貴族殺し(マジシャンキラー)討伐戦闘 2
「俺より二人の方が早いな……」
ルティアも貴族殺し(マジシャンキラー)も俺より早く動いている。
速度では追いつかない、
もし変えられるなら、闘い方を変えた方がいい。
そう考えつつも、今はその選択肢を持てないために必死に追いかけるしかない。
スラスターを噴かせながら、地面からわずかに足を浮かせたまま、『貴族殺し(マジシャンキラー)』は接近していく。
「コード『インビジブル』使用します」
コード?俺のインテグラルと同じような奴か?だとしたらスキルのようなものだ。
何をされる?
不吉な予感を感じているとついさっまで見えていた貴族殺し(マジシャンキラー)の姿が消えていた!
スラスターの駆動音までも消えている
厄介だな。
「っ!」
これではどこから攻めてくるかわからないじゃないか。
このままじゃ、ルティアが……。
「いや、まだだっ!」
ここでルティアを死なせるわけにはいかない。
貴族を見ごろしにしてしまえば、俺はこの国にはいられなくなる。
そんなのはごめんだ!
・・
俺の考えたこれは、少々部の悪い戦法だが、試す価値はある
「ルティアこっちに向かって魔法で走れ!ルオス、フォローはまかせた!」
あいつは魔法使いを狙っている。
俺のタックルを無条件で受けたことからも
そこには賢さの欠片もない。
・・・・・
ルティアの背後から追ってきているのなら、そこにいるはずだ。
一応俺が失敗した時のためにルオスにフォローを頼んだが、
ルオスが助けてくれる保証などない。
俺がやらなければ。
「パイルランサー」
移動魔法の緑色の燐光を纏い走ってくるルティアを視界に収めつつ、俺はその時を待った。
「はっはっ……」
かすかな少女の荒い息遣いが不思議とよく聞こえた。
「……charge(充填開始)」
鋼鉄に包まれた右腕の甲が青白い輝きとともに帯電を始める。
近寄ってきていた足音に左腕を伸ばし、ルティアを抱き寄せる。
「ちょ!あんた無礼でしょ……っ!?」
抱きとめた体は、意外に華奢で柔らかい感触がした。
「マシンガン」
「きゃあっ!」
左腕に現れた銃器に可愛らしい声で驚くルティアを尻目に銃のシリンダーを全開で回しながら、前方に無数の弾丸をばらまいていく。
すると ・・・・・・・・・・
宙に撃つと弾かれる音ともに、壁にぶつかったように何度も何度も弾かれた。
・・・
俺はその壁に照準を合わせるように右腕をずらす。
見当が付いたので、さらにコード『鑑定眼』を使用する。
俺の目にはなんの反応もない
コード『鑑定眼』が弾かれたのだ。
なら貴族殺し(マジシャンキラー)が弾いた可能性が高い
コード『鑑定眼』には、人や魔物だけでなく、物を解析する効果もある。
ならば普段と違い解析できなくなったとき、俺の視線の先にはいる可能性が高い。
やはり相手は移動し続けている。さきほどより
銃弾を撃った時より上を飛行しているのだろう。
俺はコードを使用し続け、木や空の表示がウィンドウに出るたびに目線を移動し続けた。
マシンガンの銃弾はいくら撃っても疲れないが、
コードの連続使用のせいで、体が疲労を訴える。
解析され続けたせいでウィンドウには何度も表示される文字群。
そのたびに相手を捕らえるためにコードを使用するせいで、眩みそうになる視界を必死に保持する。
移動し続ける相手に必死に視界を向け続けるよう腐心する。
やがて相手は一直線に上空からルティアに接近してくるのがわかった。。
よし、照準はこれでいいはずだ。
直前で避けられては元も子もない。
ぎりぎりまで引き付けないといけない。
相手のターゲット(ルティア)は俺の腕の中にいる。
確かめるか。
俺は、跳弾から守るためにルティアの身を俺の上半身で覆い、コードが弾かれる方向に再度銃弾を撃ち込む。
「っ!」
覆いかぶさった体にわずかに当たる胸の感触は柔らかく、かすかに香水のような果実に似た甘い香りもした。
当然、突然覆いかぶさってきた俺にルティアが驚く声が聞こえたが、いまはそれに構っている暇はない。
俺が、前方を注視していると、甲高い音ともに火花が散り、銃弾が至近距離で弾かれ、跳ねまわり、俺の頬をかすめていく。
衝撃で痛いが、インテグラル(外殻装甲)のおかげで傷一つない。
よし、弾かれた銃弾で、相手の距離が近いことはわかったぞ!
ここしかない!
俺は、右腕を相手に向け、
「……shot(撃て)」
次の瞬間、紫電に包まれた渾身の一撃が右腕が高速で放たれた。
放たれた一撃は、宙のなにもないように見える一点を貫き、一瞬のち甲高い破砕音を響かせた。
景色に紫電が混じり、はじけるような音ともに火花が散り広がる。
ついで金属片のようなものが地面に落ちてばらまかれる。
景色が歪みはじめたかと思えば、すぐ目の前に上半身に大穴が開いたボロボロの様子の貴族殺し(マジシャンキラー)が現れた。
「殺害……する、殺害……す……る、貴……族はすべて……殺……害す……」
致命的な損傷だったのか、その動きは鈍くいつとまっておかしくない。
なのに、それでもなお俺とルティアに向かって足を引きずるように向かってくる様はすさまじい執念のようなものを感じさせた。
「殺害、さつ、が、いイイイ、マホウ……ツカイ、キゾク……ハ、ミナゴロ……シ」
覚束ない足取りの貴族殺し(マジシャンキラー)は、まだルティアを殺すことを諦めてはいないのだろう。
だが、もう終わりだ。
「パイルランサー」
俺の右腕から放たれた杭は、そのまま貴族殺し(マジシャンキラー)に突き刺さり、その機能を永久に止めた。
同時に貴族殺し(マジシャンキラー)の体から、白い光のようなものが、飛び出し、俺の体へ吸収されていく。
権能の一部の回収を確認しました。
分類 権能「貴族殺し」
コード 『マジックサーチ』を入手しました。
魔力や魔法使いの位置や規模を知ることのできるコードです
分類 権能「貴族殺し」
コード 『対魔装甲』を入手しました。
魔法の効果や威力を減衰させる装甲を出現させ、身にまとうコードです。
探知系と防御系か
悪くないが、
本当は戦闘系や隠密系が欲しかったんだが、
まあコードが得られただけ良しとしよう。
俺達は疲れた体でその後も周囲を警戒していた。
3度目がないとも限らないからだ。
だが、3体目は現れなかった。
俺が戦闘していた間、ルオスを警戒していたサラは、たぶんもうこのあたりにはいないみたい、というような意味合いのことを言っている。
終わったのだろう。森を抜けるまでは一応警戒をしなきゃならないが、ひとくぎりついた。




