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決戦の地にて 魔法神の加護と本気の長谷部5 決着

ちょっと間が空きましたが、投稿します。

 俺は長谷部たちを警戒しながら、持っていたポーションをルティアに差し出す。



 「あなたにしては中々いいポーションね」




 「それおまえの家からとってきたものだからな」



 「どうりで」


 彼女がポーションを飲むと傷の幾つかがみるみるうちに消えていくのがわかった。


 息は荒いし、おそらく全快ではないものの、幾分か楽になったのがわかる。






 だが、さっきから体の痛みがひどい。


 エクストラコード『監視』とコード『ギア・アクセル』の同時使用。


 どうやらかなりの負荷が俺の体にかかっているのは間違いなさそうだ。


 使ってからそんなに時間がたっていないのに、もう体力は半分もないのがわかる。

  



 俺が行ったのは、強化に強化を重ねるようなもの。

 コード『ギア・アクセル』だけでも使用後に昏倒する程度には披露するというのに

 それ以上の負荷がかかるエクストラコード『監視』を使えば、それはわかりきった結末だ。


 だが、そうしなければとても長谷部達の相手はできなかっただろう。


 魔法役であるポーションは基本的に飲むか、傷口にかけることで怪我を為す効果がある。


 俺もできれば、ポーションを使いたいが、『インテグラル』を使用している今の俺は、ポーションを使用するための口も肌もないために使用できない。


 もちろん『インテグラル』を解除すれば、いいのだろうが、戦いが終わっていない今それは自殺行為だからこそ、このままいくしかない。。


 これには気体の毒や睡眠薬を吸わないというメリットもあるのだが、今のところデメリットが多い。


 できれば治したいのだが、『インテグラル』を改造なんてできないし、そういうコードがあることを祈ろう。


 「うーん、なんだか形勢が不利な気がするなぁ、長谷部さん、悪いけど、ぼくはそろそろお暇させてもらうね」


 「ちょ、ちょっと!?勝手に出てきて勝手に逃げるとか無責任ですよっ!?」


 「ごめんね、長谷部さん、なんかこうなる気もしていたから、さっきあらかじめ詠唱だけは完成させていたんだよ。今魔法を止めたら

、不発になるし、君の頼みは聞けないんだ。ああ、まあ生きてたら好きなものおごってあげるから許してほしいな」


 「裏切者ぉっ!!!」



 長谷部と漫才じみたやり取りをしながらも道明寺の体が透け始める。

 それにしても、こいつらに仲間意識というものはあんまりないようだ。

 とはいえ、逃がすのは癪だな。

 「マシンガン」

 手に現れた銃で道明寺を狙う。

 「『ブロック』」

 だが、俺の放った銃弾は、道明寺に当たる瞬間、なにかに弾かれるように地面に落ちていた。

 巨大な岩に激突したようなその反応。

 道明寺の防御魔法だろうか?

 あらかじめ詠唱していたのか、以前のような隙はなかった。

 だが、それだけではない。


 本来なら迎撃される前に俺は攻撃を命中させたはずだ。

 だが、俺の攻撃が相手の行動を予測できなかったために、道明寺の防御準備を見過ごしてしまった。


 タイミング的にはルティアが長谷部を迎撃している間だろう。

 あの光魔法は少し範囲が広すぎたし、ちょっとひやっとした。

 俺の意識が、少しの間逸れていたことも関係あるかもしれない。


 とはいえ、大部分は俺の予測が甘くなっているのだろう。

 つまり『監視』の効果が切れかかっている。

 ……決着を急がないといけないな。


 「そう何度も喰らってられないよ、弱点は克服しないとねっ、じゃあ、みなさんさよならだ」



 「逃がすと思ってるの?」


 地の底から響くようなルティアの声には決して逃がさないという強い意思を感じた。

 (もしかして、道明寺を足止めする方法があるのか?なら俺のやることは……)


