事務所
濃い茶色の髪。
青いジャージ。
銃声。
跳ねる肩。
右太股からの流血。
漏れる息。
クラインは、3階から4階へと繋がる非常階段の踊り場にある非常ボックスの陰に倒れていた。
「なんで」
「なんでこんなことに」
「ジョージ」
「なんで」
呟いていた。
聞くものはいない。
クラインはある組織の下っぱだった。
クラインには仲間がいた。
この街に来る前から、一番最初の悪いことーーーひったくりをやったときから一緒だった仲間が。
ジョージが。
半月前、事務所にやってくると自分達の上司にあたる人間がジョージの鼻をつぶしていた。
慌てて駆け寄ったが、他の連中に止められた。
あいつは下手を打ったのだと囁かれた。
ジョージが持ち込んだ仕事は実は元々敵対組織が絡んでいたもので、ある証拠をこちらで持っていなければどう転んでも相手方が得をする内容だった。
ジョージはひたすらマグカップで顔を殴られ、気を失ってやっと解放された。
ジョージを背負いながら地下倉庫へ向かい、転がっていた布切れを水道で濡らして顔をぬぐってやると、ジョージが意識を取り戻した。
怯えるように顔をあげたが、クラインだと気づくと安心したように息をついて、うなだれた。
「やっちまった。うちの組織が危ない」とだけつぶやいた。
それから必死でクラインは相手組織の持つものを探したが、それが何かもわからないままだった。
そして、今夜。
クラインはジョージからの着信に気づかないまま、事務所へ帰ってきた。
エレベーターが動いていなかった。
故障か。古いビルだからな。
クラインは仕方なく、自分たちの待機場所である4階へ向かおうと非常階段のドアをあけた。
登りながら
(2階)
ふと携帯を見て着信に気づく。
(2階と3階の踊り場)
立ちすくむ。
(3階)
一時間前。
12件。
間隔のない着信。
思考が止まった数秒の間の刹那に右の太股に熱が走り、クラインはバランスを崩して倒れた。
2階の扉のカギが閉まる音が鼓膜を震わせると同時に、堪え難い痛みに変わった。
なにがあった?
何が起こった?
ジョージは?
この着信はなんだ?
撃たれた!
誰に?
ジョージに?
上の階から、銃声と怒号が聞こえる。
クラインは体の冷えを感じながら、意識を手放した。