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邂逅 司るは権能『監視』 眼を疎む機械の姫君

 

 なんだ?こいつはまさか……ッ!?

 

 「っ!」

 

 ベッドの上から人の気配を感じて飛び起きる。敵襲か?

 食事をとり、少し休んだことで、インテグラルの起動はそれなりに可能。いつでも戦闘に移れるように臨戦態勢をとる。


 目をこらすと部屋の片隅に小柄な人影が静かに立っているのが見えた。それはだんだんと輪郭をあらわし、色を纏い、やがて黒いローブを着た青い髪を持つ小柄な少女の姿に変わった。

 

 白磁のようなきめ細やかな肌に細すぎて折れてしまいそうな華奢な手足と胴体。

 愛らしい、まるで人形のように容姿が整っている少女だった。

 

 「……気が……付かれた?」

 

 声もまるで鈴の音のように透き通っていて、けれどそこには感情が希薄なせいで不気味な印象も受ける。少女は、自分が気が付かれたことに動揺することもなく淡々とこちらへ歩いてくる。

 

 「やっぱり……自分の権能……意外だと……効果が落ちる」


 「いや……それとも……お母様の……権能の……一部……を……受け取ってる……から……勘がいい……とか?」

 

 お母様?

 誰だソイツは?

 少なくともこの権能は、お母様とかいう名前のやつからはもらってない。

 

 「お前は誰だ?ゼロディアの追手か?」


 「ゼロ……ディア……違う……私の名前は……サリア」


 サリアと名乗った少女はしゃべり方がたどたどしい。まるでしゃべるのに慣れていないとでもいうかのようだ。

 

 「私は……お母様の娘……『監視』……の権能を……与えられた……機械……あなたのその……『成長』を……与えた人の……娘……」

 

 『成長』?

 もしかしてインテグラルのことか!?ならお母様とは俺に力を与えた神のことか?

だが、俺はふと俺に力を与えた神について思い出してみた。


 あのとき娘なんていなかった。

 いなかった……はずだ。

 

 だが、あのときいなかっただけの可能性はある。

 俺にはあの神の過去すら知るすべがない。

 

 ゼロディアにいた時は、幼馴染に力を与えた神々は伝承がしっかり残っていたが、俺に力を与えた神の伝承は一切が処分されていて、新たに見つかっても教会の連中が焼いたり、所持したモノを処刑するから、その手の話はまったく調べられていない。

 

 機械の神なんて連中にとっては忌むべきもの。あってはならないものなんだろう。

 だから俺は、自分に力を与えた神の話なんて知らない。

 

 時間があったらこちらで俺に力を与えた機械の神について調べるのもいいかもしれないな。

 

 「あなたは……お母様から……力を……与えられた……勇者……でしょ?」


 素直に肯定していいものか?

 

 「違う、人違いだ」


 「嘘は……時間の無駄……私の権能で……それくらいは……わかる」


 ぴしゃりと俺の言葉を否定するサリアはどこまでも無機質で、だからこそかえって恐ろしい。


 「あまり……手間を……かけさせないで……でないと……怒る……よ?」


 嘘をつかれて怒ったのかサリアは、むっ!と拳を掲げる。

 どこか素人臭い構えだが、油断などできるはずもない。

くるか?


 そう思い身構えていると


 こてんとその場で倒れる青い髪の少女。

 

 「……頭が重い……視たり……しゃべるの……つらい」


 なんだこいつ……?

 

 「うぅ……起きるの……面倒……」

 

 強いのかもしれないが、弱っている?

 今なら勝てるか?

 

 俺は目の前で地面にいまだに座り込んでいるじっと観察する。

 ……いや。この程度ではハンデにもならない可能性がある。


 もしこいつが神なら俺なんかでは逆立ちしてもかなわない


 俺に与えられた『インテグラル』は神曰く『成長』し、最終的には同じ神すら倒し得る可能性を持つ機械らしいが、現状では、その片鱗は微塵もない。

 

 Iランクのラプター程度に苦戦する有様では、Aのさらに上とも言われる神など相手にできるはずもないだろう。

 

 いかに弱っていても神相手に戦う判断は可能な限り避けるべきだ。

 するとサリアは、俺に座ったまま視線を合わせてきた。

 

 輝くアクアブルーの瞳は深く、どこまでもこちらを見通しそうな怖さがあった。実際さっき嘘を見抜いたし、そういう権能を持っていてもおかしくはない。


 「面倒だから……率直に」


 「これを……壊して……ほしい」

 

 そういってサリアからふところから出したのは、子供の頭くらいはある青い宝石だった。

淡く光っているソレはミスリル原石ではなく、俺が知っている石ではないのがわかった。


 「これを壊すのか?」


 「もし……これを……壊してくれた……ら……コレを……あと3本……上げる……一つは……前払い」


 「糸?」

 

 ひゅん!