 俺はルティアの様子をみながら、ゆっくり道明寺の様子を見ている足を止めた長谷部に近づいて行った。

 ルティアは満身創痍だが、眼光鋭く、道明寺を睨み付けたまま、右腕を掲げた。


 「『オーバレイ』」



 「いまなにをしたんだい?ま、どうでもいいか、空間跳躍(ワールド・ジャンプ)っと、……ん?あれッ?魔法が……発動しないッ!?」


 道明寺の姿は消えることもなくその場に残っていた。

 自身の魔法が発動しなかったことで道明寺は強くうろたえていた。


 「あんたの魔法をあんた自身の魔法で上書きしたのよ。相手の使う魔法を予測して、魔力を割り込ませる必要はあるけどね。あんた空間魔法の使い手なのに、使う魔法が、なぜか4種類くらいしかなかったから予測するのは簡単だったわ。ま、誰がどう見てもあんた『空間跳躍(ワールド・ジャンプ)』でゼロディアに逃げようとしたのはわかるから、関係ないかもしれないけどね?」


 「さて、じゃあ次は」


 いつのまにかルティアの右手が白銀の光を纏っていた。


 厳かな空気を纏い、いつのまにか目に金色の光が浮かんでいる。


 長谷部は自身を裏切ろうとしたからか道明寺を助けようとする様子はない。


 神々しいこの空気は俺が機械神から『インテグラル』を受け取った時に似ている気がした。


 「短距離転移(ショート・ジャンプ)物質転移(ディメンション・ワープ)』!『ブロック』!やめろ、ぼ、僕に何する気だ?」


 道明寺はその後も別の魔法でその場から逃げようとしたり、攻撃して気を逸らせようとしたが、どうやっているのか、ルティアにすべて魔法を予測され、阻止されてしまい、魔法の発動をできずに立ちすくんでいた。


 「このままじゃすぐ逃げちゃうでしょ?囚人なら鎖をつけないといけないもの」

 「鎖……っ!?」

 「我が掟に従え『マジック・シール』」

 ルティアが、道明寺の肩に手を触れると、銀色の光が、3度強く光った後、道明寺の体の中に吸い込まれていった。


 「よし、これであんたは私の魔力が、あんた以下になるか、私の許可なしに魔法は使えないわ」


 「そ、そんな、……嘘だろ!?」

 「へへーん、私を裏切るから罰が当たったんですよーっだ!」

 「……はは、いやそんなこと言っている場合じゃないだろ、これ、君もピンチじゃないの?」


 「まあ、私は風で逃げさせてもらいますね、貴方と違って転移ばかりには頼らないし、私の使う風の移動魔法はたくさんあるから予測されにく……っ!?」


 長谷部は近づいていた俺に構わず、俺の真横を自身に纏わせた風で一気に抜けようとしたが、すんでのところで左腕のガントレットが彼女の一部に触れる。

 「はぁ、……おいおい、……随分……早い、帰りじゃないか、もう少し、遊んで行けよ」


 「いたっ!?ぐうう!そ、そんな息切れして疲れてるなら私なんかにかまわず、寝てください、ついでに私を見逃してくださいよぉ!」


 長谷部が発生させた風を一部左腕の『対魔装甲』で破壊し、その結果体勢が崩れた長谷部が、地面に激突。

風でふわりと浮き上がったため、ダメージは少なそうだが、移動は潰せた。


 長谷部の移動魔法は全身を覆い始めて成立する。


 本当なら一部でも発動するのだが、その場合防御力の不安や咄嗟の方向転換ができなくなるためだろう。


 これは長谷部の強い面でもあるが、弱い面もである。


 なぜなら彼女の風の移動魔法は、その一部でも破壊されると移動方向が狂い、本来の効力を発揮しなくなる。


 加えて言うなら、今の俺にとってその移動先を予測することは難しくない。


 「どうしてですか?なんでそっちの攻撃が急に私に通るようになったんですかもう!」


 正直俺が、エクストラコードという反則技を使っているからだろうな。対魔法防御の『対魔装甲』があるのも大きい。


 さらにいうなら長谷部の戦い方がまだ未熟なのもあるだろう。


 接近するまでが難だが、こいつ余裕かまして道明寺のことを嘲笑ったまま、その場から移動もせず、風の障壁を展開していただけだったから、エクストラコードの『監視』を使う前ならともかく、今なら防御が薄いとこを見抜いて破壊できるから、比較的楽なんだろう。


