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悩める古道具屋 -恐ろしき人形-

作者:與七
香霖堂には、古道具の買い取りや鑑定に訪れる客も多い。無縁塚を拠点とするナズーリンをはじめ、魔理沙も幻想郷のあちこちを周っては外の世界からの落とし物を拾ってくる。だが、その大半は他に別の道具が必要でなければ作動しなかったり、現在の幻想郷では需要が無い・あるいは使い道のないものばかりである。そして、たまにあるのである。恐ろしくとんでもないものが持ち込まれるということが。

―カランカラン
「こんにちは」
緑の艶やかなロングヘアをなびかせつつ、一人の少女が店に入ってくる。
「いらっしゃい・・・何だ君か」
「ちょっと、なんでそんな顔するんですか」
僕のやる気のない顔を見た早苗は不満そうに口を尖らせる。・・・彼女もこの店に「お客さん」として来る確率が低いからである。
「今日は私、ちゃんとお客さんとして来ましたからね。冷やかしじゃないですよ」
これは珍しい事だ。しかし、同時に何か嫌な予感がする。
「そう・・・で?何をご所望かな?」
読んでいた本を閉じると、僕は早苗の方に体を向ける。
「あ、いえ。買い物ではなくて鑑定をですね・・・」
そう言うと、早苗は持ってきた風呂敷包みを解く。中に入っていたのは小さな木箱である。
「これをお願いします」
早苗は木箱の蓋を開けると、中から一体の人形を取り出し、僕の目の前に置いた。長い黒髪の日本人形である。
「何だいこれは」
「日本人形ですよ」
早苗が僕の顔を見上げながら言う。
「それは見ればわかるよ」
まさか開店早々こんな物を持ち込まれるとは。しかしこれは・・・
「どこで拾ったんだい?これ」
「守矢神社の境内に何故か落ちていたんですよ。いつの間にか」
「・・・」
「それで、店主さんに鑑定を依頼してもらおうかなーって・・・」
うーん・・・何かすごく嫌な予感がするぞ。僕はじっと人形を見つめる。人形の目も僕を見ている。見た感じ、普通の人形ではあるのだが・・・
「どれどれ・・・」
僕は人形を手に取って見た。・・・うん、能力を持って見ても、何ら異常は見られない。ごく普通の「玩具用の人形」、それが結論である。そもそも未知の道具ですらない、これはただの人形だ。
「どうでしょうか?」
早苗が僕の顔をまじまじと見ている。どうなんだろうという期待の表情をしているが・・・そんなふうに考えていても後でがっかりするだけだ、と言いたい。
「普通の人形だね。特に、これといった価値は無い」
「えー、それだけですか」
案の定、早苗は落胆の表情になっている。やっぱりか。
「だから、仮に買い取るにしてもそんなには高くならないよ」
「そうですか。残念です・・・」
早苗はしょぼりした顔で言う。
だが・・・
僕はもう一度人形を見つめてみた。何かの怪しい儀式に使われたとか、呪いの込められた雛形とか、そういうものではない。が、何かあるのではないか、と一度考えてしまうと、どうにも不気味に思えてしまう。今の所は異常は無いにしても、後でトラブルになる事は極力避けたい。
「ところでこれ、ここに持ってくるまでに何かしたかい?」
「何か?・・・って何ですか?」
「お祓いとか、さ」
「とりあえず、応急処置と言うか・・・。私の護符をペタッと一回張りました。それで悪霊みたいな邪悪なものは一切憑りつきませんよ」
ちょっと待ってくれよ・・・それだけで本当にいいんだろうか?
