お礼と警告
朝食を食べ終え、俺は、ギルドに行く前に昨日夜食を作ってくれた宿の男に礼を言いにいくことにした。
「おまえもついてくるのか?」
「ん」
こいつだんだん言葉が適当になってきてるな。
「やぁ、お出かけかい」
男は、朝にふさわしい、みんなのおにいさんともいえそうなさわやかな笑みを浮かべていた。
これからこの男は心の中でお兄さんと敬意をこめて呼ばせてもらおう。
「昨日はわざわざ夜食ありがとうございました」
「ま……した」
するとお兄さんはにっこり笑い、
「いいんだよ、誰かに作ったる料理をおいしく食べてもらえることが、ぼくは何よりうれしいからね。 む?」
なぜか俺をじっと見つめてきた。
「どうかしましたか?」
なにか気に入らないことがあったのだろうか?
俺?なんだろうか、顔立ちとか、どうしようもないことじゃないことを祈ろう。
「服が……乱れてるね」
服?
「え、まあちょっとですよ、これくらいとくに」
「だめだよ、服が乱れてるちゃんと着ないと」
そういって俺の服を整える宿屋のお兄さん。
ネクタイを締めるお嫁さんみたいに、てきぱき整えてくれる。
ついでに髪に艶のでる液体も塗ってもらった。
このお兄さんきっといい嫁になれるわ。面倒見よすぎ。
だが、そんな呑気な感想を持つ俺に向かい、お兄さんは真剣な顔だ。
「着を怠る(おこた)もの人に非ず(あら)って言葉がこの国にはあるくらいだ、例え戦闘中でも衣服だけは死んでも着ていないと戦争後にせっかく相手に勝利したのに味方の貴族に殺されたって話があるほど、衣服は、この国では重要な意味があるんだ」
そんな、たかが裸で殺されるなんて。
「貴族の中でもルティアさんは、型破りを好む珍しい方だし、まだ話がわかるほうだから、彼女の場合、服がないとか、不足しているせいで殺されることはたぶんない
、けど」
「他の貴族の前では絶対に服を脱いではいけない、乱してもいけないこれは絶対に死んでも守ってくれ」
「特にいまこの町に友好の名目で訪れているサージェイル家とギラルク家はまずい、特にサージェイル家だ、あの家はこの国の伝統に一番忠実だから、服を着ていない人間なんてみかけようものなら、殺されてもおかしくない」
「サージェイル家ってそんなにやばいんですか?」
「サージェイル家の先代が自身の護衛中に、魔物から庇いそのひょうしに服がやぶれてしまい、半裸になったという理由で、奴隷が何人も殺されている、肩が見えたとか、脇が見えたとかそういう些細な理由でね」
「それいくらなんでも理不尽じゃ」
お兄さんは俺にじっと視線を合わせ、さとすように
「貴族の世界ではね、理不尽な理由はありふれているんだ、そのために僕ら平民は注意していないと、まともに生きるのも難しい」
「理不尽なのはむしろ当たり前なんだ。力を見せれば兵にしようとしてくるし、才能を見せれば側近にしようとしてくる、断れば排除しようとしてくる。そこに理由はない、君にも覚えはないかい?」
「あります」
ゼロディアの貴族がそうだった。
「君はせっかくボクの家の宿に来てくれた素敵なお客様なんだ、失うには惜しい、くれぐれも気を付けるんだよ?」
真剣な瞳で案じられるととっても怖くなるな。
なんだか、俺の手震えているような?
「おどかせてしまったみたいだね、でもまあ服さえ着ていればなんてことはないさ、それじゃ」
おどけたように笑い去っていくが、正直俺がこの町に入った時、ほぼ全裸だったことを考えると全く笑えない。
その場で立ち尽くす俺をサリアは、不思議そうに見上げる。
「だ?」
大丈夫?と略語と顔でといかけてくるサリアに俺はとりあえず頷く。
「大丈夫だ、と、とりあえずギルドに行く前に予備の服をもう少し買っておこう」
俺はその後、ギルドに行く途中の衣服店で、着替え用、保存用、保管用、譲渡用、緊急用、緊急予備用、正装用、記念用、戦闘用、決戦用、最終決戦用の
同じ服を買った。
「か……ぎ」
鍵といっているように聞こえるが、実際は買いすぎの略だろう。
俺は自分の買った服を見てみる。こんもりと山になっているソレを見て俺は、
小さな同行人に買いすぎといわれたが、
「必要経費だ」
「えぇ?」
珍しく戸惑うサリアを尻目に、
そういっておれはついでに買ったリュックに買った服を全て詰め込んで、ギルドに向かった。