 本来の風の障壁は、おそらく密度を自由に変化できる。

 だが、長谷部の風魔法の使い方は、吹き荒れる台風の眼のように粗が目立つのだ。


 今までこんな天災のような魔法を使っていたのなら、もしかしたら敵になる相手がいなかったのかもしれない


 長谷部の風魔法は確かに強力だ。本気を出した長谷部の操る風は台風のように規模も大きい。


 だが、その巨大な規模に反して、一部の風を消すことで長谷部の風の効力は半減する。


 自然現象の風ではなく、魔法の風であることも関係しているが、連なる風の一部が途切れることで長谷部の操る台風は、ただの風になりはてるのだ。


 「よしヤマダ、私がそっちいくまでそいつ抑えときなさいよっ!」


 ルティアが手を再度銀色に光らせながら、こちらに向かってくるのがわかった。

 よし、このままこいつを逃がさないようにしないとな!


 「ちょ、どいてください」


 「はぁはぁ……つれないな、もっとここにいろよ」

 やばい、スタミナ切れてきた。

 目も本格的にかすんできたし、ルティアが来るまでもつのか、これは?


 いや、もつかどうかは関係ないな。やるしかない。

 もうこいつで最後なんだから。


 「どいてってばっ!!」

 長谷部は俺に対して風を起こして吹き飛ばそうとするが、咄嗟に振るった左腕ですぐに消滅させる。

 「なんて、バッカですね、あなた飛べないんでしょ……痛っ!?」


 長谷部はそれは囮ですよっ!といわんばかりに

 右、左と素早く動いた後、

 素早く自身に風を纏わせたまま、上空に飛び上が……

 「あがっ!?」

 「馬鹿はおまえだな」

 ……ろうとしていた長谷部を『対魔装甲』のガントレットで叩き落す


 エクストラコード『監視』を使用している俺にとって相手の行動を予測し、その逃げ道をつぶすのは造作もないことだ。


 長谷部は頭を直接殴られたために、地面にうずくまっていた。


 「うー、頭がんがんする、たんこぶできたらどうするんですかーっ!?」


 思ったより頑丈だな。

 『インテグラル』にコード『ギア・アクセル』を使用している俺の打撃は、一般人なら軽く骨折する程度には強力だ。

 いま長谷部を拳で思い切り殴った。

 にもかかわらず、長谷部は頭にたんこぶができた程度の反応しかしていない

 長谷部の肉体強度は一般人というほどもろくもなさそうだ。


 正直長谷部が今全身傷だらけなのは、ほとんどルティアとの戦いで受けたものだ。

 いま逃せば、こいつは確実に脅威になる。

 右腕にあるマシンガンを長谷部に向けて素早く引き金を引く。

 この距離なら

 「うわっとぉ!」

 だが、その場で真横に転がることで長谷部は、銃弾をなんとか回避した。

 風魔法に頼り切りと思っていたが、身のこなしは意外に悪くないようだ。


 「しぶといな」


 「うおお、こんなところでやられる私じゃないんですからっ!こうなったらクラスの皆呼んで無能君を血祭りにあげてやりますからねぇぇぇ!!」


 その中には俺を殺そうとした幼馴染もいるだろう。

 ならなおさら逃がせないな!


 「アイルビーバァァッ!」

 奇声をあげながら、長谷部は倒れたまま、自身の足のみに風を発生させようとしている。

 自身の安全をかなぐり捨てた移動魔法だ。

 下手をすれば骨折では済まないだろうに、よほど俺から逃げたいらしいな!


 とはいえあいにくその風は、俺のガントレットでは届かない位置にある。つまりこのままでは、魔法を消せなない。

 ――ならば!


