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キャストルマイルド  作者: TBK
6/10

6mg. 火のないところに煙は立たぬ

 さて、そろそろ皐さんにも説明しなければならない。


 この世界には多くの人に知られていない事が多く存在している。秘密結社であるフリーメイソンの存在や、学校の怪談、芸能界の金の動きや政治家の嘘。――そして魔法使いや異能力者、吸血鬼等の未確認生物、人間の限界を超えた動きが出来る超人。

 これらの噂は一般には浸透しているが、それが日常レベルに落ちてくる――存在を確認したことがあるのは稀だろう。特に後半の魔法使いや異能力者なんて漫画や小説の中でしか聞いたこと御伽話だ。


 そもそも何故このような噂が立つのか一度は考えたことがあるのだろうか?

 勿論誰かが世間を面白い方向に導こうとして吐いた嘘という可能性もある。しかし、この日本では昔からこんな言葉が存在している。

 

『火のないところに煙は立たぬ』


 この諺の意味は、まったく根拠がなければ噂は立たず、噂が立つからには、なんらかの根拠があるはずだということだ。


 ――結論を言ってしまえば、それらは存在している。世界のガチガチに固められた常識なんか上辺を撫でているだけなのだ。人間は自力で空を飛べるし、触れもしない物を曲げたりできる。吸血鬼は存在しているし、複数人相手に同時に空気投げを出来る達人なんかも存在している。そして俺らの世界では、一般人の枠組みを外れたカテゴリー大きく3種類に分けているのだ。


『魔法使い』

『異能力者』

『超能力者』


 と、一部の例外を除いてこんな感じである。

 ちなみに俺はこの中では魔法使いにカテゴライズされている。


 魔法使いに関しては最早説明不要であると思われるが、少しだけ説明させてもらおう。俺らの世界の一般的な魔法使いは『自分の魔力(オド)』を使用して、自分専用の『杖』や『詠唱』、『魔方陣』という動作(アクション)を駆使して世界に訴えかけ、『世界の魔力(マナ)』を『魔法』へ変換して世界の理を少しだけ捻じ曲げる。魔法を使って空を飛ぼうとすると、浮力とか重力という物理法則を捻じ曲げて、魔法の力で空を飛べるのだ。そして魔力は誰もが持っているわけもなく遺伝によるものが大きい。


 次に一般の認識と違うのは異能力者と超能力者の定義である。テレポーテーション、サイコキネシス、透視能力……これらの言葉を聞いて大半の人が思いつくのは『超能力』という単語だろう。これらは俺らの中では『異能力』に分別される。人間の能力の範疇を超えた超常現象の行使……これらは全て、人とは異なる能力――異能力だ。これは遺伝などでは発現するのでなく突然変異と言われていて、吸血鬼や人狼(ワーウルフ)といった種族、おそらく今回誘拐されたミャーチャンもこの中に入っている。


 魔法使いと異能力者……これら二つのカテゴリーは一般人が到達することは出来ないと言われている。


 では、俺らの世界での超能力者とは?

 文字通り『超』能力を操る人間のことだ。人間が才能を持ち、修練の果てに到達できる領域、それが超能力者である。スーパーハッカーとか武術の達人と呼ばれる人間は、努力と才能によって形成された超能力者だ。


「火を出して?」


 と言われて

 魔力を使って魔法で火を生むのが魔法使い。

 体内に火炎袋を持って火を噴いたり、火炎能力者(パイロキネシス)が異能力者。

 指を高速で擦って摩擦で火を出すのが超能力者。


 乱暴だけどこんな分別。


 それで俺ら――普通の人間とは違う『特者』と呼ばれる人々は結構な割合で存在していたりする。中には数センチぐらいしか物体を動かせない無害な異能力者から、一晩で街を壊滅させることの出来る危険な魔法使いまで。しかしそんな危険な能力と思想を持つ極一部の者達が表舞台に出てくることはまずない。何故なら危険な思想を持つ特者は正常な思考を持つ特者に止められるからである。

 自身に強大な力を持ってしまった人間は『世のために使う』『何もせず平穏な日々を送る』『悪いことに使う』に分けられて、それらのバランスが絶妙に成り立っているために世間に与えられる影響は微々たるものに収まっている。


 そして紅葉姉さんが経営している喫煙喫茶店ピースは表では喫茶店、裏では特者が犯した事件を解決する特者の何でも屋集団――さっきのカテゴリーでは『世のために使う』に属し、そっちの稼ぎで喫茶店の赤字経営を免れているのだ。

 そもそも喫煙者専用の喫茶店なんか流行るわけないのだホント。


「……そんな世界が」


 一仕事を終えた後に、俺は服を着ながら俺らの世界の理について皐さんに話していた。今、俺達の足元には多少焦げている(・・・・・)チンピラ共が転がっている。


「世界ってのは実は空想通りに出来ているんですよ」


 吸い終わった吸殻を携帯灰皿へとしまう。

 これで今日の残りは二本……なんとかなるだろうか。おそらくここにはミャーちゃんの他に誘拐されてきたペット……異能を持つ動物がいるはずだ。そうなると彼らが逃げ出さないように今のようなチンピラや、そこそこの特者が監視役としているだろう。しかしここには俺だけじゃなくツキもいるわけだから、なんとかなると信じるしかない。


