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九十五話

 「では、すでにスラールの旧領土を取り戻したと言うんだな?」



 フォボスの長老達にそう聞かれて私は頷いた。まぁアラディンに言ったことを、もう一回言うだけなんだけどね。大砲は作って設置してしまえば誰でも簡単に扱える。ただし、持ち運びには苦労するし、火薬の保存などにも気を使う。内力は身につけてしまえば常に絶大な力を発揮してくれるけど、そのかわり個人差が激しいし、長い時間をかけて修練しなきゃいけない。だから両方を上手く使えば魔族に対抗する最上の手段となる。


 

 「だが大砲の技術を教えて魔族を撃退した後、君たちが侵略してくるかもしれん」

 「またそれかぁ……。言っておくけどね、今まで内力だけで、ここまで来れたのよ。大砲が無くても私達は魔族に対抗できるのよ。だけど大砲があれば、もっと楽になるの。だからお互いの力を結集しようって言ってんのよ。言っておくけどね、大砲は懐に飛び込まれたら役に立たないんだからね?」



 頭の固い連中と話すのは疲れるよ。私がため息をつくと、アラディンが長老に言った。



 「我々が手を貸さなかった場合、それこそ魔族を撃退後に侵略の口実を与えるかもしれません」

 「私達はフォボスを侵略しようとしたスラールじゃないのよ。旧スラール王国は魔族撃退後は分割統治されるのよ。まだ細かい事は決まってないけどね」

 「そんな権利が君達にあるのかね?」

 「あるわよ。スラールが滅びた後、スラールの王族が領土を取り戻す為の戦いをしたなんて聞いたことも無いよ。もし戦後に出てきて領土を主張したって私が斬るわ。スラールがあっけなく滅びた後、マース王国は死霊魔術に頼って撃退したわ。おかげで国土は荒廃してしまってる。フォボスは大砲を開発して戦ってるじゃないの。クロヴィアは堅固な城壁を頼りに戦ったし、カレドニアは内力を使って撃退してるのよ。スラールが何をしたわけ?」

 「何もしてはおらんな」

 「でしょ? だから魔族撃退に多大な功績を残した国に三分割されるわ。北東をクロヴィア、南東をカレドニア、西を獣魔族の新国家がね」



 新国家についてはフォボスは何も知らないので、私はニコという英傑が立ち上げた国家だと説明したんだ。ニコのことを英傑なんて呼ぶのは抵抗があったけどね。意外な事にフォボスの連中はルージュ達のような魔族とのハーフに対しては同情的で、ある程度の共感も感じてたようだった。

 半分海賊みたいな連中でアウトローだし、広い海を渡って他の大陸や島国の異文化を見てる為なのかもしれないね。

 ともかく長老連中を納得させるのに時間はかかったけど、技術の交換に成功したんだよ。早速フォボスの町の兵士を中心に人を集めて、内力の説明と訓練に入ったんだ。その一方で大砲の技術を教えてもらったんだけど、これは鍛冶職人の分野なのかしらね?

 ランスローに使者を出して優秀な鍛冶職人を送ってもらう手筈をつけたの。そして私は夜も更けた頃にアラディンと会う約束を取り付けたんだ。



 「アラディンはいるかしら?」

 「ようこそアルマ殿、誰にも見られない場所って事で、俺の宿舎に来てもらったが構わないのか?」

 「構わないわよ?」

 「だが些か警戒心が足りないのではないか? 男の家に一人で護衛も連れずに来たんだぞ」

 「あぁ、そういうことね。私を押し倒せたら、この身体を好きにしてもいいわよ。出来ると思ってるなら好きなだけ試してみなさいよ。護衛を連れて歩かないのは私より弱いのを連れ歩いても仕方ないからよ」



 私は可愛く微笑んでおいでおいでと手招きしたけど、アラディンは来なかった。もし来たらボコボコに殴りまくって舎弟にしてやろうと思ったのに残念だわ。



 「やめておこう。無理矢理やるのは趣味じゃないんでね。で、こんな夜遅くに何の用なんだ?」

 「実は大砲の事よ」

 「色気の無い話だな。硝煙のニオイが漂う話かよ」

 「まぁ、そう言わないで聞いてよ。大砲は威力が強いわりに扱いが簡単なのが最大の長所よ」

 「狙いを定めて思った場所に当てるのは結構難しいんだがね」

 「私達が教えてる内力ってのは、大砲に例えるなら狙いを定めるどころか、それ以前に弾を込めるところからして難しいのよ。その代わり覚えてしまえば火薬も弾丸も不要なのよ」

 「だからこそ、簡単に扱える大砲が欲しかったんだろ? そこまでは聞いたんだ」

 「もっと簡単に扱える小さな銃を開発して欲しいのよ」

 「なんだと?」

 「私が異世界から来たってのは話したわよね?」

 「与太話じゃなかったのか?」

 「実は真実よ。私の元の世界には大砲も銃もあったのよ。殺傷力が高いし子供でも人を殺せるくらい簡単だから法律で所持することを禁じられてたのよ」

 「ガキでも扱えるほど簡単だぁ? 火薬の扱いを間違えれば危険だし、大砲なんざガキの扱えるもんじゃねぇぞ!?」

 「大砲じゃなくて銃よ。と言っても私も本物は見た事が無いし、細かい構造も分からないのよ。だから大まかな事を教えるから、フォボスで研究して欲しいのよ」

 「そうか、だからアルマは大砲にこだわってたんだな? お前の世界じゃ殺傷力の高い武器だと知ってるからこそフォボスへいち早くきたんだな?」



 私は頷いた。私はまず火縄銃ってものがあったことを教えた。その後の銃の進化について教えるとアラディンは身を乗り出して私の話を熱心に聞いた。途中で色々と細かい質問もされたが、それについては答える事ができなかったけど、アラディンは満足そうだった。


 

 「よし、銃を作れって話は分かった。明日、大砲の職人のところへ行くのでアルマも是非来て欲しいんだが、大丈夫か?」

 「大丈夫よ。それと大砲の職人だけじゃなくて、鍛冶職人や関係ないかもって思うような他の分野の職人達も連れてきてちょうだい」

 「分かったが、何故だ?」

 「私が聞き覚えていた事を実際に形にするとなると、色々な問題が発生すると思うのよ。だけど、意外と関係ないと思われた技術者が日常的に使ってる技法で解決したりすることもあるの。だから困った時の知恵袋としてね」

 「そういうことか。なら隠居して知識豊かな奴を集めておこう」



 これで銃を作る筋道は出来たかな。


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