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貴族殺し(マジシャンキラー)討伐戦闘 1


 俺は、まず最初に相手の能力を視るためにコード『鑑定眼(かんていがん)』を使用しようとしたが、


「任せてくれ!」


 俺達の先頭に立っていたルオスが、矢のように走り出していた。

 地面を強くたたく音ともに、土煙が巻き上がり、その足跡が地面に刻まれるほどの急加速。


 その加速した一直線先には丁度貴族殺し(マジシャンキラー)がいる!

 迎え撃つつもりか!


 「ふんッ!」


 ルオスはそのまま全身で突撃。

 貴族殺し(マジシャンキラー)に激突していた。


俺が見たルオスに弾き飛ばされたあの馬車を連想させる吹っ飛び具合。


 まるで巨人に薙ぎ払われた小人のように貴族殺し(マジシャンキラー)の胸部がへこみ、込められた力によって全身が粉々に爆散し、あっという間にいくつかの金属片に分解されていた。


 そのまるでバラバラ死体のような有様に俺は戦慄した。


 「おいおい」

 たった一撃かよ。


 見れば、鋼鉄の機械の体に生身でぶつかったにもかかわらずルオスの体には傷一つない。

 それどころか、貴族殺し(マジシャンキラー)の方がよっぽど傷ついていた。


 貴族殺し(マジシャンキラー)の残骸はそのままあっという間に森の上空へと弾き飛ばされたものの、あれなら討伐失敗の心配はなさそうだ。


 「すごいな」


 素直に称賛の言葉を送りつつ、付近を警戒する。


 貴族殺し(マジシャンキラー)は、相手によって仲間を呼ぶ可能性があり、付近に仲間がいる場合、続けて襲ってくる可能性があるからだ。


 ルティアは、貴族殺し(マジシャンキラー)を倒したルオスの方へと称賛の声を送る。


 「よくやったわ」

 そしてすぐ近くにいる俺の方を向き

 「貴方の活躍が見れないのは残念だけど、まあ倒したものは仕方ないわね」

 本当に残念そうな様子だった。


 俺は、まるで既に戦いを終えたかのような態度のルティアに違和感を抱いた。

 もしかして彼女は、貴族殺し(マジシャンキラー)が、仲間を呼ぶことがあることを知らないのだろうか?


あのときはっきりと貴族殺し(マジシャンキラー)は、通信報告といっていたとはいえ、彼女がそれを聞き取れたとは限らない。


 考えられるとしたら前情報は多少知ってはいても、貴族殺し(マジシャンキラー)の討伐自体が初めて、もしくはこちらではめったに仲間を呼ばないのかもしれない。


 だとしてもこの状況、知能がある貴族殺し(マジシャンキラー)が、奇襲してくる可能性は決して引くないぞ。


 それを証明するように、静かな薄暗い森の中、目を凝らして周囲をうかがっていると

 ルティアの背後の森の茂みから突き出した剣が見えた。


 やはりいた!おそらくはさっきの貴族殺し(マジシャンキラー)に呼ばれたのだろう。


 いまだ姿は見えないものの、剣先はかろうじて見えている。


 けれど、戦いを終えたと勘違いしているために、残念ながら、ルティアは、それに気づいていない!


 「ッ!」


 「あっ、ルティアさん後ろ……ッ!」


 ルティアの隣にはシリアがいてこちらは気づいているようだが、動作が鈍く、突き飛ばすにしても、とても間に合わない。


ルオスも貴族殺し(マジシャンキラー)の迎撃のせいで、今は距離が離れている。


 俺は、『インテグラル』を使用すれば、ルオスほどではなくとも、素早く動ける。


 位置も比較的ルティアの近く、遠くにいるルオスとの間に立つようにしていたため、間に合うとしたら俺しかいない!


 『インテグラル』を起動する。

 一瞬にして、肉体を機械の装甲が覆う。


 「パイルランサー」

 手持ちで間に合いそうな武装はこれしかないッ!


