助けただけでは済まない厄介ごと
「っ!?」
「あ、あんた……」
どこか驚いている2人に、背を向けて俺は去ろうとする。
「ま、待ちなさいよ!?『ウェイトン!』」
重い石が背中にのしかかってきたような重圧を感じた。
ぐぅ!?貴族得意の束縛魔法かぁ!?
俺の体は、重しの魔法のせいで、うまく身動きが取れなくなった。
そのまま近づいてきた少女の片割れは、俺の襟を決してニガサナイとでもいうかのように掴み、握りしめた。
「待ちなさいっていってるでしょ!?どうして逃げるのよ!!」
貴族だからだよ。
「その前に襟から手をはなしてください」
「襟?」
通じなかった。なるほどこちらにはシャツもスーツもない。
今少女に掴まれているのは、俺の服の首部分丁度裏側。
襟などこの世界の服にはないことを忘れていた。
言い直すことにした
「首が絞まるから服から手を離してください」
「あっ!?」
気がついた少女は慌てて手を放す。
息を整え、背後に顔を向けると、ちんまい少女が、腰に手の甲を当て、怒ったような顔で下からこちらを睨みつけていた。
「あんた、何者?」
どうやら警戒されているらしい。
面倒である。お腹もすいてきた。
そういえば、ここに来るまでに途中に村がない上に、追手を警戒していたから朝からなにも食っていない。その上朝にインテグラルを使用し、魔力が切れて少し回復してすぐ森でまたインテグラルを 使用したからカロリーもたくさん使った。
ギルドを出たとき、もともとあまりない魔力と熱量を限界まで使用して意識が朦朧としている状態で、さらに暴漢に襲われそうだった2人の少女達を、助けるために使ってしまった。
もはや俺の意識は冬の八甲田山。
寒いし、眠いし、お腹すきすぎて死にそうだった。
そのため思考が原始的になりつつある。
貴族の前なのに、
俺は、素直に言った。
「帰っていいですか?」
「だめ」
だめらしい。
うう、腹が減った。
「こんなアホ面、Gランクの冒険者にもいないぐらいなのに……」
なにやらぶつぶつ呟いている。
なにこれこわい、もしかしてネクラ?
「お腹空いたから帰っていいですか?」
「餓死しろ」
ひどい。
「あの……」
そこで俺はロリィな少女の後ろの存在に気がついた。
水色の髪を持つ温和そうな少女だ。よく見ると白いローブだが、銀色の十字の紋章が刻まれていた。
……教会関係者だ。
空腹で酔っていた気分が一瞬で冷めた。
それに気がつかず目の前の少女は俺に礼を述べた。
「助けてくれてありがとうございます」
「あ、ああ、ど、どどどどういたしまして……そ、それじゃッ!」
するといつのまにか前に回りこんでいたのか、ロリィな少女が俺の進行を遮った。
「礼儀がなってないわね、礼くらい最後まで素直に聞いてあげなさいよ」
「い、いや、もう聞きましたし、十分ですよ?」
「私の礼がいらないっていうの?あん?」
貴族怖い。
教会怖い。
目の前の少女も教会関係者なのか?そう考えると警戒してしまう。
教会、俺を召還した姫であり聖女のいる場所。
人のいい顔で近づいた司祭の男は、毒薬で実際俺を殺そうとしていたし、信者にも追いかけられた。
俺の召還された城にいる12の騎士団のうち二つある神殿騎士団の何人かにも散々命を狙われた。
信用できるはずもない。
それらに気がつかない振りをして話しかける。
「あのこの後ちょっと用事があるんですけど、ギルドの依頼とか」
「キャンセル料は私が払うから、キャンセルしなさい」
くそっ、簡単には逃げられないか。
「功績ポイントは」
「私が、ミスリルの原石をあなたにあげるわ、それを提出すればむしろプラスよ」
「ええ、でも一度受けた依頼を断るのは印象が」
「私がギルドに顔出してあげるわ、父親が知り合いだし」
ちくしょう、もしかして領主とかか?だとしたらどうしようもないかも。
「さっさと来なさい」
「は、はい」
俺は心細くなりおどおどする。
なんせ元苛められッ子だ。
視線と暴力の気配にはとても敏感。
「……」
気まずい間があいた。なぜだ?
仕方ないので、俺から聞く
「……どうしましょうか?」
「あっ、そうね、えっと……」
こいつもしかしてなにも考えていなかったのだろうか。
俺を引き留めることだけ考えてたのか。
これだから貴族は。
「あの、お礼したいので、食事でもどうですか?」
水色の髪をしたローブの子が提案したので、俺たちは食事にいくことになった。