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九十九話

 単身フォボスへ戻ってくると、長老に会ったのよ。長老も笑顔で迎えてくれたわね。



 「アルマじゃないか。他の皆はどうしてるのかね?」

 「砦の建設を開始してるのよ。全員総出で作業してるわ」

 「場所はどこかね?」

 「ここから33キロ行った上り坂の頂上よ。あそこだったら敵は坂を上って攻撃してこなきゃいけないし、こっちは下へ向けて砲撃するからね。地の利は最上だと思うわ!」

 「なるほど。そこまで距離があるなら、この町への影響もあるまい」

 「でしょ? ただ補給という観点からすると、遠いかなって気はするわね」

 「であれば、坂を登る手前で補給物資の集積所を作れば良かろう?」



 確かに敵はあそこを越えない限り、こちらへは来れない。道沿いに海を船で来る手もあるけど、潮流が激しくてそれも難しいだろうね。集積所の警備は最小限で大丈夫だろうけどさ。物資の集積所としてだけではなくて、兵士達の息抜きの施設も作ってあげればいいのかも。それも提案しておこうかな。



 「ところで、長老の爺ちゃんさ。人が足りないのよ。圧倒的に! 作業者も足りないし、兵士も足りない。武器も足りないの。大砲は今あるだけ持っていきたいとこだわね」

 「ふむ。ならばフォボスの人員を動員できる限り手配しよう。その砦が完成すれば、この町は安全になるからのう」

 「でね、リゲイルはフォボスと同族が支配してる町でしょ? 協力を、最大限の協力を引き出して頂戴よ。スヴァルにも呼びかけて!」

 「うむ! すでに使者は出しているが、早急にまた使者を出そう。現在の状況を教えてやれば良かろう」

 「うん、それでいいと思う。私は旧スラール王都へ戻るよ。ニコの部下は魔族とのハーフで構成されてるから、内力の使い手も強力なのが多いんだよ」

 「アルマ。その内力だが、お前は内力とは魔族に対抗する為の体内の力の使い方と言わなかったか? すくなくとも私は、そう解釈していたのだが」

 「うん、間違えてないよ。魔族に対抗するための力だよ」

 「ならば、別にハーフの連中を呼ばずとも良かろう?」

 「いやぁ、それがね~……アラディンの奴がねー」

 「奴が? 何かをやらかしたのかね?」



 私はアラディンが内力を使った剣技が岩をバターのように斬るのに着目して、土木作業員として内力の使い手を酷使してると教えてやったんだ。



 「そんな使い方は言われるまで思いつかなかったぞ。だが、内力の使い手達は不満に思ってないのか? 己が武力に自信があれば、そんな使われ方はイヤではないのかね?」

 「いやぁ、あの子たちは今は魔族と、そして将来的には自分達を偏見の目で見て、攻撃してくるだろう人間達との戦いの為に、内力を覚えたんだけどね。もし平和になって戦う事がなくなっても、内力を覚えた事で手に職がついたと喜んじゃってね」

 「そうなのか? 確かに石材を一定の形に削り出すなど大仕事だから、それを簡単にやってのける技術は素晴らしいと思うが……」

 「私もね~、自分の亭主を魔族に殺された恨みもあるしさ。内力を魔族を一掃するための武術と位置付けてきたんだけど、生活のための技術として広めた方が良かったと思うようになったよ」



 長老と内力の平和利用について雑談した後、私はフォボスに別れを告げて旧スラール王都へと戻ってきた。ルージュは私の目的を知ってるので、これはと思う獣魔族の連中に声をかけてまわっていた。私はニコに部下達をもっと貸すように直談判をしにいくのよ。ニコはガレスやランスローと剣の稽古をしていたので、すぐに声をかけたんだ。



 「よお先生、おかえり。俺の部下達は、しっかりやってたか?」

 「勿論よ。今頃は砦の建設で一生懸命に働いてるわよ」

 「なんだぁ? 砦の建設だぁ?」

 「そうよ。この大陸の南半分は魔族に支配されてると思っていいわ。この北半分が無事だったのは山脈があったおかげよ。でも北と南を繋ぐ回廊があった。そこを通って魔族は北を支配したのよ。だから、そこに強力無比な要塞を作るのよ。もう場所は選定したし、アンタの部下がメインで突貫工事してるわ」

 「俺、そんな話は聞いてねぇぞ!?」

 「我々も聞いてないぞ。アルマ、場所を変えて詳しい話を教えてくれ」



 ガレスの言葉にランスローも頷いてるので、クロヴィアの姫様にも声をかけて場所を会議室に移して話を続けた。



 「大砲の技術を教えてもらう事には成功したわ。技術者は来てるでしょ?」

 「来ましたね。ただ、我々の方には技術を伝えてもらうべき職人がいないのですよ。ここは仮に占拠してるに過ぎないですし」

 「俺の部下にも、そういった技術を継承できる奴はいねぇんだ」

 「ですから、我がクロヴィアまで来て頂いて、そこで技術を教えて頂く事になりました」

 「了解したわ。実際に見たけど、あれは戦争を根本から変えるかもってくらいの威力よ。その欠点は戦闘中に移動させる事が不可能ってことかしらね」

 「先生、その大砲ってなぁ、据えつけたら動かせねぇんだな? その大砲の前まで敵を誘導しなきゃダメって事だな? だとしたら魔法とかの方が使い勝手は良さそうだけどな」

 「そうね。ただし、魔法の使い手は少ないのよ。そして近接戦闘は内力を知らなかったフォボスの連中には無理。そこでフォボスの連中は大砲を船に取り付けたのよ。大砲は使い方を学べば、誰でも使えるのよ。魔法と違ってね。複数の船に多数の大砲を設置して、町を占拠した魔族どもに砲撃、殲滅したのよ」

 「なるほど……巨大な船に設置したならば、敵の攻撃が届かない場所から思う存分攻撃できますね」

 「そして多数の大砲の威力は、魔法使いの数十人分に匹敵するってわけか!」



 ランスローとガレスが感心している。



 「今回の例で言えば、敵が必ず通る場所は分かってるわけだから、予め大砲を設置すればいいわけよ。そして複数の大砲で殲滅するのよ。それが出来ると思ったから、私は砦を建設するに相応しい場所を見つけたわけ。フォボスは自国の安全の為に全面的に協力してくれてるわ」

 「では、フォボスとの間に信頼関係は築けたんだな? アルマがフォボスへ行くときに、5000の兵を連れて行けと言ったが、どうする今回は連れて行っても大丈夫なんだろう?」



 ガレスの言葉に私は頷いた。



 「そうね。その5000は内力も使える連中だから、ありがたく貸してもらうわ。それとニコ! あんたの軍からも、もう1000人ほど出しなさい!」

 「俺の軍は少ないんだぜ? そうホイホイと出せないんだけどなぁ」

 「そうなの? でも、ルージュは既に声をかけまくってるわよ」

 「マジで!?」



 じゃあ仕方ないか。そうニコは呟いてる。

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