 「ァっッくふんぎゅ!?」

        ・・・・・・・・・ 

 長谷部の顔面をその前に踏みつける。


 俺の足に踏みつぶされ、長谷部は蛙がつぶれた時のような奇妙な声をあげる。

 いいざまだ。

 女の子を足で踏んでいるというのにさんざん命を狙われたからか、まったく罪悪感を感じないな。


 そこでやっと俺に踏まれて動けない長谷部の頭をルティアがその手でタッチする。

 「我が掟に従え『マジック・シール』」

長谷部の体を覆うように銀色の光が、3度強く光った後、彼女の体に吸い込まれていく。

しばらく待って様子を見ていたが、長谷部のまとっていた風ももう発動する気配がなさそうだ。


 「お、乙女の顔を踏みつけるなんて、あ、あなた鬼ですかっっ!?」


 「ん?乙女?」


 「ちょ、なんで疑問形なんですかっ!?あっ、やめてっ!?踏むの強くしないでッ!?」


 もういいだろうか?

               ・・・・・

 勝ったと言えるかは微妙だが、もう限界だ。


 「エクストラコード『リセット』」


 効果が切れかかっていたとはいえ、冴えていたあの予測じみた感覚も、情報の海も最初からなにもな かったかのように視界から消えていく。


 いつのまにそこにあったのか、『サリアの目』である青い宝石が、俺の手にあった。

 だが、疲労困憊の上に『インテグラル』で身体強化していない俺にとって子供の頭ほどもあるそれは重すぎて、地面に落としてしまう。


 ごとんと音を立て、青い宝石が地面に落ちる。


 悪いなサリア、そこで俺の気力が途切れたかのように、地面に倒れこんでいた。


 「ヤマダ!?」


 「大丈夫だ、少し死にそう……なくらいに……疲れただけだ」

 「そ、そう」

 急に倒れた俺に驚いたルティアが声をかけるが、

 俺がちゃんと返事したことでルティアは、安堵したのだろう。


 ふぅ、もう手足の一本も動かない。

 我ながら、情けないな。


 「ちょっとそこの鬼畜無能、聞いてるんですかっ!?乙女の顔に傷がついたらどうしてくれるんですかっ!?おいこら、きけぇぇっ!!」


 長谷部はうっとうしいし、俺はこのていたらく。


 とはいえ、助けに来ておいて、倒れるとはしまらないが、これが俺の限界。

 体中が痛いし、頭もエクストラコード『監視』使用のときよりマシとはいえ今もかなり痛い。

正直『ギア・アクセル』の非じゃない痛みだ。これたぶん1日や2日で治らないだろうな。


 マジシャンキラーの報酬もまだだし、報酬奮発してくれるらしいから、たぶん宿代は大丈夫だと思うが。

そう考えながら、ぼんやりとしていると


 遠くから巨大ななにかが近づいてくる音が聞こえた。


 「な、なんだ?」


 まさかまた敵か?と警戒したが、

 首をなんとか音の方角に向けると、町の方角から向かってくる巨体が目に入った。


 「あれは……」

 まだ森が残っている場所の木々が踏みつぶされ、地響きがここまで伝わってくる。


 3本の足という特異な外見にひたすら砲身をとりつけたようなあの機械には見覚えがあった。


 あれは初日に俺が見かけた赤い人型魔道兵器『マギア・ロギア』か?


 「迎えが来たみたいね」


 「そうか」


 ルティアは、気が抜けたのかその場で倒れた。


 「ル、ルティア、大丈夫か!?」

 「大丈夫よ、正直私も死にそうだけど、シリアに回復魔法使ってもらえばすぐ直るわ」


 彼女は、血まみれということもあり、一瞬死んでしまったのかと思いかなり慌てたが、彼女の声が聞こえたので、安堵した。


 倒れたまま、彼女は、そのまま話し始める。


 「これでも子供のころは深窓の美少女とかいわれたのよ?運動とか戦闘は専門外、正直魔法ぶっ放す以外の役割は期待しないでほしいわ、まったく」


 普段強気な態度が目立つ彼女だが、今回はさすがに堪えたのだろうか?

