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九十四話

 種族名をどうするか? それで盛り上がってるうちにフォボスが見えてきた。とりあえず(仮)獣魔族を連れた私を発見したのか、フォボスからも護衛をつれて男が出てきたんだ。アルスはどっちかっていうと白い肌をしてて、体型も若干細い印象の人だった。目の前にいる男はアルスとは逆で黒く焼けた肌をした逞しい身体をしているね。



 「俺の名はアラディン。フォボスの代表者だと思ってくれていい。お前達はフォボスに何の用で来たのか?」

 「アラディンね。私の名前はアルマよ。魔王軍討伐の主要メンバーの一人だと思ってちょうだい。フォボスへ来たのは魔族から取り戻す為だったんだけど、貴方達がすでに取り戻したみたいね」

 「そうだ。この大陸が魔王に征服されてから20年近くになるだろうが、最近になってようやく、取り戻せたんだ」

 「で、私達としては、フォボスに協力して欲しいわけよ。色々とね」

 「何が欲しいんだ?」

 「大砲の技術よ」

 「それは出来ないな。これを教えれば魔族を撃退するのは楽になるだろうが、魔族を滅ぼした後に大砲を使ってお前達が侵略してくるのではないか? 俺達フォボスはスラールからの侵略に対する防衛の歴史で出来ているんだ」



 やっぱりねぇ……

 そういう危惧は常にあるよね。今は魔族との戦争でそれどころじゃないけど、それが終わったらって考えてしまうのは仕方ないことなのかな。こうやって技術の出し惜しみをして魔族に滅ぼされてしまったら、後で他国に侵略されるかも、なんて心配をする意味もないって思うんだけどね。

 だから私は当初の予定通りに、こっちの切り札を教えてやろうって思う。



 「ところでアラディンは、20年近くも魔族が跋扈してたのに、どうして領土を取り戻せたんだと思うのかな?」

 「この大砲の威力のおかげだ! と、言いたい所だが違うな。理由は分からないが、最近になって急に魔族の数が減ったんだ。そこへ大砲を使ったんで簡単に取り戻せたんだと思う」

 「あくまでも大砲の威力だって言い張ったら笑ってやろうかって思ってたのにね。魔族の数が減ったのは勇者の血族が立ち上がったからよ」

 「勇者だって!? 本当か!? 昔、スラールに現れたと聞いたが、直後に魔王配下の魔族軍団がスラールに雪崩れ込んでスラール諸共に滅びたって聞いたぞ?」

 「スラールに現れた勇者が本物か偽者か、それは知らないわ。本物だったとしても子孫だってだけで勇者の力は覚醒してなかったんだと思う。勇者なら、その力で魔族軍団を滅ぼしてたはずだからね」



 アラディンは私の言葉に頷いた。



 「実を言えば勇者の血族を保護する隠れ里がカレドニアにあったのよ。そしてどうして知ったか知らないけど魔王は隠れ里を奇襲して勇者の血筋を滅ぼしたの」

 「なんだって!? じゃあ、我々はお終いじゃないか!! いや、さっき勇者が立ち上がったと言ったじゃないか!!」



 勇者の血筋が滅びたって言葉が衝撃的だったのか、アラディンは噛み付くように私に言ったんだ。まぁ仕方ないとは思うよ。この世界の人間って勇者への依存が強すぎるもんね。



 「勇者の村が滅ぶときに、私は勇者の村の青年と恋仲になって身篭ってたのよ。私だけが秘密の地下の部屋に隠されて生き延びたんだよ」



 本当は私がアルスに妊娠させろって迫ったんだけど、物語は美しく語りたいよね? ちょっとウソを混ぜちゃった。アルスが生きてて、この話を聞いたら恋仲でって辺りで盛大に文句を言ったことだろうけど、死人にくちなしたぁ、このことよ。



 「魔王は己を滅ぼす存在がいなくなったと確信して、この世界をジワジワと滅びへ追いやって楽しんでたんだと思う。だけど、つい最近になって勇者の血筋、私の子供だけど生きていた事を知ったわけ。それで狼狽して魔族の中でも強力な力を持つ配下を魔王を守る護衛として引き上げさせたのよ」

 「だったら、もう勇者様に任せれば良いんだな?」

 「そうはいかないわよ。それなら大砲の技術をくれなんて言うわけないでしょ? ウチの子供達は覚醒してないのよ。魔王にしてみりゃ下手にチョッカイだして覚醒されたら薮蛇だし、守りを固めるしかないってわけよ」

 「覚醒はしてないが、魔王の侵略を鈍らせる程度の活躍はしてるってことか。その間に我々で魔族に奪われた領土を取り返すってことだな? その為に俺達の大砲が必要だと」

 「そうよ。そして私達は一方的に要求はしないわよ。大砲の技術を供与してもらう代わりに、内力についてフォボスの人達に教えるわ」

 「なんだ? その、内力ってのは」

 「内力ってのは人間の身体にあるエネルギーのことよ。それを上手く活用することで常人よりも遥かに優れた力を発揮することが出来るのよ」

 「そんな事が出来るのか?」

 「出来るよ。勇者として覚醒しなければ勇者の血を引く者達だって普通の人間でしかない。魔王はそれを知ってるから勇者の村を奇襲して滅ぼした。じゃあ、何故覚醒してない私の子供を相手に総力戦を挑まないのか? 不思議だと思わない?」


 

 アラディンは目を見開いて、確かにそうだと言ったのよ。以前に成功してるなら、今回だって覚醒する前に倒してしまえばいい。勇者を滅ぼす為なら、どれほど配下が死滅しようが関係ないじゃないか。何故やらないのかと。



 「それが内力って力のせいなのよ。内力を使いこなせば勇者とまではいかないけど、相当な強さを発揮するわけよ。魔王は勇者についての知識はあるけど、内力については知らないのよ。だから子供達が発揮する力を見て、覚醒しかけてるのかもしれないと怯えてるんだよ。下手に手をだして覚醒されたら、そこで魔王は終わるんだからね」

 「では、その勇者の力とも取れるような力を教えてくれるっていうのか?」

 「そうよ」

 「そんな力を、魔王ですら知らない未知の力を何故知ってるんだ?」

 「それは私が異世界から来た人間だからね。ウソだと思ってもいいよ。ただし、内力は本当だよ。アラディン達が大砲を使って町を取り戻したように、私達はスラールの領土を内力を使って取り戻したんだからね」



 現に私達はフォボスまで来た。その事が内力の有用性を示す材料となっていたので、アラディンは大砲と内力の技術交換に乗り気になったんだ。でも大砲の技術を他国の者に教えるかどうかは、アラディンだけでは判断できないと言われたのよ。それでアラディンだけでなくフォボスの有力者達に色々な情報を聞かせたいということで、私達はフォボスの町へ入ったのよ。 


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