✝-波乱万丈の一日の終わり-✝
程なくして、俺は静かに紫さんから距離を取る。
紫「ん?もういいのかしら?」
詩「はい、済みませんでした、見苦しい姿を……それと、ありがとうございます」
紫「ふふ、礼儀正しくて勇ましい子、私の好みね?」
ふぅ、紫さんには敵わないな。
それに、心がスッキリとした。
感情の奥底では、確かな不安を持っていたんだな。自分でもびっくりだ。
霊「はぁ、急に貴方が泣き出すから驚いたわよ?」
魔「な?紫は紫で、何かを悟っていた感じだしな」
詩「霊夢さんと魔理沙にも迷惑掛けた、済まない」
霊「別にいいわよ、巫女なんだから懺悔くらい聞くわよ?」
魔「詩音の気持ちも結構伝わったからな、気付かない私たちの方が謝罪したいくらいだぜ」
俺は安心した。
ここは……幻想郷は本当に全てを受け入れてくれる気がした。
ここに来て……良かった。
霊「所で、魔理沙と詩音は何しにここに来たのかしら?」
魔「あぁ、それなんだがな?」
魔理沙、状況を説明中。
霊「ふぅーん?まぁ、さっきのやり取りを見てたら、そんな気はしてたわ」
紫「それなら私のところにく……」
霊「却下、貴方が関わるとめんどくさいことになりそうだから、詩音は私の所で預かるわ」
紫「まぁ、しょうがないわね。詩音、何かあったら私のところに来なさい?胸ならいつでも貸せるわよ?」
紫さんは胸を強調するように、腕を組んでいる。
詩「はは、そのときはよろしくお願いしますね?」
紫「あら?更に貴方の見所を見つけた感じね。別に用がなくても来なさい、いつでも歓迎するわ。それと……」
紫さんは空間を作り、手前で止まる。
紫「私の事は紫で良いわよ?詩音君」
そう言い残すと、空間の闇に消えていった。
べつに俺の事も詩音でいいのに……
霊「さてと、とりあえず泊まる前に……」
詩「あ!その前にいいですか?」
霊「何かしら?」
詩「ここは神社ですから、お参りをしないと」
霊「…………!!!!??」
霊夢さんは何故か、目を見開いていた。
そんな霊夢さんが気になったが、先にお参りをすることにした。
詩「えっと、確かお金を……」
俺はポーチをまさぐる。
そして、俺の財布を取り出した。
何故俺の財布が入ってるんだ?
そして何から何までがこのポーチに入ってるんだ?
とりあえず、賽銭箱に……って
詩「霊夢さん、この世界の通貨ってなんですかね?」
霊「え!?えぇ、と、ね……文ね」
文?確か古い時代にそんな通貨を聞いた気がする。
それに、俺の財布には円しかないな……
詩「円っていう通貨でもいいですかね?」
一応、この神社の巫女の立場である霊夢さんに聞いてみる。
霊「円!!?円って、あの円!?」
霊夢さんという人物には考えられないほどのリアクションだった。
詩「どの円かは分かりませんが、多分その円です」
霊「全部!全部いれなさゴヒュ!?」
魔「ちなみにある万事屋さんのレートによると、1円=100文の価値まで跳ね上がってるらしい」
へぇ、100円=1文だと思ってはいたけど、かなりの円高だな。
俺は財布の中身を見る。
福澤さん=50
樋口さん=1
野口さん=5
小銭=もろもろ
約51万円
レート換算
1円=100文
10円=1貫文=1000文
100円=10貫文
1000円=100貫文
1万円=1000貫文
51万円=5万1千貫文
詩「……ちなみに、町里での家の値段ってどれくらいですか?」
魔「そうだなぁ、100貫文もあればかなり豪華な家に住めるぞ?」
あれ?冷や汗が背中に……
下手すれば、幻想郷の経済状況がひっくり返るぞ?
