夜食と起床 同居人はものぐさな監視者
ちょっとタイトル見ても内容わかりづらいような気がしてきたので、少しいじってみました。
とはいえタイトルって案外難しいですね。いまいちしっくりこない。
あれから二度寝しようと思ったのだが
「お腹……すいた……」
蚊の鳴くような声に引き留められた。
え?機械とか神様ってお腹とかすくの?
「誰かいませんかー?」
同居者が空腹を訴えたのでしぶしぶ一階の宿の受付まで降りてきた。
明かりは消えていないものの、人がいる気配がない。
「こんな夜更けに起きている人はそうそういないよなー」
「すいた」
「わかった」
「すいーたー」
「わかったわかった」
鈴のような音色の声だが、心なしが不機嫌さが増してきている。
よほど腹が減っていると見た。
とはいえどうしたものか?
悩んでいるうちに一階の宿の外に続く入り口の扉が突如開いた。
「おやおや、かわいらしいお客さんだね」
黒い外套をきた若い男だ。
どこか遠い所へ行ってきたのか服のあちこちに泥をかぶっている。
「悪いね、いま仕事帰りでね、お客さんかな」
「あ、はい、あの、お腹すいちゃったんですけど、なにかありませんか?」
「うん、ぼくでよかったらなにか作ろう、身だしなみを整えるから少し待っていてくれ」
にこりと青年は笑うと受付の後ろにある扉の中に入っていく。
しばらくしてこの宿の制服なのか、スーツを着た男がきた。
「さて、なにをつくろうか?」
俺は机の上でメニューとにらめっこする。
ふむ、よく見ればいろいろあるな。
「サリアはどれがいい?」
「す……」
いかん、空腹のせいかサリアの口数がだんだん減ってきている。もはや言葉の原型さえとどめていないありさまだ。
「た」
俺は、悩む暇さえ惜しいので、あの一言を言う
「お任せで」
「うん、了解、今日はいい魚がとれたからそれでなにかつくろうか。ちょっと待ってね」
それからしばらくしてエプロンをつけた男は、料理の大皿を乗せたお盆を手にきてくれた。
「ささいなものだが、これでもどうかな?」
サリアの目の前の皿に乗っているそれは、魚のムニエルに似ている気がする。
川魚か海魚かは知らないが、ふんわりとした優しい香り、見た目からも丁寧な下ごしらえがうかがえる。
宿で俺も食事をしたがここまでしっかりと下ごしらえはしていなかった気がする。
俺の前にも同じものが置かれている
山菜が添えられ、おいしそうな香りのする透明な液体がかけられている。
「む」
サリアは、目の前の魚を見て、素早く箸をとり、おもむろに魚をちぎって自分の口に持って行った。
バターらしきもので味付けられた魚の白身の香ばしいにおいがここまで強く漂ってくる。
「……おい……しい」
どうやらサリアのお気に召したらしい。
「おっ、よかったな」
「喜んで貰えてうれしいよ」
にこりと笑う男は、本当にうれしそうだ。
俺も一口食べてみる。
……うまい。
「いや、これおいしいですよ、」
「君にもそういってもらえるとうれしいね」
「最近は仕事で録に家の手伝いもできなくてね、こうして誰かに僕が作ったご飯を食べて喜んでもらうのは
ひさしぶりなんだ」
男は、いくらか哀愁の漂う顔でそう口にした。
中々じぶんのしたいことをできないらしい、仕事だから仕方ないのかもしれないがままならないな。
男は、実に親切で気がきく。
その後サリアのお替り要求にもこたえてくれたし、他にもスープや、パンまで出してくれて、本当に頭が上がらない。
食事後俺たちは、悠々と階段を上っていく。
「ただの……斬殺した……焼死体……なのに……あんなに……おいしい……なんて……ふし……ぎ……?」
「それ絶対他の人の前で言うなよ?」
そりゃムニエルは魚を斬って焼いたものだから、斬殺した焼死体で間違いはないが。食欲なくなることは他の人の前で言わないよう
サリアにしっかり釘をさしておく。
「ん」
こいつ、この返事で理解したのか?
しかし、俺はもう眠かったので、その後俺とサリアは部屋に帰って寝た。
ベッドはサリアが、俺は床で寝た。
眩い朝日を感じて、俺は自然に目が覚めた。
逃亡生活を送っていた俺にとって床に寝ても快適に起きることなど造作もないことだ。体の調子はかなりいい。インテグラルの使用準備は万全と言えるだろう。
俺にとっては体が資本だから、こういうのは重要だ。ふむ、今日もいい、晴れ日和だな。こんな日はちょっとでかい討伐依頼で儲けて受付嬢の度肝を抜いてやろうという気になる。
「そろそろギルドで依頼受けに行くか?」
声をかけてみるも
「……眠い」
ダルそうな声とともに
サリアは、その場で立ち上がろうともせずベッドに寝転がっている
「眠いよー」
そのまま駄々をこねるようにベッドの上ををごろごろと転がるサリア。
淑女にあるまじき行いである。
「依頼受けに行かないと宿にも泊まれないぞ」
ぴたりと止まるサリア。
やがて長い時間をかけて仕方なくといったふうにサリアがベッドから起き上がる。
目が死んでいやがる。
俺は心を鬼にする。
「じゃ、一階で待ってるからな、あまり時間かけてたら二度寝したとみなしてそれ相応の対応をとるからそのつもりでな」
枕に顔をうずめたまま、こくとうなずくサリアを尻目に俺は一階へ向かう。
「はぁ」
信じられるか?こんなことをたぶんこれからしばらく毎朝やらなきゃいけないんだぜ?
起きた後、一階で俺達は、のんびり食事をとっていた。
「パ……と」
鈴のような声で途切れた暗号じみた声をいうサリアの言いたいことを俺は察する。
「ん」
俺はサリアにバケットからパンをとって切り分けて目の前の皿においてやる
「ん」
「さ……と」
「ほい」
俺はサリアに焼いた魚を切り分けて、渡してやる
「ん」
しばらくして俺はなぜ召使じみたことをしているのだろうと疑問に思った。なので
「……いや、そろそろ、自分でとれよ」
「昨日の……報酬分」
なるほど言い分はあったらしい。
「いや、確かにそれを言われると」
確かに機能俺はなにもできなかった。インテグラル使って、撃ったり、焼いたり、叩いたりしてみたが、なにかできたわけではない。
前払いとは言われても、コード取得できるほどの価値あるものはもう最下級のIランクの機械じゃ得られない。いずれにしても危険を冒さなければならないレベルの機械を倒さねば手に入らない。
そんな中あの髪の毛はそれだけ価値あることなんだとわかってはいる。だからこうやってせっせと小さな姫君のために手を動かしているわけだが。
「機械なのに……人を使う……ふふ……いい気分……」
「さいですか」
この子絶対生来ものぐさな大人に育つぞ。いや、神の子らしいから、育つのは、ものぐさな神か?
俺はせっせとサリアの給仕に従事した。なんかこいつの執事にでもなった気分だな。