ルティアと領主 報告と方針
豪奢な屋敷の一室でテーブルにこしかけ、二人の人間が食事をしていた。テーブルの上には贅沢を凝らした色とりどりの料理が並び、見るだけで空腹を刺激されそうな光景だった。
そこで食事をしているのは、ルティアとその父親である領主である。
親子二人さぞやにこやかな歓談をしてるのだろうと思いきや、そこにあるのはにこやかさなど欠片もない
、張り詰めた執務室のような真剣で重い空気だった。
「社の神託によると、神のもとから逃げ出した機械神の子である機械姫は全部で108体」
たんたんと事実を口にするルティアは、相手に確認を求めるよう視線を向ける。領主はそのつどうなずいたり、視線で次を促し、会話を進めていく。
「人に仇名す機械に非ざる者たち、奉仕をすることではなく、隷属を求め、生かすことより死を求め同 じ目的を持つ眷属を創り出す人類の敵」
「そのうちこのあたりに生息するのは機械姫が生み出したものだと
『監視』のメクロ
『貴族殺し』のマジシャンキラー
『掃討』のクラッシャー
『要塞』のフォートレスですね」
ルティアは、普段の尊大な態度とは違い言葉を選び、口調も敬意を払っている。
それは目の前の相手がそれだけ自分よりも立場も実力も上であるからだ。
領主である男は、そこで口を開く。
やや渋みのある声は、確かな経験と重みというものを感じさせた。
「この中でメクロは脅威ではないが、それ以外は確かな力を持っている、特に『要塞』の権能の機械は、危険な機械だ」
「フォートレスが脅威なのは同意しますけど、メクロも危険です。メクロは、機械達の目である可能性がありますから。倒せるなら可能な限り倒した方がいいのでは?」
「そうだな、最近メクロの出現数が増えている。近々メクロの討伐依頼をだしておくか」
「おまえの報告に合った、ヤマダとかいう浮浪の冒険者だが、やはりこの国の生まれではない可能性が高いようだな、町に入るときも服を着ていないなど、この国出身ならほぼありえないことだ」
「しきたりを知らない、もしくは重要視しない例外の魔道機械都市や魔法都市出身の可能性はあるけど、それなら通行証をもっているはず、それもないならまあ他国からの流れでほぼ決まりですね」
「ゼロディアとの関係が微妙ないま、スパイを送られてくるのは予想していた、それがどのような形であれ」
そこでルティアはやや慌てたように口にする。
「ま、まだ決まってないですよ、ここは国境近くでもないですし」
「なにを慌てている?落ち着くのだ。ふむ……確かにおまえの言う通りここは国境から少し離れているが、油断はできない」
「ゼロディアの尖兵か、他の領主のスパイか……いずれにせよ、調べる必要があるな」
「その件は私に任せてください」
「機械に変身したそうだな?」
「人に化ける機械の可能性を私も考えました、でもその場合私達には見破る手段がありません」
「そうだな、本格的な『偽装』の権能持ちだと、人間どころか、特定の人物とそん色がないほどに化けるという話だ。目もさほど判別の役には立たないだろうな」
「だから、私は彼に依頼しようと思っています」
「なるほど、相手は機械か」
「はい」
「機械は、同じ眷属から生まれたものは攻撃しない。以前メクロを討伐したなら『監視』の眷属ではないことが証明された。ついでにマジシャンキラーを討伐させ、『貴族殺し』ではないかどうかも確かめるというわけだな」
「ゆくゆくは彼に『要塞』の討伐依頼を出そうと思っています」
「ふむ、もしDランク以上の機械の場合、多少強くともその冒険者では手に余る。人型魔道兵器が必ず必要だ。現在この町の保有数は3機、町の防衛と森のアレが動くことに備えて2機欲しいことを考えれば、動かせて1機だな」
「けれど、Dランクの機械は、人型魔道兵器の素材になります。相手にもよりますが、少なくとも2、3体倒せば、開発材料がそろい、
資金も十分ある今、一体保有量が増えるこ
とを考えると2体がかりで倒した方がいいのでは?」
「気持ちはわかる、だが、敵は、魔物や機械だけではない」
「他の領地ですか」
「そうだ、この国ゲイルアルクは一枚岩ではない、先祖のころからそれは変わっていなかった。私の子供のころも、兄弟や領民があいつらに殺された」
「襲ってきたあいつらは自分の領地では騎士をしていたよ、証拠はないが、何人かの顔を見た私にはわかる」
「ただの賊ではないために、貴重な人型魔道兵器まで持っているような奴らだ、もし他の領地の手の
賊が襲ってきたとき、人型魔道兵器が、いなければとても町や領民を守れないだろう」
「ところで……お前が街中で冒険者に襲われていた件だが」
ぎくっとルティアは肩をこわばらせる。
「お前が町の連中に嫌われているのは、わかるが、今回は少しひどすぎるだろう。いくらお前への無礼が許されているからと、助けも呼ばないなど、貴族相手ではなくとも人としておかしいではないか」
「そうですか?」
「ルティア」
「は、はい」
「お前の領民を尊く思い庇う、その気持ちは尊重しよう。だから、護衛をつけるべきではないか?」
「……」
「今回ばかりは、もう限界だ。私は誰か強い人間をお前の近くに置かないと不安で仕事が付かなくなるかもしれない」
「そ、それは、」
「ルティアよ、父を安心させておくれ」
「考えて……おきます」
「うむ、ところで、話は変わるが、近々、他の領主や貴族当主が何人か尋ねてくるそうだ」
「わかっていると思うが」
「ハイ、細心の注意を払います」
「機械神を崇める国である以上、魔法神の加護を持つお前の立場は良くない。ほかの貴族に対しては特に注意して接するのだぞ」
「はい」
こうして二人の夜は更けていく。