表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/133

八十九話

 残りの高位魔族は二体、この調子なら大丈夫だと思った矢先だった。いつもは沈着冷静なスレッジが上ずった声で呼びかけてきた。


 「あと二体を倒したら東門へって、なによ? どうしたのよ?」

 「あれを見てください。高位魔族が5、いやもっとだ。接近してきますぜ。もうダメです。逃げるしかないですぜ!」


 スレッジが狼狽するのも無理はない、と思ったよ。だって十体近くの高位魔族が接近してんだもの。さすがに私も認めざるをえない。この作戦は失敗だわ。こうなったら迅速に行動しないと全滅しちゃう。


 「スレッジ、シード、サラ。あんた達はこの仲間達を連れて逃げなさい。途中で小さい集団に別れて建物に隠れてしまえば大丈夫なはず。その時は下級の魔族共に殺されないように注意しなよ」

 「先生は!? 先生はどうすんですか!?」


 シードの問いに私は笑顔で答える。あの時、最後の戦いに赴いたアルスが私に笑顔を見せたように。


 「私は殿を引き受けるよ。皆が逃げるまで連中の足を止めて見せるよ」

 「じゃあ、ボクも残りますよ。師匠を残して弟子が逃げるわけにはいかないから」

 「私も残る!」

 「ダメ! ここで死なせたら、あんた達の親に会わせる顔がないでしょーが! 私だけなら、どうにでも逃げられるんだよ。あんた達がいたら足手まといなんだよ」


 そう言われたシードとサラは不承不承ではあるけど、撤退する仲間達の援護を引き受けた。


 「先生、さっきボク達の親に会わせる顔がないって言ったけど、先生を死なせたらボクも母に会わせる顔がないんです。だから必ず帰ってきてくださいよ」

 「分かってるわよ。私だって孫の顔を見たいし……シーナに孫を独り占めはさせないわよ」


 シードはちょっと安心したような顔をして私に背中を向けた。けして振り返らず進んでいくのは、死なないと約束した私を信頼してるからだろうか。走り去る仲間達を見送っているってのに、カマキリの奴が攻撃を仕掛けてきた。せっかく万感の思いを込めて見送ってんだから空気を読めってのよ。これだから昆虫は嫌いなんだ。

 振り下ろしてきた鎌の横に内力を込めた左の拳を叩き込む。叩き込んだ部分は瞬時に冷却して砕けた。打撃としては威力がないけど、これは冷却させて脆くなった部分を割るためなんだよ。割れた鎌の刃の部分をカマキリの細い首目掛けて投げつけたら、面白いくらいに綺麗に命中して首が落ちた。

 それでも鎌を振りながらくるくると回ってるのは、さすが昆虫並みの生命力だよね。背中を見せた時に蹴りを入れてやったら、接近してくる高位魔族の群れの中へ突入していったよ。接近してきた魔族を斬り刻んで同士討ちに成功! ざまぁ見ろってのよ。


 でも、もうこれで打ち止めかなぁ……


 接近してくる高位魔族の中で、ヤギみたいな頭をした魔族が私に気がついてやってくる。手には死神が持ってそうな武器を持っていて、攻撃のリーチが長そうだ。もう一体、中身が入ってない鎧だけの奴も近寄ってくる。手には普通の人間では持てないほどのランスがある。あれで貫かれたら身体が千切れるだろうね。

 鎧の化け物がランスを構えた。まだ間合いが遠すぎるんだけど、奴は構わずに私目掛けて槍を突き出した。何とか避けようと身体を捻った瞬間に脇腹を何かが抉っていった。と同時に突風のような衝撃を受けて私は後方に吹き飛ばされる。

 近寄ってくる二体の高位魔族。こいつらが私に引導を渡すのか。私は敵が近寄ってくるのを、わりと冷静に見つめている。アルスはどうだったんだろうなぁ? 敵に殺される瞬間は怯えたんだろうか。それとも今の私のように疲れていて怯えるのも面倒だったんだろうか? 


 アルスに宿る勇者の血筋は子供達へ伝えた。私の役目は終えている。だから悔いはないんだけど、疑問は残ってるんだよね。何で私は転移した世界で女性になったんだろう? 私から分離したアリマと私の関係は何だったんだろう? 精神は肉体の影響を受ける。だから私の心は女性化していった。でも、そうなりきれなかった部分がアリマとして分離したのか。だとするなら、オリジナルはどちらなんだろうか?

 

 答えの出ない疑問を考え続けていると、私の元へ二体の高位魔族がたどり着いた。そして武器を振り上げる。私はボンヤリとそれを見つめている。あれが振り下ろされたときに私は死ぬのだ。

 

 「さようなら、アレス、アリス。頑張りなさい」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