 渡された艶のある青い糸のようなそれを手に持った瞬間、髪が崩れて、俺の中に吸い込まれていった。

こいつは?


 脳裏に操作していないにもかかわらず勝手にウィンドウが開く


 権能の一部の回収を確認しました。

 分類 権能「監視」

 コード 鑑定眼を入手しました。

 人や物を分析し、情報を得ることができるコードです。


コードとは、俺の持つインテグラル特有の機能だ。いうなれば、スキルのようなもの。

 「監視」なんて、最近はメクロ程度では、まったく成長も権能を回収することもできなかったのに。


 こんなに簡単にコードを得られるなんて……。

 「こいつは何だ?」


 「私の髪の毛」

 

 髪の毛程度でコードを得るなんて、つまりサリアは、それだけ格上の機械ということか?

 戦っていないにも関わらず、コードを得るとは、とんでもない。

 やはり戦わないで正解だったな。


 「これを壊せばいいのか?」


 「……そう」


 「わかった、やってみよう」







 「これ硬すぎないか?」


 あれから殴っても、撃ち込んでも、焼いてもびくともしなかった。

 それに対し、コイツはじっと俺を見つめたまま、

 壊せない俺に対して怒る様子も、ころそうとする様子もなさそうだ。


 「この宝石一体何なんだ?」


 「私の目」


 「えぇ?」

 

 自分の目を壊させようとするなんて、なにを考えているのか。

 俺は、もう少し踏み込んでみることにした。

 この様子ならいきなり殺されることもなさそうだし、把握できるならしておいた方がいい。


 「理由を聞いてもいいか?」


 「えぇ?」

 

 凄く面倒そうな声だった。

 

 「頼む教えてくれ」

 

 「うう……わかっ……た……」

 

 床に座っていたが、いつのまにか横に寝っ転がっている。


 どうでもいいが、行儀悪いな。

 

 「私は……世界のすべてを視る役目を与えられた」


 「たくさん視た……頭が重くなって……目が痛くなるほど……たくさん……たくさん」


 「いい加減……疲れた……視るのはもうやめたいって……お母様とお父様に言った……でも……だめだって……いわれた……」


  そこで力つきたようにうつぶせになる。

 

 「だから……逃げた……眠い……」

 

 このままじゃ寝そうなので、合いの手を入れた。

 

 「ふむ、家出か」

 

 「いえ……で?……たぶんそう」


 ふむふみ、ようするに頭が痛いし、目が言いたい、疲れたので休ませてくれと言ったが、だめだ働け、不眠不休で死ぬまでな!といわれたわけだ。

 

 いうなれば、ブラック企業やめたいけど、やめさせてくれない、しかも経営者が親ってとこか。

 そりゃ家出したくもなるか。


 「もう……視るのは嫌……けれど……」


 「母様は……ルールで……子を……攻撃できない……母様の子……同士も……攻撃できない……子の生み出した眷属なら……攻撃できる……

けど……力……不足……」


 その言葉に納得する。

 

 いかに俺がインテグラルをあまり成長させられていないといっても多少の火力はあると自負しているつもりだ。

 

 調子のいいときはEクラスくらいなら割とやりあえるくらいだし、そう捨てたもんじゃないはずだ。

 

 他の機械が、手に余っても無理もない

 俺だってこいつは傷一つ、コゲ一つ与えることができなかったんだから。

 

 「誰も……私の目を壊せなかった」


 「はぁ……もう……ここで死のう……かな……」


 「やめてくれ」

 

 自殺されたらさすがに俺も罪悪感が半端ない

 こんな少女に死なれたら、目覚め悪いし、宿にも迷惑だ。


 「俺が強くなってそれ壊してやるから、元気出せって」

 

 「……ほん……と?」

 

 ひょいと声を上げる少女は無表情だが、

 心なしか気分が少し明るくなった気がする。


 「ああ」

 

 「じゃあ……ここで……待ってる」

 

 「えぇ?他の場所に帰れよ」


 「じゃあ……死ぬ」

 

 「その2択どうにかなんないの?」

 

 「なら……ない」


 「はぁ、わかった、ここにいろ、でも飯代くらい自分でかせげよ、一人で働けとは言わないから、俺が依頼を受けるとき協力してくれ」

 

 「わか……った……」


 こうして厄介な同行者が一人増えた。

 この選択が正解かどうかはいまはまだわからない。





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