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九十八話

 今、私達は野営した場所から、さらに3キロほど進んだ場所にいた。野営地から1キロも進んだ辺りから、とても緩やかな上り坂になっていて、ここはその頂上だ。

 とても緩やかとは言っても、2キロも上がれば海面との落差は、相当なモノよね。海側は切り立った崖になってた。

 そして、ここから先は下り坂になっていたのね。今まで長くて緩やかだったのが、この先は数百メートルで一番下まで降りる感じなんだよ。傾斜は上りに比べて、かなり急なんじゃないかな。


 この高台から、海の向こうを見ていると島々が連なっている。きっとクレーターの外周を形成してる山脈の一部なんだろうね。



 「アルマ! この場所を、どう思う?」

 「え?」



 遠くに見える景色に夢中で、何も聞いて無かったよ。ごめんよ、アラディン。



 「え、じゃないぞ。この地形をどう思うかと聞いてるんだ」



 私は気持ちを切り替えて周囲を見た。もしここで戦闘を行うとしたら、と。



 「海側は崖だし、反対側も山脈の山肌だから、ここに堅固な砦を築けば、難攻不落になるんじゃないかな?」

 「そうだろう? そう思うよな?」



 アラディンは水を得た魚のように、私に砦の構想を語った。山脈の岩棚などを利用して大砲を設置するとか、山脈の岩盤を削って通路を作り、重火器の場所まで行き来するのだとか、それはもう熱く語ってくれた。



 「岩盤を掘って通路を作る訳だが、この際に出た岩の塊を加工して、砦建設用の石材にすれば良いと思うんだ! 一石二鳥の良いアイデアだろ?」


 

 確かに良いアイデアだけど、岩を切り出すのも加工するのも大変なのに、敵が来るかもしれない状況の中でやるのは無理じゃないのかなって言ったのよ。

 そしたら、こう反論されたわよ。



 「アルマの弟子のクロヴィアの姫様は、剣で城の石材をチーズみたいに、ぶった切ったんだろ? そういう事が得意な連中を集めてくれよ」

 「何でアラディンが、そんな事を知ってんのよ!?」

 「この前、一緒に飲んだ時、うるせーくらい自慢しまくっただろうが!」



 そうだっけ? すっかり忘れてたよ。



 「集まらない時はアルマがやっても良いんだぜ。弟子より手際も良いだろうしな」



 分かったわよ。やるわよ、やりますよ。幸いな事に連れて来たニコの部下の中に、剣技の得意な子が何人もいたので、彼らに任せる事にしたのよ。最初は私も参加したんだけどね。

 適当な場所を石切場と決めて、内力を充実させて岩を斬って斬って斬りまくった。それをニコの部下達が運びだす。

 最初はとにかく、石材を積み上げて壁を作ってしまう事なんだ。敵が来ても大丈夫なようにね。

 私が石材を切り出すのを見て、やり方を理解した子達が、次々に石切りに挑戦して成功させている。石材が切り出されて、次々と積みあがっていくけど、もう人手が足りないのはハッキリしていた。今の仮に積み上げた壁でもコボルトやゴブリン程度なら防げるし、トロールやオーガー相手でも何とかなるかもしれないんだけど、超大型の奴が相手ではダメだろうね。

 アラディンだけは、石材を切りだして出来た空間を見て、「火薬を置くのに最適だ」などと呟いている。そして山脈の斜面に登って、ここに大砲を置くので平らにてくれとか、大砲を持っていくために緩やかな通路を作ってくれとか、色々な無理難題をニコの部下に告げている。

 


 「アルマ! ちょっと来てくれ」

 「なによ?」

 「ここ斜面なんだが、敵が登って来れそうな気がするんで、垂直になるように斬ってくれないか?」

 「分かったわよ。それにしても、こんな事に内力を使うとは思わなかったよ。これからの世の中は平和になっても、土木作業に従事する人達は必須のスキルになるような気がするわね」



 そんな私の独り言を聞いてたニコの部下達が一斉に頷いている。



 「まぁ、殺す為じゃなくて作る為の技になるんだったら、それもまた本望ってもんなのかしらねぇ」

 「魔族と戦う為に、そして我々の獣魔族の権利を守る為に内力を覚えたんですが、平和になった時の手に職をつける事にもなったようで、ありがたい事です」



 私の隣で作業してた子がニコニコしながら答えてくれた。なんかもう健気で可愛いなぁ。私も対魔王なんて大きく構えて武術道場を作ったんだけどさ。こんな事なら職業訓練所ってした方が生徒も集まったのかもね。ついでに凶暴な魔族をぶちのめす事にも使えるよって謳い文句でさ。

 それはさておき、アラディンの要求が多くて人手が足りないんで、私は一回戻る事にしたのよ。私がフォボスへ戻る間に、魔族が攻めてきたらどうすんだと、アラディンが心細さ全開の表情で言ってきたので、サラとシードを置いていく事にしたの。

 大体、アラディンの毎日のように改良が加わった砦の絵図面を見せてもらったんだけどね。こいつってば人間の皮を被った悪魔だよ、本当に。魔族がどこにいようと大砲が必ず重複して命中するような配置にしてあるし、大砲が間に合わず弓矢を装備した兵士を配置すればね、これまた矢が豪雨のようにと表現できるほどに密度の濃い攻撃ができるわけよ。おまけに大砲を搬入するための緩やかで大きな通路を使えば、絶え間なく補給と交代要員の派遣も出来るのよ。

 ちなみに砦の方は今は仮の壁だけど、本格的な壁は何段か段差を設けるらしいわ。一番下の段には大砲を装備して、上の段には弓兵を配置するんだってさ。


 さて私はルージュを連れて、フォボスへ帰りましょうかね。  

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