 ルティアに近づきながら、

 俺の右手に現れたのは、丁度肘まである銀色のナックルに小さなディスプレイと腕ほどもある銀色の杭がついた武器だ。


 そうしている間にもルティアの首にどんどん剣が近づいてきている。


 チャージの時間はない。

 威力を犠牲に速度を優先する。


 「…shot(撃て)!!」」

 ナックルにある銀色の四角い射出口から射出された巨大な杭の形をした槍が一直線にルティアを狙う凶器に向かって飛び、迎撃する。


 甲高い金属音をたてて、剣の軌道がそれ、それた剣は、ルティアのいないなにもない宙を切り裂いた。


 「ちょ、ちょっと!?」


 その間にルティアの腕を力任せに引っ張り、背後に匿う。

 彼女の戸惑う声を無視し、敵の動きに備える。


 「やはり2体目か……」


 まもなくして茂みから、攻撃を外した敵が姿を現した。


 その姿は、右腕に剣を携えた白い人型の機械、2体目の貴族殺し(マジシャンキラー)だ。


 さっきの機体が付近の仲間を呼んだのだろう。


 貴族殺し(マジシャンキラー)は、俺なんかには目もくれず、ルティアとシリアを順番に見回し


貴族(ターゲット)発見、貴族(ターゲット)発見、ただちに殺害する、殺害する」



 「対象2名、一名に魔法神の加護を確認、討伐優先度をEからDクラスに移行します。付近のユニットへ、通信報告、通信報告」


 まるでお決まりの台詞のようにそういいやがった。


 俺は相手の能力を視るためにひとまず、コード『鑑定眼』を使用した。


 だが、俺の視界にはウィンドウもステータスも表示される様子がない。

 2度3度使ってみてもそれは同じだった。


 「無効化されたのか……」


 どうやらこいつにコード『鑑定眼』は効かないらしい。

 嫌な予感がするな。


 貴族殺し(マジシャンキラー)は個体差があるために、できればどんな武装や機能があるのか知っておきたかったんだが、わからないものは仕方ない。


 お仲間への通信報告を終えたのか、貴族殺し(マジシャンキラー)の背中や足についている射出口から強い風が吹き、『マジシャンキラー』の体を強く押し出し始めた。

 一部の機械に備わっている、スラスターと呼ばれる移動装備だ。


 こいつ飛ぶ気だな!

 俺は急いで、追おうとしたが、貴族殺し(マジシャンキラー)はスラスターの推進力で、

、そのまま俺の頭の上を飛び越えていき、おいおい!


 「ちぃっ!?」

そのまま剣を己が狙う獲物へ向けて振り下ろしてきた!


 だが、幸いルティアは、その斬撃に対して杖を既に構えてくれている。

 「風よ、我が身を持ち運べ『エアーウォーク』!!」


 素早い詠唱とともに杖に光が集まり、次に杖から光が移動し、ルティアの体を包み、まとうように広がっていく。


 淡い燐光を纏った体が一足踏み出した瞬間、二歩、いや三歩先に着地。そのまま彼女のステップは加速していき、光が薄れた時、ルティアの体は、剣から遠く離れた場所まで移動していた。

 

 移動魔法か。

 練度も高いし、これならいきなり不意打ちでやられる可能性は低そうだ。

 うれしい誤算だな。


 ターゲットを逃した貴族殺し(マジシャンキラー)は、すぐ近くにいるシリアにその片眼(モノアイ)を向ける。


 そのまま今度こそターゲットを亡き者にしようと剣を振り下ろす!


 「っ!」

 シリアは自身の杖で剣を受け止めていた!

「あわわ、あわわわわ!!」


 間一髪シリアは手にした杖で貴族殺し(マジシャンキラー)の剣を受け止めたものの、耐え切れず、地面に倒れこむ。

 シリアの神官杖はさいわい頑丈なのか、すぐには壊れる様子がないが、ぎりぎりと押し込まれ、いつ彼女自身の体に剣が届いてもおかしくない。


 「た、助けてくださーい!」


 真横から貴族殺し(マジシャンキラー)の鋼鉄の体に全力で体当たりをぶちかます。

 貴族殺し(マジシャンキラー)はこちらを警戒していないため、俺の攻撃(タックル)をまともに受け、吹っ飛んでいく。


「ほっ、た、助かりました~」

 シリアとの距離は何とか離した。


 しかし、それによってふたたび、貴族殺し(マジシャンキラー)はルティアを狙い始める。


 赤い片眼(モノアイ)を爛々と輝かせ、貴族殺し(マジシャンキラー)は俺なんかには目もくれずなおも執拗にルティアを狙っている。


 機械の背中と脚部にある小さい箱のような装置であるスラスターから風が吹き出し、一気にルティアのいる方角へと飛んだ!


 あっという間にルティアの目の前に着地する。


 そのうえ地面に落ちても、着地の反動を無視して、スラスターで、すべるように地面を移動しているためにその速度は速く隙も少ない。


 俺は必死に追いかけるが、相手は半分空を飛んでいるようなもの、まったく追いつけない。


 「風よ、我が身を持ち運べ『エアーウォーク』!!」


 ルティアの二度目の詠唱により、さらにその身を遠くへ運んでいるが、貴族殺し(マジシャンキラー)は、スラスターを吹かせて、地面を滑るような速度で確実にその距離を詰めている。


 「マシンガン」


 銃弾は当たるものの、傷一つつかず、こちらを振り返る様子もない


 残念ながら、この武器ではやはり効果がなさそうだな。


 やはりパイルランサーくらいの威力の武器をぶち当てないとあの装甲は破れないか。










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