八十七話
高位魔族のお代わりが来てしまった。そういえば、元の世界にいたときだけど、お祖母ちゃんが言ってたっけ。「物事には言い当てるって事があるんだから、変なことは言っちゃダメだよ」って。あの時はケンカした友達に死んでしまえって怒鳴ったんだよね。今思うと私の血筋には、言葉が因果関係に影響を与えるような力があったんだろうか?
だから、こんな異世界へ飛ばされて、しかも子供まで産んで育児して魔王とケンカすることになったのかな? ともかくお祖母ちゃんから言われてた戒めをサラにも言っておこう。うん、こうしてお母さんやお祖母ちゃんに似た人間に私もなっていくのだなぁ。
「サラ」
「なんですか? 先生」
「世の中にはね、言い当てるって事があるんだから、変な事を言っちゃダメだよ」
「この高位魔族の事ですか?」
「魔族のおかわりだけじゃないよ。仲間の生死についてとか、色々とだよ」
「はい、わかりました」
今一つピンときてない表情でサラは頷いた。お祖母ちゃん、後進の育成の一環として、あの言葉は活かす事にするよ。その都度、注意してあげればサラは賢い子だから理解するだろう。ウチの子達には言ったかな? ちょっと不安になってきたよ。再会したら教えておかなきゃね。
「先生! こいつら、どうしますか?」
シードが焦ってる。男がオタオタと慌てるんじゃないよ。こういう時は表面だけでも、どっしりと構えてるもんだよ。それだけで普通の実力しか持たない仲間達はパニックにならず、安心するんだからね。
「シード! サラ! あんた達は一匹受け持って戦いな! 残りの三匹は私が相手するよ!」
「先生、それは無茶よ!」
「そう思うんだったら、受け持ちの一匹を早く倒して援護してよ」
これ以上、口論してる余裕はないと見たのか、サラは頷いて敵と向き合う。シードもゴーレムっぽいのに斬りかかった。門を見れば下級の魔族が、また大挙して押し寄せてきている。その中に先ほど逃げたはずのコボルトやゴブリンらしき連中もいる。
情けをかけて逃がしてやったのは失敗したかなって思ったけど、そうでもないみたいだね。というのも、あの逃がした連中は私らが見ても分かるくらい不貞腐れてヤル気がないのが分かる。仲間を連れて逃げ出して、あとは王都のどこかに隠れて戦いが終わるのを待つつもりだったんだろう。でも、お代わりの連中に出会って連れ戻されたってところかな。
それが仲間達にも分かるらしく全員苦笑してるんだ。もしかしたら下級魔族の連中、一部だけかもしれないけど魔王を倒した後は、この世界で仲良く暮らせる一員になれるかもね。でも高位魔族を倒してやらないと、あいつらも戦闘しなきゃならないんだろう。
なんてゆーか、浮世のしがらみっていうか、そんなもんに縛られるのは私ら人間だけじゃなくて、こんな魔族にもあるんだね。なんか妙にしみじみとしちゃうよ。
そんな私の感慨を他所に戦意旺盛な奴が門の障害をモノともせず乗り越えてくるのを、私の仲間達が迎え撃つ。さきほど私達三人が高位魔族と戦ってる間は、休憩できたし怪我の処置もできたようで、こちらの準備も万全なのよ。
ところがやってきた高位魔族のうち1体が門から少し離れた壁を粉砕しやがった。おかげで、こちらからも下級魔族が雪崩れ込んでくる。狭い場所で戦うから少人数でも対応できたし、疲れた奴は後方へ下がって休憩を取る余裕まであったのにさぁ。
後方に下がって待機してた仲間が、すぐに迎撃に向かうんだけど高位魔族がいる為に近寄れない。私は三体を受け持つと宣言したんだけど、最初の一体は、こいつを潰すって自動的に決まったんだ。
そいつはオーガやトロールを更に一回り以上も大きくしたような奴で、身体の大きさは3メートル以上、下手すると4メートルはあるかもしれない。そんな奴が大きな金棒のようなもので壁に打撃を加えるのだから洒落にならないんだよ。
こいつを壁から引き離さないと、出来た穴から次々と敵が侵入してくるんだ。私はデカブツを挑発しながら後ろへと下がる。壁からデカブツを離して仲間達を迎撃に向わせる。これ以上の侵入を防ぎ、そして入り込んだ敵を殲滅すれば元に戻るんだ。
だけど私の狙いを察しているのか、このデカブツは壁から離れようとしない。侵入した魔族達は敷地内に広がって後方で待機、治療中の仲間にまで襲いかかっている。私の挑発に乗ってこない以上、一刻も早く倒すしかない。私の攻撃範囲内を通り抜けようとする下級魔族を斬り捨てながら、デカブツに攻撃を仕掛ける。
そのとき突然背後から、もう一体の高位魔族が襲い掛かってきた。そいつは巨大な狼のような姿をしていて、でかいクセに異常に動きが速い。パワーのデカブツとスピードの狼ワンコの連携は非常に厄介だよ。私が狼の牙と爪を辛うじて避けたとき、実は避けた後までも敵の想定内だったようで私の装備してた軽装鎧がいきなり落ちた。
何が何だか分からずに、落ちた鎧を見ると綺麗に切断された断面が見えている。金具が外れて落ちたのかと思ったけど、スッパリと斬られて落ちたみたい。もう少し後ろにいたら身体ごと斬られてたんだろうね。
背後を見ると、前足の鎌が4つある全長2メートルのカマキリがいた。昔の日活アクション映画みたいに、敵を一人倒すまで他の奴は襲ってくるなとまで言わないけどさ。さすがに三体同時に攻撃されるのは厳しいなぁ。




