クラッシャーと決戦の地
あのあと、俺は宿屋の一室で再度一人戻ってきたシリアの看病を受けていた。
「病人は素直に休んでください」
ぽんぽんと布団を叩いて乗せるシリアの手つきは優しい。
が、俺が外に出ようとするそぶりを見せると必ず妨害するのだ。
しかも
「無理したっていいことないですよ~」
「ルティアさんは魔法なしだと役立たずですけど、魔法を本気で使いだしたらめちゃくちゃ強いんですから、ヤマダさんなんて
たぶん瞬きの間に倒されちゃってますよ」
「瞬きの間に倒れるヤマダさんがルティアさんのなにを助けるっていうんです?むりむりむりですよ、駆けつけた時、闘いが終わるか、駆けつける前に敵に
倒されるだけですって、雑魚は雑魚らしく隅でじっとしていてください」
これら精神攻撃とでもいうべきレベルでで繰り出される罵倒である。
俺が、病人だというのならこいつ、言葉に容赦がなさすぎるだろ
「雑魚は雑魚らしくのんびり日々を雑魚っぽく雑魚のようにのんびりとした気持ちで、
雑魚雑魚っと鳴きながら謳歌していればいいんです!」
うおぉぉ!
やめろ、俺を雑魚というな!
ていうかなんだよ、雑魚雑魚っと鳴きながら謳歌って、俺はどんな生き物だよ。侮辱されているのはわかるが、造語まで作って侮辱はやめてくれ!
うう、確かに昨日は長谷部の最初の大魔法はルティアの防御魔法に頼りっきりとそれとなく情けない片鱗は見せてしまったけどさ。
「そういうおまえだって気絶していただろう?」
「私いわゆるヒーラーですよ、か弱いんですから仕方ないですもん」
か弱い云々は素直にうなずけないが、確かに前線で戦うタイプじゃないのは確かだ。
だがな、シリアよ。
こうあんまり雑魚雑魚いわれると泣きそうになるんだよ。
頼むからやめてくれ。
「ほら、そんな顔をして、疲れてるんですよ。だからゆっくり休んで、休んでくださいよ」
いや原因はお前の言葉なんだがな
「今日あれだけムリしたんですから、休養をはしっかりとらないと、私の目が、輝いているうちは、今日も明日も抜け出すなんて許しませんからね」
まずい、このままでは……
そう思っていてもシリアの看病らしきものは続き、ついには、そのままシリアの下手な子守歌を効かされる羽目になり、俺はとりあえずそれに対して寝たふりをすることにした。
眼がさめた。
いかん、少し寝ていたか。
外を見てみるとまだ夜は明けていないようだが、もう次の日にはなっている。
長谷部が来ると宣言した今日にはもうなっている。
くそっ、このままじゃ。
「……」
「……」
ん?
静かすぎることに疑問を感じ、俺はふとシリアのいた方向を見てみた。
「zzzzzzz~」
いつのまにかシリアは寝ていた。
俺は納得するようにうなずき、俺がかぶせられていた布団をシリアの肩にかけてやる。
「ふむ」
サリアもいつのまにか布団をかぶり、ぐっすり寝ている。
疲れていたのだろう。
俺は紳士だから、2人ともゆっくり寝かせてあげよう。
俺は手にサリアの眼である青い宝石が入っている袋を持ち、こっそりと宿を抜け出した。
まだ夜明けだからか、人は少ない。
にしてもルティアはどこだろう?
いや、ひとまずギルドで情報を得るのもいいかもしれない。
ルティアならギルドに対してあれこれ理由をつけて下位ランクの立ち入り禁止をしている場所があるかもしれない。
もしそんな場所があるなら、そこが怪しいだろうし。
「むぅっ!?貴様は昨日の全裸の変態……」
振り返ると、赤い髪の鎧をきた女性が、立っていた。
「え?誰?」
「くっ、覚えていないのか、まあいい、貴様は、外国から来たらしいしな、この国の文化にも疎いのだろう、今は服を着ているようだし、
許してやる」
「あ、ありがとうございます」
くそっ、俺の初日の姿はまだ尾を引いているのか。
でも問題はない。
宿のおにいさんに注意されていたし、いまはがっちり服を着ているからな。
「ええと、仕事の帰りですか?」
「ああ、少し前にDランクの機械『クラッシャー』が出現して商隊を襲っていたと聞いてな、人型魔道兵器の操縦士でもある私は、
出撃していた」
「倒したんですか?」
「いや、残念ながら逃げられてしまった、探したのだがなみつからなかった」
機械『クラッシャー』は、極めて攻撃的な機械といわれている。
物も人も区別なく破壊することからつけられた。
その戦いのさまは、とにかくなにもかもを壊していく。
貴族殺し(マジシャンキラー)のように、隠密性能はないものの
動きも早く、武装も近距離、遠距離問わず様々なものを持っていて
破壊力も鋭さも凄まじいものを秘めている。
さらに言えば、個体によっては町ひとつを更地にしてしまうほどの火力があるために、決して油断などできない。
『クラッシャー』は、Dランクの機械である。
Dランクともなれば、人型魔道兵器に匹敵する戦闘力だ。
全てではないが、攻撃の中には、建物を吹っ飛ばす威力のようなものも存在するため、、当然並の人間が挑むような相手ではない。
冒険者でもあってもだ。
下位ランクはおろか、ベテランでパーティを組んでいても倒せるものは限られる。
仮にパーティを組んでも倒せるのは一流の冒険者たちだけだ。
俺は、この町に来る前に見たあの人型魔道兵器を思い出す。
3本の足に無数の棒がくっついたような無骨な姿だった。
明らかに砲撃に特化していたため、近接戦闘は苦手かもしれない。
近接戦闘が苦手なら、『クラッシャー』に後れをとってしまうことも考えられる。
だが、砲撃に特化しているなら、遠距離戦闘は得意分野。
ましてや『クラッシャー』に隠密能力はない、逃げていくにしても向かってくるにしても的になる。
まだあの人型魔道兵器の砲撃自体見ていないが、ゼロディアで何度か人型魔道兵器の砲撃自体は見ている。
・・
上級魔法に匹敵する砲撃であるあれを何発も受けては、ほとんどの魔物はひとたまりもないし、
Dランクでも軽傷ではすまないだろう。
ただ商隊を襲っていたらしいから、立ち回り次第では後れを取ることは考えられる。
例えば、商隊を盾にするように動き回られたら人型魔道兵器の砲撃も控えるしかないだろう。
「これからギルドに緊急警戒令を出すつもりだ、悪いが、森の中に入るのは今はまずいので、しばらく立ち入りを禁止する。
この町の冒険者で『クラッシャー』を討伐できるものはいないからな」
森の魔物や機械を倒して生計を立てている冒険者には大打撃だろうな。
ん?今森にDランクの機械の『クラッシャー』がいる?
