少女救出
持っていたメクロをそこらへんに捨て
慌てて、そちらへ走っていくと、3体の緑色の小人に囲まれた茶色い髪の少女がいた。
「誰か、助けてェっ!」
少女が大声を上げるせいで、他の魔物が集まってくる気配がする。
くそっ、早めに討伐しないと面倒なことになりそうだっ!!
利得抜きに目の前で助けを求めている人がいれば、助けるように俺の体は、既に動いていた。
一番近くの緑色の小人の頭を掴み、近くの木に思い切りたたきつけた。
インテグラルを解いていない俺を見て、少女が悲鳴を上げた。
「ま、また化け物!?もうイヤぁ」
怯え、身を竦める少女には悪いが、俺には、事情を説明する暇はない。
「ゲェ!?」
「ギャッ」
ぐしゃりという音ともにさらに二匹息絶えているであろう光景を目にすることなく
「マシンガン」
音声と共に俺の両手に別の空間から呼び出された武器を、構える。
音もなく間近に迫った、少女を狙うこいつらとは別の二足のハンターに
シリンダーが高速回転し、銃声が森に響き渡る。
その轟音に思わず耳を押さえている少女に気が咎めながらも、銃を撃つのをやめない。
中々倒れない。
当たった瞬間倒れることなく、いまだ弾幕から逃げ出そうともがいている。
やはり存外しぶとい。
長く感じられる時間が終わる時
どさりと身を横たえた人の体ほどある小型の恐竜のようなものは、ラプターだった。
こいつは機械ではないが、強力な肉食の魔物だ。
硬い皮膚を散々に穴だらけにされ、毎秒数百発の攻撃についに身を横たえたのだろう。
背後に二つの気配を感じた。
少女に覆いかぶさるとガキンという音が背中から聞こえた。
「やめて!殺さないで!?」
ばたばたと俺から
逃れるように暴れる少女に仕方ないと思いながらも、心を鬼にして告げる。
「死にたくないなら、黙ってじっとしてろ」
「え、人の声?」
「聞こえなかったのか?次喋ったらその首を切り落とすぞ」
務めて冷たい言葉になるように言うと静かになる少女。
申し訳なさをを感じつつ、攻撃を失敗してこちらの様子を伺っている背後の二匹のラプターに銃口を向ける。
ばらまかれた弾丸は、かすりもしなかった。
同時に狙おうとしたのがまずかったのか、左右に逃げ出したラプターの真ん中を打ち抜く結果になる。
そのまま対角線上にお互いが来るようにしてぐるぐる俺と少女の周りを回る。
隙を見て、同時に襲い掛かるつもりなのだろう。
俺は、思案したが、答えが出る前にラプターは襲い掛かってきた。
がぱりと開いた鋭い爪は俺の下にいる少女を狙っている。
まったく同時、だからといって闇雲に両腕を出したくらいでは、当たらない。
ならば、引き付ける。当たる距離まで。
右側のラプターに手を向ける。
「パイルランサー」
マシンガンを消し、右手に現れたのは、丁度肘まである銀色のナックルに小さなディスプレイと腕ほどもある銀色の杭がついた武器。
ラプターの腹に狙いを定めて、打ち込む。
「charge……」
早口で紡いだ俺の言葉にナックルのディスプレイに無数の文字が浮かんでは消えて、白銀の杭が
青白く輝き始める。
地面を疾走する獣へと狙いを定め、タイミングをはかる。
必中距離まで引きつけなければいけない。
焦れる心を押さえつけて、集中する。
まだ、まだ……いまだ!!
「…shot!!」
頭の中で長い時間が、流れた後
ナックルにある銀色の四角い射出口から射出された巨大な杭が、ラプターの腹に深く突き刺さり、それでも動きを止めない杭は、なおも突き進む。
皮膚を食い破り、内臓をずたずたに突き刺し、まるで串刺しにするかのように杭がラプターを貫く。
その杭の後ろには、じゃらじゃらとした鎖が繋がっており、俺のナックルにつながっている。
目に見えるほどの電気の色を象徴する翠に近い青のマナをパイルバンカーは発し、ラプターの体がびくんびくんと震えた後、しばらくして動きを止めた。
「きゃあっ!?」
そちらへ目を向けるとラプターが少女の体に牙を向けているところだった。
俺に叶わないと見て、素早く少女を咥えようとしたのだろう
わずかな時間の間に少女の服にはいくつもの穴が開いており、激しく抵抗したのが見て取れた。
誰かに責められた覚えもないのに、怖くなった。
完全に守ることは中々出来ない。
体の震えを隠し、俺は腕をレプターの顔に伸ばす。
「ガアアッ!!」
掴まれたというのに、逃げずに牙をむきだしにして吼えてこちらを威嚇する。
こういうところは頭が悪い。
群れで狩りをしたり、1人だと思ってわざと孤立するような行動は取れても、しょせんはこの程度。
拳に力を込めていく。
「ガッ!?」
ワケがわからないという顔で、じたばたと爪や牙を振り回すラプター。
俺の足や腕にいくつかが掠める。しかし、その程度では、俺に傷一つ付かない。
あっけなく、ラプターの顔がへこみ、潰れる。
俺の手が痛い。限界を行使して使用すれば、ニンゲンの体は耐えられないということだ。
焼けるような痛み
それでもやめない。
「ぎゃ……ゃ……」
骨を砕き、なにかを潰すような音と共に、ラプターが動きを完全に止めた。
それをじっと見てみた。
無論動くとは思っていない。
当たりを見回す。レプターの血で染まった自分の赤い視界、涙を流しこちらを怯える目で見つめる少女。
「……」
遅れてぞわりとした悪寒が襲ってきた。
冷たくて、空しくて卒倒しそうになる。だが、ここにはまだ少女がいて、モンスターがいるかもしれない以上それはできなかった。
息を潜めて波が通り過ぎるのを待つ。
…………
「ふうっ」
しばらくして波が通り過ぎたのを確認して、ため息を吐く。
目の前のラプターに目を向ける。
もうこれはただのがらくただ。そう思わないとやってられない。
当たりを見回すと少女は既にいなかった。
おそらくもう逃げた後、もうどこへいったのか分からない。
「……帰るか」
討伐証明部位であるラプターの左右の一番大きい牙を抜きとる。
緑色の小人は正直よく分からないので放置。
戻ってメクロを丸ごと持ち上げ、俺は、森を出た。




