貴族殺し(マジシャンキラー)討伐開始
俺はさっきのルティアとサラとのやり取りについて少し聞こうと思った。
が
「さっきのことについては忘れなさい、もし忘れないなら忘れるまで、人型魔道兵器の試射訓練の的になってもらうから」
「はい忘れました」
そんなこといわれたら追及できないじゃないか。
さすが貴族。
相変わらず俺という平民に対しては超強気だ。
とはいえさっきのことについて考えているのか、ルティアは少しもの憂げな顔をしている。
「ねぇ」
「な、なんでしょうか?」
その顔気にくわないから魔法の的にするわといわれたらどうしよう。
「なんで、ちょっとビビってるのよ、少し今回討伐する貴族殺し(マジシャンキラー)について話しておこうかしら」
さすがに取り越し苦労だったらしい。
「それにはまず、神託についても話しておかないとね」
ルティアは、森に向かう途中、この国に伝わる社の神託の一部を教えてくれていた。
しきりにこちらに対してわかっているのか?というう風に何度も顔を見てくる執拗さで、なんとも丁寧な説明だった。
なんか俺の反応窺いすぎじゃね?
それとも退屈だからと、寝たら魔法の的にされるのだろうか?
さてその説明によると
聖地が失われた日と同時に
機械の神々から子である機械姫は権能を奪い世界に散った。
治療する力、監視する力、破壊する力、守護する力などその力は、108個を大本にして多岐にわたり、どれも極めて強力でそのうえ成長し、発展する。
神から離反した機械姫達は、目的を果たすためにそれぞれ眷属を作った。眷属は、奪った権能を元に作られ、目的を果たすためには手段を選ばないように指示されている眷属もいる。
機械姫達は、機械神と思いを違えたもの、故に眷属はもちろん機械の子である機械姫も、人に危害を加える者もいるだろうということらしい。
それを聞いて俺にも思うことがあった。
この話が本当なら俺に加護を与えた神も機械神であり、機械の権能をかつては幾つも持っていたのだろう。
俺は何も知らず、自分の身を守り、外敵を排除し、自身を成長させる事のできる力を欲したが、本来はもっと『インテグラル』は、強力な力だったのかもしれない。
「さて今回は私達が討伐する貴族殺し(マジシャンキラー)だけど……」
貴族を殺す機械、マジシャンキラーは、機械神の子である108体の機械姫の一人から、貴族を殺すために生み出された機械だと聞かされた。
ちなみにこの貴族殺し(マジシャンキラー)、俺を召還した国、ゼロディアにはたくさんいたが、このあたりに来てからほとんど見なくなっていたが、いるということはこのあたりにも生息しているということだろうか。
ちなみにランクはE。
俺が討伐したメクロがランクGであることを考えると2ランク上だ。
こいつがこのランクにいるのはひとえに高い戦闘力と人並みに高い知能を持つからだ。
下級の魔物だとしてこないような罠をつかった攻め方もしてくる。
さらに戦い方は、相手の詠唱を妨害することに特化しており、装甲は下級の魔法を減衰する効果を持つ。
動きは早く、空を飛ぶ個体や姿を隠す個体もいる。
隠密性能が高い個体は感知系のスキルなしでは見つからないほど、その気配遮断能力はすさまじい。
加えて彼らは真っ先に貴族を狙う、目の前に騎士がいて剣を振りあげていても銃口を貴族や王族に向け、自身が破壊されることにもかまわず攻撃を辞めないなどその執念は、機械とは思えないほどにものすごい。
なんの恨みがあるのかというレベルで執拗に貴族を狙うため、貴族の中にはトラウマになるモノもいるほどだ。
また貴族のほとんどは魔法使いに多いため、必然魔法使いも狙われる結果になる。
身分を捨てても、魔法使いである限り狙われるために、貴族殺しとも魔法使いとも呼ばれるとゼロディアでは聞いていたが、まさか貴族を殺すために生み出されていたとは、ならそれも納得の話というものだ。
命を狙われる貴族や魔法使いにとっては、この上なく怖く憎い敵だろう。
まあ反面魔法使い以外にはあまり見向きもせず、危害を加えない限りはおとなしいものだったから、魔法使いのいないパーティとかは気楽なもんだったが。
「わかったかしら?」
「はい、よくわかりました」
「ホント?ふん!ならいいわ!」
ルティアは鼻息荒くそういって話を終えた。
俺に対しては、ぐいぐいくるな。
サラに対しての雨の日一人さみしく濡れたチワワみたいな弱りようとは大違いだ。
俺は討伐に参加する面々を何気なく見ていく。
討伐依頼を受けたとはいえ、俺の一番の警戒先はルオスだ。
貴族殺し(マジシャンキラー)は、魔法使いの血を引いているのがほとんどの貴族以外さほど脅威ではない。
俺の場合、ルオスの方が脅威だ。
町で馬車を吹き飛ばした恐るべき男ルオスは表面上おとなしいように見える。
が、それと信頼できるかは別なので警戒はしておかなければならない。
加えて
ルティアは表面上、雑貨屋でのサラとのことを気にしないと示してはいるが、それでも普段より憔悴しているような
印象がある。
サリアにはすでにルオスの警戒を頼んでいる。
なので残っているルティアのすぐ隣にいるシリアに俺は何気なく視線でルティアを気にかけるよう目で示してみる。
「ん?何ですか?」
空気読めないシリアに伝わるはずもなかった。
俺はルティアが下を向いているときに手も少し交えてみることにした。
ルティアを指し、全身で何かの前に立ちふさがるポーズをとる。
一応誰かを守るという意味あいのジェスチャーである。
「???ん~頭大丈夫ですか?」
シリアは、よくわからないといった表情で俺を見ていた。
しかも俺を馬鹿にしやがった!