ルティアがどこかで戦っている間に、乱入してくる可能性もあるんじゃないのか?
それはかなり拙い話だ。
「おい、どうした?」
操縦の女性が俺に声をかけてくるが、俺はそれどころではなかった。
長谷部は今日俺の命を狙いに来ると言っていたが、まだきてはいない。
朝日が昇ってからだろうか?
・・・・・・・・
いや、そうとは限らないはずだ。
長谷部の分身を用いた昨日の戦い方を考えれば、あいつは用心深いことがわかる。
そんなやつが正々堂々朝や昼になってから襲ってくるとは考えづらい。
ならあれほど自信満々にいったルティアがそのことを考えていないとも思えない。
ルティアには長谷部の動きを捉える方法か策があるのかもしれない
それがなにかは俺にはまだわからない。
だが、ある程度の推測は立てられる。
長谷部が仮に昨日ゼロディアから直接分身を転移させてきたなら、今日もゼロディアのある方角の森を抜けて俺のもとへ飛んでくるはず。
もし転移を見るもしくは攻撃できるのならゼロディアとこの町の間にある場所が怪しい。
その場所で待ち構え、何らかの方法でルティアが長谷部を捉え、迎撃するのだろう。
他の場所に転移してさらにこちらに転移してくる場合は意味がない仮定だ。
だが、長谷部が転移してくる時の一応の目安にはなる。
俺はここまで逃げてきた。
だからゼロディアの方角も分かる。
俺はその方向に振り向き、眺めた。
それは丁度俺達が昨日貴族殺し(マジシャンキラー)を討伐した森の方角だ。
俺の考えが確かならそこにルティアがいて、長谷部を待ち構えているはずだ。
「おい、貴様どこへ行く!ギルドに行くのではないのか?」
「ちょっと森に」
「こんな朝日も登らないうちにだとっ!?悪いことは言わない、やめておけ、それにいま緊急警戒令をだすといっただろ!緊急警戒令がでてしまえば、
門も閉められるから、しばらくこの町に入れなくなるんだぞっ!おいっ!こらっ……!」
声がどんどん後ろに遠ざかっていく。
相手も一刻も早くギルドに行く必要があるからか、本気で追う気はないらしい。
人が少ないため、門には割と早くたどり着けた。
俺は門の前に眠そうに立っている男に近づいていく。
「ん?こんな朝早くに森か?」
「ああ、ちょっと森で依頼があってな」
「そういえば領主の娘さんもさっきこの門を通っていったな、なんだあんた?もしかして貴族のお守りってやつか?」
「はは、まあそんなもんです」
「まじかよ、こんな時間になぁ、……あんたも仕事とはいえ、若いのに大変だ」
なぜか同情するような目を向けられ、それに内心困惑しながら、俺は門番の男の態度に適当にあわせるうちに門が明けられる。
そのままあっさり門を抜けることに成功し倒れは森に入ってしばらくして、『インテグラル』を使用する。
白銀の装甲が身を包み、俺の走る速度がぐんと上がる。
静かな森の中、空気を震わせるような轟音が遠くで響いていた。
今まで聞いたことのないような地面そのものが揺れるかのようなとてつもない轟音。
森の奥がざわめいているような、木々の向こうから聞こえるその爆撃のような音はなにものかが戦っている証拠だ。
いる、たぶんこのずっとさきに『ルティア』『クラッシャー』『長谷部』の3人のうちの二人か3人が。
もしその中に『ルティア』がいるのだとしたら俺がじっとしていい道理はない。
俺は、より一層奔る速度をあげる。
木の枝や蟲は当たっても、『インテグラル』を使う俺に支障はない。
ついでに小型の魔物を何体か、蹴り飛ばし、倒木を飛び越えて森の中を疾走していく。
音はどんどん大きくなってきている。
まだ戦いは続いているんだ。。
「ルティア……無理矢理抜け出してきた俺が言うものじゃないのかもしれないが、頼むから、無事でいてくれ」
――決戦の地は近い。
遅くなりましたが、「インテグラル」最新話「クラッシャーと決戦の地」を投稿しました。
この話でプロローグに出てきていた人型魔道兵器の操縦士の人がちらりと出てくるんですが、印象が薄いと思うので、幕間という形で
短いですが、とある姉妹の話を10話の後あたりに今日投稿する予定です。