「さて、」


 ここで先ほどの戦闘の回想を――


「してないで、先に行くわよ」

「おっと残念」


 せっかく俺が活躍したのに……


「拘束されたのが幸いね……運ばれたおかげで随分ミャーちゃんの所在地と近くなったわ」


 俺らが拘束されていた場所は倉庫に近い広さを持つスペースだった。扉は二つ。窓は無し。どうやらまだ地下にいるらしい。

 おそらくだがこの地下空間も何かしら特者の仕業だ。だってビルの外から見た面積よりも明らかに広いし。あ、そう考えると最低でもあと2名の特者がいるのか。


 ツキが片方の扉を開けて、その先にある廊下を歩き出した。その後に続く。


「あの……私ツキちゃんの能力って言うのでしょうか? わかってしまいましたよ?」


 どこか悪い顔して皐さんが近づいてきた。

 ……腐っている発言を聞いてからこの人に対しての憧れが少し減ったなあ。


「離れていたセンサーを触れずに押した……ズバリ! ツキちゃんの能力は『サイコキネシス』! つまり彼女は超能……じゃなくて異能力者ですね!!」


 サイコキネシス――おそらく世間に『超能力とは?』と聞いたら挙がる能力の一つだろう。念じるだけで物体を思うがままに動かせる力であり、単純であるが故に応用が利く。俺らの世界でもサイコキネシスを持つ異能力者は多数存在しており大して貴重ではない。むしろ表の世界にもTVとかのメディアでたまに見かけるぐらいだ。


「んーサイコキネシスを持つ異能力者ですか……」


 確かにアレを見ているのであればそう勘違いしてしまうのも無理はない。だけど皐さんにおいそれと人の能力を話すわけにはいかないし……そもそもツキは異能力者(・・・・)ではない。


「残念ながらお答え出来ません。ツキは俺みたいなわかりやすいタイプの特者じゃないんで」

「ケチですね」

「ケチって言わないでください」


 少し拗ねてしまった皐さんに苦笑する。

 それにしてもクールな人が頬を膨らませる姿はとてもトキメキます。大人が子供らしくすると可愛らしいですね! 腐ってるけどね!


 でも……本当に俺らの世界では能力が他者にバレるのは避けなければならない。なぜなら能力がバレる=死に繋がりやすいのだ。


「簡単に人の能力を教えるわけにはいかないんですよ。能力が相対する相手にバレてしまったら対策を打たれ、負ける可能性が飛躍的に上がります」

「……? 話せる範囲で教えてくれませんか?」

「そうですね……例えば相手が氷を操る魔法使いだとして、その情報を知っているとします。皐さんならどうやって戦いますか?」

「えーと氷を操るなら、火炎放射器でも持っていきますかね」

「そういうことです。氷を操る魔法使いには炎を、水を操る異能力者には雷を。本当はこんなに単純じゃないんですけど、こんな対策が打てます」


 ホントは五属性とか陰明とか関係あるけどここでは省こう。


「何より相手が魔法使いであると知っていたら、魔法を発動させる前に杖なり詠唱なり『動作(アクション)』を潰せばいいんですし。だから魔法使いは自分の動作(アクション)を極力隠し、自分が魔法使いであると外部に秘密にしないといけません」


 この世界で一番気をつけないといけないのは、相手の能力――特にまずいのは特者としてのカテゴリーを勘違いすることだ。相手が魔法使いだと思っていたら実は異能力者で、動作(アクション)を警戒していたらズドンってのはよくある話。


「でも……浩也君はバレバレじゃないですか? 初めて見た私もあなたが魔法使いだとすぐにわかりましたよ」


 そりゃ俺は()詠唱(・・)魔方陣(・・・)を使わないと魔法を発現出来ない半人前の魔法使いだしね。見られたら一発で俺が魔法使いだとバレる。しかも俺が使える魔法の属性は指向性が強く対策を打たれやすいのだ。基本的に魔法使いは多くの魔法を操り多様性を持たせる。多くの魔法を操ることによって魔法使いとして弱点をカバーするのだ。


「だから一応切り札を持っています。さすがにアレだけでは戦えませんからね」

「それって教えてくれないのですか?」


 思わずズッコケそうになった。

 さっき話せないと言ったばかりでしょう!


「……俺の話を聞いてましたか皐さん?」

「いや、気になってしまって」


 あはは、と頭をかく皐さん。


「それに……いや、それだけじゃないです」


 真っ直ぐに俺を見詰めてきた。

 心なしかその頬が上気している気がする。


 まさか……まさか!

 腐っている彼女の森に、俺と言う春が――!!


「あなた自身にも少し興味が沸い――」

「着いたわよ」


 先陣を切るツキが廊下の先にある扉を開き、振り返る。

 もう少し皐さんの話を聞きたかった俺残念。

 そしてツキの視線が冷たい。


「浩也君×成松警部補……浩也君にそっちの趣味があるのか聞きたかったのに……」


 聞かないほうが正解だったかもしれない。

 駄目だ! まだ腐ってやがる!


「ここからミャーちゃんの臭い(・・)がするわ」


 おいツキ。自分の能力は極力隠せと話してたばかりだろう。バレるようなことを言い出すんじゃない。


「本当ですか!?」


 皐さんがツキの発言に気付かずツキ抜いて部屋に飛び込んだ。俺も続いて部屋に入ると、そこには想像したとおりの光景と、予想外の人物が立っていた。


 周りには檻に入れられ、首輪を付けられている動物達。

 その中央には金色の髪をした、一人の少女が泣いていた――




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