 なんだか、そっぽを向いて彼女らしくもなくすねたような声をあげている。


 「そ、そうか、意外だな」


 「はぁ、今回は、命を助けられたからってことで、貴方のために、少し人肌脱いであげようとおもったのに、……」


 「……また、助けられちゃったわね」


 苦笑を浮かべるルティアは、また借りが増えてしまったと思っているのだろうか。


 「いや、俺の方こそおまえがいなかったら長谷部達は倒せなかった。ありがとう」

 「そう?ま、私魔法だけは、ほとんどの人に子供の時から悪魔じみてるって言われてるから、多少はね」


 確かに彼女の魔法はすごい。

 悪魔じみてる威力なのは俺も当たりそうになったから体感したしな。


 そうやって俺達2人とも地面に横になりながら話している間、いつのまにか離れてていた長谷部と離れた場所でひそひそと話している声が聞こえた。


 「ねぇねぇ、いまもしかしてチャンスじゃないですか?」

 「いや、どうかなぁ?瀕死には見えるけど、僕らいま魔法使えないし、逃げても魔物や機械も相手にできないから、微妙だと思うんだけど」


 だが、ルティアにはその二人の声が聞こえたらしい。


 そのままいま俺と話しているときのような柔らかい声ではなく、俺と最初に会った時のようなあの時のように威圧を込めて、二人に釘を刺していた。


 「私は、動けなくても、あんたらに攻撃魔法くらいは使えるから動くんじゃないわよ。もし、動いたら二人ともその場で公開処刑よッ!」


 その言葉に嘘だという響きはない。

 高位の貴族にも劣らぬ強い傲慢さと強引さは必ずそうしてやるという熱があった。


 聞いている俺でも怖くなるような底知れない静かな怒りだ。

 だからこそ、それを見せられた二人は、否ということはなく


 「「は、はいい!!」」


 きっと、そう言うしかなかったのだろう。


 「はぁ、まだ私は起きてないといけないみたいね、血が足りないし、ほんとに死にそうなのにね」


 「すまないな」


 「いいわ、ヤマダは、がんばってくれたしね」

 この期に及んでなんだが、ヤマダって偽名なんだよな。

 今はともかく、ここまで助けてもらったんだし、ルティアには、そろそろ本名くらい後で教えてもいいかもしれないな。


 「でもね、ちょっと頼みがあるの、聞いてくれる?」

 なんだろうか?


 「私は、迎えがちゃんとここに来るまで起きていないといけないの、だから、ね?」

 そこで言葉が途切れ、ルティアの顔が不安に歪む。

 まるで断られるのを怖がっているかのようなその表情は、彼女らしくない。


 ぐむむ、なんだかいつもよりかわいく見えるな

 どうしてだ?お互い瀕死で弱ってるからか?

 「……手をつないでくれる?」


 そういわれてもな、今の俺の体は瀕死なんだよ。


 「すまん」


 「だめ?」


 そんな泣きそうな声で言わないでくれよ。


 「いや、だめじゃない、そうじゃなくてだな」


 「腕動かないんだよ、だから、ルティアが握ってくれないか?」


 「私も動かないの」

 ほう、じゃあ、仕方ないな。


 「……」

 「……」

 居心地の悪い沈黙が続く。


 この沈黙いつまで続くんだ……?。

 「だめ?」

 え?どういうこと?

 「俺も腕動かないんだが」

 「私も動かないの」

 「だめ?」

 いやどうしろと?

 「だめ?」

 「いやだから」

 「だ・め?」

 そんなかわいらしく上目遣いで小首かしげられてもな。

 俺がとにかくがんばって握れと?


 くっ、なんでわがままお嬢様だ。

 俺は握れないって言ってるのに、頼むとか、さすが貴族というべきか。


 だが、貴族の頼みというにはかなり小さいささやかなものだ。

 今回は俺も世話になったし、それくらいはかなえてやりたいと思うのも事実。


 腕の感覚を確かめる。

 少し休んだからか、少しぐらいならなんとか動きそうだ。

 この位置からだと近いのは、彼女の左手だな。


 俺は力を入れてルティアの左手の方へ少しずつ腕を伸ばしていく

 「あっ……」


 握るときは苦労したが、ルティア自身もほんの少しだけ手を近づけてくれたので、なんとか彼女の手を 握ることができた。

 ルティアの手は彼女自身小柄だからか、握ればたやすく折れそうなほど細くて、小さく温かかった。


 「ふふ」

 彼女は、俺が手を握ってやると微笑した。

 2人とも瀕死だけど、こういうのも悪くないな。


 そのまま俺はルティアの呼んだ迎えが来るまで彼女の手を握っていたのだった。







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