俺は1万円だけ取り出すことにした。
本当は使えないだろうから全部入れちゃおうと思ったけど、危険な感じがするので止めた。
詩「これから世話になることも含め、幻想郷の平和を祈願して……」
俺は1万円を手の平から滑らせるようにお賽銭箱に入れた。
魔・霊「「いちまんえん!!?」」
二礼二拍手一礼の順の後、気持ちを込めて鈴を鳴らす。
多分合ってないだろうが、気持ちでカバーしよう。
よし終わり。
詩「それで、泊まる前にどうとかって……」
霊「もう何日でも止まって頂戴!なんなら一生をここに住んでもらっても差し支えないわ!いやぁ本当にありがとね詩音!」
魔「ほんと、霊夢は現金な性格だよな?」
魔理沙は後ろで呆れていた。
魔「とりあえず、泊まるところが出来て良かったな?」
詩「あぁ、助かったよ魔理沙。今度お礼をさせてもらう」
魔「おぅ、楽しみにしてるぜ!」
霊「ウフフ、あの大金で何をしようかしら?」
まぁ、この周辺に一部のインフレが起きたと思えば……な?
魔「それじゃあ私は帰るぜ、店でのやり残しがあるからな!」
魔理沙は落ちてた箒に跨り始めた。
詩「魔理沙、今回は本当に助かった。また何かあったら頼むな」
霊「まぁあんたのおかげで大金が手に入ったもんだし、いつでも来ていいわよ。ただし次からは普通に来なさいよ」
魔「そんなことをいわれずとも、気が向けばいつでも来るさ。詩音は恩人だからな、力になれることがあるならいつでも言ってくれ!じゃあまたくるぜ!」
そう言うと、魔理沙は一気にここからすっ飛んで行った。
こう見ると、結構なスピードで走ってたんだな……
霊「それじゃ詩音、空いてる部屋に案内するから来なさい」
詩「は~い」
俺は境内の中に入っていく。
詩「へぇ、神社の手前が賽銭箱で横手側の縁側から入るんだ?」
霊「別にどちらからでも入って良いわよ?偶々私が掃除をする為に下駄に履き替えてただけだからね」
詩「縁側なんて初めてだからな、今度からはここから入ることにするよ」
霊「ふふ、やっぱり面白いわね詩音って」
霊夢さんって結構クールビューティーなところがあるからな、笑うと可愛らしいな……
少しすると、霊夢さんが立ち止まった。
霊「とりあえず、ここが詩音の部屋で良いわよ」
霊夢さんは麩を開けた。
中の広さは8畳ほど、一人部屋としては割としっくりとくる広さだった。
詩「下は畳に扉は襖、電気は無くて夜は月の光。風流だな」
こういう世界は意外と憧れていた。
記憶はないけど……
記憶が無いから、特に不自由は感じないからかな?
霊「とりあえず布団はあるから大丈夫よ、他に必要な物があったら言って、用意できるものは用意するから」
詩「いえ、自分で用意しますよ。泊まれるだけでも有難いですからね」
これ以上甘えるわけにはいかない。
霊「気にする事も無いのに……分かったわ、好きにしなさい。でも、何か困ったことがあったら言いなさい、これでも巫女。力にはなれるわ。」
何故かは分からないがとても心強い。
とりあえず、今は夕方だ。
これから出かけるとなると、結構厳しい。
俺にここの地理は皆無だ。
出かけれない、というのが本音だ。
霊「とりあえず今日は休みなさい。明日にでも人里を紹介がてら買い物に行きましょうか」
詩「そうですね、記憶が無いですから色々疲れましたからね」
様々なことがあったから正直疲れた。
霊「それじゃあ、早めの夜ご飯にしましょうか?」
詩「いえ、寝ることを考えた途端。一気に体が怠くなって来ました。お先に寝させて貰ってもいいですか?」
霊「大丈夫よ。気にすることは無いわ」
そういうと霊夢さんは部屋の中に入って、布団を敷き始めた。
詩「あ、それは俺が……」
霊「いいのよ、どうせ今日だけの事なんだから」
そして、霊夢さんはテキパキと用意を終わらせてくれた。
詩「ありがとうございます」
霊「いえいえ、それじゃお休みなさい詩音」
詩「はい、お休みなさい霊夢さん」
霊夢さんは麩を開ける。
霊「そうだ」
詩「はい?」
霊「私のことは呼び捨てで良いわよ?むしろそうしなさい。こっちは何かむず痒いのよ?」
詩「そうですか、ではそうさせてもらいますね」
霊「それだけよ」
霊夢はそう言うと、部屋を出て行った。
詩「ふぅ……」
今日は本当に色々あったな。
明日は何が起きるんだろうか。
とても楽しみだ。
俺は徐々に瞼が降りていくのがわかった。
いい夢が見れるといいな。
そして俺は眠りに落ちた。