八十六話
私が見つめるなかで、サラはブタ野郎に攻撃を仕掛けた。敵の攻撃を掻い潜り、両手でブタ魔族の腹を叩いたんだよ。タッパァ~ンと、これまたいい音が響く中、ブタ魔族の腹は水面を叩いたときのような波紋が広がった。これは明らかにダメージを与える為の打撃じゃないんだけど、何をやりたいのかな?
ブタ野郎こと、ブタ魔族の腹に両手を当てたサラは、そこから一気に内力を熱として解放してみせた。熱に変換された超高熱は一瞬でブタ野郎の全身を駆け巡る。ブジュゥウウウっと何かが焼けるような揚げたような、上手く表現できない音が聞こえてくる。
と、同時にブタ野郎はしゃがみこんだ、ように見えた。でも近寄ってみたらビニール袋に熱湯を入れて床に置いたような状態になっていた。
「サラもスゴイことをやるねぇ……こいつなんかラードの塊みたいなもんだしさぁ、あんな高熱でそれを問答無用で溶かしたら、こうなるよねぇ」
普通の肉の部分とか溶けたラードで良い感じに揚げたっていうか、炒めたっていうか美味しい感じになってるんじゃないかな? いや、私は食べないけどさ。こんな奴なんか。
「先生! どうですか? 私の技は」
「うん、素晴らしいと思うよ。熱することが出来るなら凍らせることもできるだろうし、内力の使い方を極めてきたね」
「ありがとうございます!」
私達がそんな話をしていると、休憩してた仲間の一人がブタ魔族の腹を槍で刺した。刺し傷からは溶けたラードが流れ出している。仲間はロウソクの芯のようなものを作ると、刺し傷に挿して火をつけた。するとまるでロウソクのように、火が灯り無駄に周囲を照らしている。火は消えることもなく燃え続けているんだけど、このデカイロウソクもどきが高位魔族の成れの果てとはね。
二体目の高位魔族を倒したことで下級魔族達の士気は明らかに下がっている。もう逃げたいんだけど、まだミノタウロスが頑張ってるので逃げられないってとこか。頭の良い奴は足をやられて動けない仲間を引きずって後方へ下がっていく。あくまでも仲間を助けたのであって、逃げたわけじゃないってポーズだろうね。
見え透いてるけど死ぬまで戦うなんてマネをされたら、こっちの被害が甚大になってしまうので武器を構えて追いかけるフリをしてるだけで、追い詰めるようなマネはしない。ある意味逃げやすいようにサポートしてやってるようなもんだ。
これで仲間を抱えて後方へ下がる味方の援護って名目で、他の下級魔族も後方へ下がれるもんね。それを察したゴブリンやコボルトは私達と微妙に距離を取りながら、周囲を見回している。きっとケガした仲間を探してるんだろう。
しかし、周囲に負傷した味方がいないと分かった連中は、ミノタウロスの手前逃げるわけにもいかず、戦えば殺されるとあって、目に涙を浮かべて戦闘を継続している。泣くなよぅ、気持ちは分かるんだけどさ。
なんかもう、可哀そうで見てられないので、私は武器を拾ってから連中の元へ斬りこんだ。そして身体の表面を派手に斬り刻んで吹き飛ばす。血まみれの下級魔族の元へ、他の仲間と思しき連中が走りより何かを喋っている。私は彼らの言葉は分からないけど、「チャンスだ、撤退しよう」くらいの事を言ってるんじゃなかろうか。
そんなことを語ってるらしき下級魔族よ、少し顔が笑ってるぞ。これで逃げられるからって、顔に出しちゃダメだろ。ミノタウロスからは見えないように、「はよ逃げなさい」と手でシッシと追い払う仕草をすると、連中は微かに頷いて下がっていった。
「なんてゆーか、連中も苦労してるんですね~」
「うん。なんかこー、気持ちが通じ合ったような気がするよ」
雑魚が撤退していったので、あとは東門を攻撃してるカレドニア軍の援護に回りたいんだよね。しかし、シードはミノタウロスと互角の戦いを演じているんだね、これが。サラは器用に内力を熱に変換してみせたけど、シードは不器用で内力をパワーとスピードの向上に使ってるだけなんだ。だけっていうか、巨体のミノタウロス相手に互角の戦いを演じるだけでも、凄いんだけどね。
手に汗を握り戦いの行く末を見守ってるんだけど、なんだか元の世界にいた時に愛読してた週間マンガ雑誌の格闘系マンガみたいな展開だよ。「うおおおおおおおおおお!!」とか叫びながら、シードは両手剣を振りかぶり、それをミノタウロスも迎撃しようとしてる。あと1時間も戦えば友情が芽生えるんじゃないかしらね。
「あいつら、お互いしか見えてないよね。今なら背後からサクッと倒せるんだけど、どうしようかなぁ?」
「先生、シード君も頑張ってるし、不意打ちでミノを倒しちゃうのは、ちょっと……」
「だよね? 私だって一応空気は読んでるんだよ。下級魔族は撤退して仲間も深刻な負傷をしてるのはいないしさ。余裕もあるからね。だから手を出しにくいんだよね」
「ですね~……いっそ、敵のおかわりが来たら問答無用で手を出しちゃうんですけどね~」
そしてついに決着の時はきた。長かったなぁ、もう。ミノタウロスが渾身の力で振り下ろしてくる巨大な斧を、シードは両手剣を頭上で真横にして受け止めるかに見えた。でも、実際は剣先を下げて受け流した為、ミノタウロスの斧は振り下ろした勢いが僅かに鈍っただけで地面へ叩きつけられることになったんだよ。そしてシードはそれを見逃さなかった。
一瞬動きが止まったミノタウロスの首を見事に斬り落としたんだよ。さすが私の弟子だね。
これで東門の援護に向かえると思ったんだけど、さっきのサラの何気ない一言が現実になってしまったんだ。敵のおかわりが来ちゃったんだよ。それも高位魔族が5体以上もね。




