5章:静謐
「奏くん、何ぼーっとしてるの?」
僕はふと我に返った。
「すいません、少し考え事していました。」
腰を下ろして、2人でブランコを漕ぎ始めた。
伸ばすタイミングと曲げるタイミングが重要だ。
きーきーきー。
「奏くんは、世界の形について考えてみた事がある?」
早速本題に入ったようだ。
なんの前振りもないのでいまいち意味はわからないが、率直な人間は無駄がなく効率的に思えて好感が持てる。
「それはどういう意味でおっしゃっているのでしょうか。地球は球体って答えは求めて無いですよね。」
彼女は正面を見つめたまま話を続ける。
「そう。そんな物理的な話ではなくて、概念的なもの。世界とか森羅万象ってどのような機構、形態を持って存在しているのか。」
想像よりも遥かにマクロで抽象的な話題が提示であることを理解した。
なるべく失礼がない程度に頭を回しながら回答する。
「ベクトルとかどうですか。極小の一つ一つの出来事が時間という流れに沿って、無限に進んでいる。そんなイメージで。」
彼女は幼稚園児のように板の上に立って漕ぎ始めた。
「そうね。線も規則に則った点の集合。その考えは悪く無いように思う。けど、無限という事は曖昧な状態だということ。そんな不安定な基盤を世界が採用するかしら。」
そう言われれば、そうなのかもしれないと思った。
彼女はブランコから飛び出して、次の遊具の元に向かった。
僕は黙ってついていく。
彼女は球状ジャングルジムをくるくる回し始めていた。
左から右へ、左から右へとサーキットのように、目の前を通り過ぎ続ける。
「ミユキさんは円だと考えているのですね。」
彼女はおしゃべりのようで意外と多くは語らない。
こちら側からある程度は推測しながら干渉していく必要があるようだ。
「せーかい!世界だけに。」
僕は黙って、睨んだ。
「円状ならば常に予測の範疇に置くことができる。不安定さに怯える必要は無い。」
直線よりはマシな解答かもしれない。
「しかし、世界のシナリオが既に作られていて、それを世界がただ演じているだけだとしたら、どうですか。それなら線の両端を断定出来る。」
こういった議論は止めてしまうとそこで終わってしまう。
アイディアを恐れず提案してみた。
「なるほど、運命論に近いわね。私もその考え自体は否定しない。ただ私にはこの世界が一度きりのものではなく、循環しているものにしか思えないの。」
回転は次第に遅くなり、彼女の残像は消えてしまった。
反対側に彼女は一人置き去りになっていた。