6章:火炎
きー、ばたん、きー、ばたん。
シーソーに座る場所は4箇所あり、彼は前に、彼女は後ろに対面するように座っていた。
打ち付けられる部分にはタイヤを使い、衝撃を和らげていた。
「こうしていると恋人のようね。」
嬉しそうに彼女が話す。
「こんな年でシーソーするカップルは見たことないですね。」
面倒くさそうに彼は返す。
「そろそろあなたの話を聞きたいわ。」
「なんの話ですか?」
彼女をまっすぐに見つめる。
彼女の目から強い意思を感じた。
「別に隠すような話では無いのですが。」
幾重にも巻いたマフラーをゆっくり解いた。
首は紅く染まり、辿っていくと全身に巡っているようだった。
まるで大木の根のようにそれは全身に広がっている。
彼は首を傾け、歪んだ顔で白い息を吐き出した。
「生まれた時から体にこれが張り巡っていました。廃屋を締め付ける植物のような感じですかね。」
彼女はシーソーから降りて彼の元に寄っていった。
恐る恐るそれを触ると、熱さが指先を走ってきた。
「かなり熱いわね。火傷しちゃうかと思った。」
「ミユキさんこそ異常に冷たいですね。」
この時、きっと僕は彼女以上に驚いていたと思う。
彼女の氷のように滑らかで冷たい肌に。
しかし、今は自分の話に集中しよう。
「僕は昔から体温調節が上手く出来ません。冬以外は殆ど外出することができなかった。僕には外界は熱すぎた。」
彼女は黙って彼の言葉を待った。
「子供の頃から室内に篭ってて、幼年期の記憶があまりありません。薬を幾つも飲み、生きる為に苦しんでいました。なんとか状況は緩和され経時的に自由度も増しましたが、状態は悪いままです。今は感覚が殆どありません。さすがにお医者さんにも長くは無いと言われ、死ぬまでの少しの猶予を楽しんでいます。」
そして、彼は憂いを誤魔化すように微笑んだ。
《僕は何の為に存在しているのでしょうね。》