのぼりであのちょっと態度が冷たい気がする受付嬢が感極まって俺に名前を教えてくれるかもしれないし。





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