九十二話
カレドニアの王へ早馬を出して半月が過ぎたわ。返事が来るまでの間に、私はスレッジに頼んで次の都市を偵察する事にしたのよ。 やはり常に先を見て行動しておかないと、ダメだと思わない?
スラールの領土はデルゴーまでで、ここから先は都市国家が、いくつかあったんだって教えてもらったわ。
まずデルゴーから北西にあるのがフォボスね。デルゴーから街道を通っていけるのは、このフォボスだけなので次の目標は、この都市だね。
「姐さん、フォボスを偵察して来ましたぜ!」
「珍しく興奮してるわね? どうしたのよ?」
「聞いて驚いてくださいよ。フォボスの連中は生き延びてましたぜ」
「どうやって!? まって! それはランスロー達も集めてから報告を聞くよ」
「じゃあ、私が集めてきましょう」
数時間後に全員を集めてから、フォボスについてのスレッジの報告を聞いたんだけどね。元々フォボスの人達は海洋民族と言ってもいい連中で、このエドリアル大陸から遠く離れた島を本拠地として生活してたんだって。時には他の島々で生活する人達を襲撃して略奪したっていうから、元の世界で言うバイキングとか海賊みたいなもんなのかな?
そんな連中が偶然フォボスのあたりに来た時に、港にしたら良い地形だったので拠点を作り、発展して大きな都市国家になったんだってさ。魔族の襲撃を受けた時は元々の海洋民族としての生活を受け継いだ人達はいち早く海へ逃れ、他所の土地から移住してきた人達は海へ逃げる人達とは別行動を取った。おそらくスラール帝国や近隣の都市国家へ逃げたんだと思うけど、ほとんどの人達は逃げ遅れて魔族達に殺されてしまった、らしい。
「フォボスの連中は島から時々様子を見に来てたらしいんですがね。目に見えて魔族の数が減ったんで上陸して魔族を追い払ったってんですよ」
「あのさ、フォボスの人達は内力を知らないのに、どうして魔族を追い払えたのよ?」
「連中の本拠地の島って場所で、燃える砂を調合したらしいんでさ」
「燃える砂?」
「ええ、私も聞いただけなんで詳しくは知らねえんですが、何種類かの砂を一定の割合で調合すると燃えたり爆発したりするんだそうです」
驚いた! それって火薬じゃないの。確かにこの世界でも同じ材料があるなら火薬は作れるわよね。内心は驚いたけど、知らん顔で話を続けたのよ。
「その燃える砂を使って、魔族を倒したのね?」
「大砲って言うらしいです。鉄の筒に大きな鉄の弾を入れて火薬の爆発力で撃ち出す。魔法使いの使う大魔法には到底及ばないそうですが、魔法を使えない人間でも使えるのが利点だそうです」
「でしょうね。しかし、よくそんな燃える砂なんて作ったわね?」
「昔、変わり者がいて作ったようですが、下手すりゃ燃えるし爆発するし、かといって湿気てしまうと火がつかねぇし、扱いが難儀だったってんで放置してたようですな。フォボスを壊滅させられた悔しさから魔族に一矢報いてやろうと研究してたようです」
そうかぁ……私がアルスの仇をとるため勇者の血をひく子供達を育てたように、火薬の研究をして滅びた都市国家の仇を取ろうとする人達がいたんだね。
「私、ちょっとフォボスへ先に行くわ! シード、サラ、スレッジ行くよ。それからニコ!」
「俺は行かないぜ? カレドニアからの返事が来るまではな」
「そう言うと思ったわよ。だから、アンタは来なくていいから、部下を500人ほど貸してちょうだい。それから指揮官としてルージュも貸して」
「ちょっ!? 待ってくれよ! ルージュは俺の大事なッ……だぞ……」
大事な彼女と言おうとしたのか、それとも嫁と言おうとしたのか。周囲の目を気にして小さい声でモゴモゴ言ってんなよ~……
「大丈夫だよ、ニコ。私はアルマお姉さんと一緒に行ってくるよ。ちゃんと帰ってくるから心配しないでね。それと」
「なんだよ?」
「浮気しちゃダメだよ?」
「し、しねぇよ!!」
「どうかなぁ? じゃあ、アルマお姉さん行きましょうか」
うん、よし! ルージュは強くなったね! ニコを尻にしいて大したもんだよ、うん。ニコとルージュのやり取りが途切れたのを見て、ランスローがカレドニア兵も連れていくように言ってきた。
「魔族が盛り返して来た時に備えて、我が軍からも5000ほど連れていっては如何ですか?」
「ありがとう。でも、あんまり大勢でフォボスへ行っても警戒されると思うんだよね。どうせスラールも魔族がいなかった頃は、フォボスを領土にしようとしてたんじゃないの? ルージュ達なら少数でも強いし、それにニコの要求が通ればフォボスとは隣国でしょ? 未来の王妃が挨拶に行くのも悪くないんじゃないかな? ねぇ、ルージュ」
「未来の王妃だなんて恥ずかしいですよ。照れてニコの顔を見れなくなりそう」
顔を真っ赤にしたルージュが可愛いので抱きしめて頭を撫でてやると、ルージュは大人しくされるがままになっていた。なんとなく羨ましそうにシードが私達を見ているのに気がついたサラが、ニンマリ笑ってシードを抱きしめて頭を撫でてやってる。一人余ったニコは「先生、俺も抱きしめて構わないんだぜ? できれば巨乳に顔を埋めたいんだけどよ」なんて言ってるので、知らん顔しておいた。
そんなニコの背中を笑って叩きながらガレスが私を見た。
「フォボスへニコの嫁を連れて挨拶に行くのが目的なのか?」
「それもあるけどね。一番の目的は大砲とやらを見てくるのよ。それが使えそうだと思ったら技術を教えてくれるように頼んでくるわ」
「しかし、連中が教えてくれるかね? 我々を警戒して教えないかもしれんぞ」
「大丈夫よ。こっちは内力について教えてやるわよ。兵士の戦闘力が上がるし、他の国は内力をマスターしつつあるんだから、自分達だけ知らないなんて状況は承知しないと思うわ」
「なるほど、交換条件ってやつか」
それなら受けるだろうとガレスは頷いた。ガレスには言わなかったけど、私は銃を作れないかって聞いてみるつもりなのよ。銃を実用化できれば内力をマスターしてない連中に装備させたいのよね。そうなれば、もう10万ぐらい兵力が増えるんじゃないかしらね。