「『悪霊みたいな邪悪なものは憑りつかない』っていうけど、『それ以外のものは憑りつく可能性はある』って意味にも聞こえるんだけど」
「え?あ、ははは、まあ、そうなんですけど・・・」
早苗がしどろもどろになっている。
「君も巫女なんだから、そういうのはきっちりやらないと駄目じゃないか」
「うう・・・」
・・・やはり危険だろう、これは。おかしなことが起こってからでは遅い。
「餅は餅屋だから、こういうのはアリスに判断してもらうのが一番じゃないかな」
「それが・・・」
早苗が僕の顔から目を反らした。
「アリスさん、留守なんですよ。どこに行ったのかわからなくて・・・」
うーん、それなら仕方ないな。早苗には悪いけど、僕ははっきりとした判断を下さねば。
「僕の所では買い取る事はできない。すまないが持って帰ってくれ」
「ええっ!嫌ですよ、祟られそうじゃないですか!」
・・・君は巫女さんだろう。何を言ってるんだ。
「丁重にもてなしてあげるといい。そうすれば喜ぶと思うよ」
「そんな余計なことをして、魂が宿ったらどうするんですか!」
「・・・さっき悪霊の類は憑りつかないって言ってたじゃないか」
「それはまあ、そうですけど・・・あの、この人形、本当に大丈夫なんですか?」
早苗が不安そうな声で言う。
「はあ?」
僕は思わず呆れた声を出してしまった。
「・・・僕の鑑定が信用できないって事かい?それとも、君の除霊に自信が無いと―」
「実はですねー、何か怨念みたいなのを感じるんですよ、ずっと」
え。
「それも、恨みと憎しみのような念がふつふつと」
ええ・・・。
「人形を出してからずっと気になっていたんですよね。しかも、だんだん大きくなっているような」
まさか。僕はもう一度人形の方を見た。おかしい。これは呪いの人形などではない・・・はずだ。僕の能力に狂いが?いやまさか、まさか・・・未知の物ならすぐ判断できる。が、これはごく普通の・・・人形・・・のはず。
「店主さん」
早苗が怯えた声で言う。
「念が・・・どんどん強くなっているみたいなんですけど」
「何だって?」
「周囲から・・・怒りと憎しみの念が・・・」
「どういうことだ・・・」
ふいに、道具棚のガラスが音を立てて割れた。
「いやぁ!」
早苗がビクンと体を震わせる。一体何が起こっているんだ?やんちゃな騒霊姉妹の悪戯であってほしい・・・がそういうわけにはいかないようだ。
「怒ってますよ・・・人形さん」
「なっ・・・。おいおい、さっき除霊したんじゃ」
急に机の上のものが、ガタガタと音を立てて振動を始めた。どんどん揺れ幅は大きくなっている。
「これは・・・」
ここに来て、ようやく僕もその「念」というものを感じるようになった。
(許さぬ・・・)
「これは・・・一体」
「人形さんの怒りですってば」
早苗が悲鳴に近い声を出す。
「確かに怒っているようだ。僕にも聞こえる」
(何故こんな事をした)
言葉が耳に直接入ってくるような奇妙な感覚だった。しかし、この人形が・・・まさか。
僕はもう一度、人形の方を見た。この人形の念なのか?いや、何度もそれは考えているが在り得ない。普通の人形のはず・・・
「あ、あの、やっぱり除霊が不十分だったようです!」
早苗が慌てた声で言う。おいおい、今更じゃないか!
「ええい、もうこうなったら仕方ありません!強制成仏です!」
早苗は人形の前に行くと、お祓い棒を高く振り上げる。
「強制南無じょ・・・」
「待ちなさい!」
突然の怒鳴り声に早苗の動きが止まった。僕も思わず体を震わせる。
いつの間にか開いた扉のそばに一人の人影があった。
「ふう、守矢の巫女ともあろうものが、だらしないわね」
声の主は霊夢だった。霊夢は店の中に入るなり、顔をしかめる。
「・・・相当ご立腹の様子ね」
「あ・・・あの」
「いいから、後は私に任せて」
霊夢は早苗の目の前の人形をちらりと見る。
「あの、そのお人形さんが・・・」
「いいえ」
霊夢が即座に否定した。
「怒りの主はこっち」
霊夢が指さした方向にあったのは、人形を入れていた木箱であった。
「うん、やっぱり。この木箱から強い念が出てるみたいね。どうやら、どこかのご神木が削られて作られたようね。可哀想に・・・」
霊夢はそう呟くと、護符を一枚取り出し、木箱に張り付ける。
「どうか無礼をお許し下さい」
霊夢は木箱に向かってそっと手を合わせた。
それと同時に、激しい怒りのような念は消滅するような感覚を覚える。
ガタガタ動いてた机の上の置物も、ぴたりと振動をやめた。
「はい、除霊完了っと」
霊夢はふうっと息を吐くと、僕たち二人の顔を睨み付けた。
「何やってんのよ、あんたたちは」
「いや、僕は・・・」
「まあ、霖之助さんは多分関係ないでしょうけど」
あ、すぐにターゲットから外れた。
「早苗」
霊夢が厳しい表情で早苗に詰め寄る。
「あんたねえ、これ持ってくる最中なんかした?粗末に扱ったりしたんでしょ?そうでなきゃ・・・」
「いえいえ、そんな事してませんよ」
早苗は大慌てで釈明する。
「ただ、その・・・来る直前に、思いっきり箱を落としちゃって・・・」
「・・・」
