値上げとコード『鑑定眼』
「金貨500枚出すわ」
逡巡してきたらすぐに値上げしてきた。
しかも一気に10倍。
「金貨550枚、いえ600枚出すわ」
さらに依頼料を値上げしてくる。
額も半端じゃないために、これもうすでに脅しに近いんだが。
さらに迷っているとルティアは、自らの髪の毛をいじる手をやめ、俺を急に真剣な瞳でじっと見据え
「私は能力が後衛向きだから、戦闘で前に立ってもたぶんすぐやられるわ、あなたみたいな前衛が必要なのよ」
その言葉は懇願にも近い。
俺は、思いつくままにほかの手を提案してみるが、
「冒険者ギルドに依頼でもすればいいんじゃ」
シリアが補足するように口にした。
「あの男のことは噂になっているのか、誰も依頼を受けてくれないんです」
そりゃ、あれだけの騒ぎだったからなぁ。
考えなし以外は依頼を受けないか。
そして考えなしでは、ほとんど冒険者としての実力や経験がないために、戦力にすらならないわけだ。
「人型魔道兵器は?」
「タイミングが悪いことに、付近にいるDクラスの機械が、ここへ来る予定の商隊に襲ってきたみたいでね、その迎撃よ」
そりゃタイミングが悪い。
けど、俺は受ける理由は特にないんだよな。
危険に自ら飛び込む趣味はない。
だけど、報酬は魅力的だ。
サリアの飯代も必要そうだし、できれば稼いでおきたいのも本音。
それにこのまま俺が依頼を受けない場合、こいつが倒れて、他の貴族に命令される場合、自由がきかな
かったり、無報酬の可能性があることを考えると
ここで依頼を受けるのも一つの手かもしれない。
「危なくなったら、逃げますよ?」
挑戦してみても、無理そうなら引いてもいい確約くらいは欲しい。
「それでいいわ!私は、あなたが交渉失敗したとき用に強めの魔法を詠唱しておくわ!」
それ俺があの男もろとも吹き飛ばされる流れじゃね?
背中には十分注意しておこう。
俺は、しきりに後ろを気にしながら、群衆に囲まれた男へ向かって歩いていく。
「う……たの?」
ここまで黙っていたサリアが、俺をきょとんとした目で見つめていた。
依頼受けちゃったの?って意味だろう
「ここまでついてこなくてもよかったんだぞ?」
「あ……め……こ」
あなたには私の目を壊してもらう約束があるからって意味だろう。
「そうだな」
「ん」
「ならいざとなったらまもってくれよ?」
「……」
「そこで無言はやめてくれ」
俺は、向かう途中なるべく派手に声をあげる。
「はいはい、見世物じゃないからどいとけよ、これから上級魔法をぶっ放すから、流れ玉や火が周囲に飛び散るから、逃げないと手足吹き飛んだり、死んじゃうぞー!」
「ふざけんな!こんな街中で上級魔法とか頭湧いてんのか!?」
「何考えてんだ!?常識ってもんがないのか!」
「馬鹿なことはやめてッ!!子供もいるのよッ!?」
子供がいるならこんなところにくるなよ、
何だこの町、ギルドや宿の人間や衛兵はともかく一部の民の質が低すぎないか?
町に入った時はそこまででもないと思っていたが、
なんというかこの態度はスラムに似ている。
ゼロディアで見たことがある下品な態度に傲慢な態度、危険や不安の責任を目に付く人間に全部押し付けて、自分は悪くないという態度。
こいつらはもしかして……。
いやいまは目の前のことが先だ。
俺は群衆の言葉にとりあわず、脅しじみた声を大げさにいってなるべく周囲の人間をちらしていく。
気分はプロレスのヒーラーだな。
俺は、やがて自然と離れていく群衆を冷たい視線で観察しながら、意識を研ぎ澄ませていく。
インテグラルの使用準備はいつでも可能。
ついでに手に入れたばかりのコード『鑑定眼』を男に向けて使用する。
インテグラルを起動していなくても、インテグラルはすでに俺の一部、とくに戦闘スキル出ない場合、
ある程度のコードを行使できる。
視界にウィンドウが展開され始めた。、
本名 ルオス・フィルアント
筋力値 C
防御力 C
体力 D+
速度 D+
器用さ I
魔力 F
スキル 不明
初めて使ったが、人の能力が、目で見えてわかるのはありがたいものだな。
にしてもやはりこの男、強い。
このDが魔物や機械などを基準としたものならその速度は、あの人型魔道兵器を超えるし、筋力や防御力に至っては、人型魔道兵器を圧倒しうる可能性がある。
馬車が吹き飛ぶどころか、こんな町素手で破壊しつくせる可能性すら……っ!
額に冷や汗が、流れる。
もはやここまでくると人の身でここまでの身体能力などもはや生きた兵器といっても過言ではないだろう。
俺はインテグラルという外殻装甲ありでもここまでではないのに、こいつは生身でこの能力値を持っている。
にしてもこのコードをとっておいてよかった。
サリアに感謝だな。
スキルはあいにく不明だが、相手の身体能力を大体知れるだけで充分助かる。
使っていくうちにコードは発展するし、そのうちスキルや能力、それ以外もいろいろ知れることになることを考えれば、このコードは中々のものだと言えるだろう。
男は俺がコードを使ったことには特に反応しなかった。
スキルの「鑑定」は相手に気が付かれるというが、もしかしたらコードは相手に気が疲れにくいのかもしれない。
ある程度近づいていくと男は、近づいてくる俺の方を向いた。
なんだか困ったような、戸惑っているような表情をしているな。
顔だけ見れば、話しかけるのは難しくなさそうだが、昨日の力の一端を見てしまうと
油断などできない。
俺は今からこいつと交渉する。
できれば話が通じればいいんだが……
「あ、あのちょっといいですか?」
俺は、話が通じますようにと願いながら、男に声をかけた。