腹が立つな。
その後も俺は何度かポーズを交えてみたが、だめだった。
だめだ、伝わらない。
やはり人選がシリアというのが無理があるか。
「大丈夫ですか?ヤマダさん、頭痛いなら休んだ方がいいですよ?」
俺は仕方なく諦め、なぜかルティアではなく、最初より心配げに俺を見守るシリアに
軽くイラつきながら、森を目指した。
森に入る際に、俺達は、ルオスを先に行かせる形で後から俺、ルティアとシリアが続く形になった。
この順番はルオスが裏切った時、真っ先にルティアたちを狙われないようにするためであり
また今回は隠密行動の可能性を考慮し、いざというときのハンドサインを決めておくことになった
とはいえ、気づかれた、進め、逃げろ、増援だそしてルオス以外とひっそり話し合って決めた裏切りだの合図の計5種くらいなもので、複雑なハンドサインというわけでもないから、口が使えない時ないよりましといった程度のものだ。
ちなみにシリアは物覚えが悪いのか、中々全て覚えず、仕方なく、逃げろという天に向けて手を挙げるハンドサインだけ覚えさせた。
「あっだめ、なんか忘れそうです」
何で一つなのに忘れそうになるんだ?
俺は不安になりながら、森を進んでいく。
しばらく進むとルティアがおもむろに杖を振り上げていた。
「我が耳に風の呼び声を聞かせたまえ、『ウインドサーチ』」
緑色の燐光が、杖に集い、拡散して広がる。
まるで光の花が、開くかのような現象は、ルティアが探知魔法を使った証拠だろう。
「いたわ、少し遠いところに、機械の駆動音、メクロじゃないみたいだしたぶんこいつね」
発見したのか、ルティアは俺たちに目標の方向と距離を伝え、森の奥へと俺たちは進んでいく。
薄暗い森の中を歩いていると、
白い人型の機械が、森の中で歩いているのを発見した。
あれが貴族殺し(マジシャンキラー)かな?
手足は見るからに白い装甲で覆われており、
足や肩と腕に無数のリボルバーがついた銃や、細長い銃口をしたものや、四角いブロックが、組み合わさったようなもの、鋭利な刃物など複数の武装が、備え付けられていた。
まるで全身が凶器のような機械だな。
ルティアは手の人差し指を前に向けている。
進めの合図だ。
俺達は、ルオスを壁にするように進んでいく。
『マジシャンキラー』が突如、歩くのをやめ、当たりを警戒し始めた。
それはまるで索敵のようで、俺たちは、息をひそめてその様子を見守った。
機械の赤い片眼が、周囲を睥睨している。
が、やがて、『マジシャンキラー』は周囲を見回すのをやめた。
運よく気づかれなかったのか?
「だめ……気づかれた……みたい」
サリアの一言は俺の楽観を粉々に打ち砕いた。
それを証明するように真っすぐにモノアイがこちらを捕らえていた。
「貴族発見、貴族発見、ただちに殺害する、殺害する」
次の瞬間、ガシャンという音ともに、機械腕の上部が回転し、背中側から現れた鋭い槍状の腕に変わっていた。
そして、二足の鋼鉄の足が地面を強く踏みつけ、足跡を残しながら。
「対象2名、一名に魔法神の加護を確認、討伐優先度をEからDクラスに移行します。付近のユニットへ、通信報告、通信報告」
無機質で不気味な声をあげながら、『マジシャンキラー』は、そのままこちらへと高速で突っ込んできていた。