霊夢が鬼の形相で早苗を睨んでいる。
「もしかしたらそれが原因で・・・」
「ふうん・・・」
「人形の方は除霊しましたけど、箱のほうは全然気にしてなくて」
「それでよく巫女を名乗ってられるわねえ、片腹痛いわ」
霊夢は軽蔑の表情で早苗に言う。
「妖怪や悪霊退治の専門として、きっちり仕事をこなせないなんて、随分たるんでるわね」
「うう・・・すみません。つい」
早苗は相当落ち込んだ表情をしている。うっすら目が潤んでいるような・・・
「人形だけに目を取られていて、箱の方はノーマーク・・・ちゃんと入っていた箱のほうも念入りにチェックすべきだったわね。ま、幸い今回は大した事は無かったけど」
・・・店の棚のガラスが思いっきり割れたんだけど。これは早苗に修理代を請求してもいいんだろうか。
「まったく、やっぱり異変解決といえば私よね。まだまだ、あなたには負けられないわよ、早苗」
霊夢が挑発的な口調で早苗の方を見る。
「この前は、まあ・・・お手柄だったみたいだけど」
霊夢が風邪でダウンしていた時か。あれは確かに早苗がいなかったら大変なことになっていただろうな。
「すみませんでした・・・私の不注意です。店主さん、ごめんなさい。霊夢さんも、助けて頂いてありがとうございました」
早苗は申しわけなさそうに頭を下げた。
「人形さんも、疑ってしまってごめんなさい」
早苗が悲しそうな目で人形を見た。その様子を見ていた霊夢は思わず吹き出していた。
「ちょっと、なんでそれにも謝ってんのよ。馬鹿じゃないの?」
霊夢が苦笑しながら早苗に言う。
「原因はこの人形さんだと思ったんですよ。それで―」
早苗が霊夢の方に顔を向け、人形から目を離した次の瞬間―
人形が、すっと浮かび上がった。
「きゃあっ!」
早苗が思わず悲鳴を上げる。霊夢も同時に驚愕の表情を浮かべた。
僕も体が凍り付いたように、全く動けなくなってしまった。
浮かび上がった人形は、ふわふわと宙を舞い、そのまま店の中を何をするわけでもなく、ただゆっくりと飛び回っている。
「えっ・・・えっあの」
うろたえる早苗に、霊夢が呆れ顔で言う。
「・・・除霊」
「あ、はい・・・」
「したって言ったわよね」
「はい、ただ・・・」
早苗は言いにくそうに霊夢に向かって説明する。
「確かに悪霊の類は絶対に憑りつかないように除霊はしました。でも・・・」
「それ以外の霊が憑りつく可能性はあったんだ」
僕は霊夢に向かってフォローの言葉を述べた。
「はあ、こういう中途半端なやり方してたら、いつか痛い目に逢うわよ。守矢の社の信仰心が暴落する日は近いかもしれないわね」
霊夢は早苗に向かって不敵な笑みを浮かべている。他人の不幸は蜜の味、みたいな表情を具現化したような表情だ。
「うう・・・面目ないです」
早苗はしょんぼり顔ですっかり萎縮しまっている。
「・・・あーあ、浮遊霊が憑りついちゃったこれ、どうするのよ?」
霊夢が溜息をつきながら、ふわふわと店の中を飛び回る人形を見つめる。
「うう・・・ごめんなさい。どうしよう」
「まあ、人畜無害だし、別に問題は無いって言えば無いけど」
「だったら、外に出してあげるのが一番じゃないかな」
僕は霊夢と早苗に向かって提案する。
扉を開け放つと、人形はゆっくりと店から出て、そのまま何処かへと飛び去っていった。
「どこへ行くんだろうね」
「さあね。無邪気な霊のようだし、そのうち妖精と遊んだりするようになるんじゃないかしらね」
「うーん・・・やっぱり」
早苗が考え込んでから再び口を開く。
「幻想郷では、常識にとらわれてはいけないんですね」
「・・・呑気な事言ってんじゃないわよ。騒動の原因を作っておいて」
霊夢はまた呆れ顔で早苗に言う。
「まあまあ、いいじゃないか」
僕は二人の間に割って入った。
「ちょっと迷惑は迷惑だけど、まあ、たまにはこういうことがあってもいいんじゃないのかな」
「随分寛大ね、霖之助さん」
霊夢が僕の顔を見上げながら言う。
「そうですよ」
早苗も明るい顔に戻っていた。
「何というか、こういう事もあるのが幻想郷って感じで」
「・・・はは、あまりにも面倒な異変や事件は勘弁してほしいけどね。まあ、これぐらいならね―」
僕はゆっくりと飛び去っていく人形の背を見ながら言う。

香霖堂には、未知の品物の買い取りや鑑定に訪れる客も多い。その度に僕は自分の能力を活かすのだが、たまにあるのである。恐ろしくとんでもない事に使われる品物が持ち込まれるということが。外の世界では、妖怪並み、いやそれ以上に恐ろしい事を平然と行っている人間がいる事も当然知っている。そういうものを沢山見てきた身としては、今回の出来事は単なる笑い話で終わってしまうわけだが・・・。それでもこの香霖堂の主人という宿命上、これからいくつもの恐ろしい道具の鑑定をしなければならないという事実は変わらない。たが、それは本当に楽しく面白い仕事ではある。それは僕にとっては恐怖でもあり不安でもあり、同時に感動や興奮でもあるのだから。

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