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八十三話

 屋敷の中で私達は内力を練っていた。人間の軍が押し寄せてくるまで、やる事もないし練れば練っただけ力はついてくる。付け焼刃かもしれないけど、わずかでも実力がついたことで生死を分けるかもしれないもんね。決死の覚悟で戦う千人は勝つため、そして生き残る為、時間を無駄には使わなかったんだ。


 「アルマ様、どうも下級魔族の一団が五千ほどですが王都を出て人間の軍と激突したようですぞ」


 そう教えてくれたのは、今回の戦いには老齢のために参加できないけど、それ以外の諜報活動を引き受けてくれた老人だった。こういった人達が他にも大勢いる。


 「え~? 敵なんかどうなっても構わないけど、それはまた無謀なマネをしたわね」

 「ワシが聞いたところでは人間の軍を大いに打ち破って、カレドニア方面に進撃中とのことですが……おそらくは全滅したんでしょうな。それを教えてくれたゴブリンの表情が暗かったですからな」


 もし王都から出て戦うなら、全軍で出なければ各個撃破されてしまう。それこそ今回のように。


 「しっかし、なんでまた五千なんて少数で出て行ったのかしらね?」

 「どうも王都にいた下級魔族の中には、人間の軍など奴隷と同程度の強さしかないと侮っている連中がいるらしいですな」

 「このスラールに進攻して以来、ずっと人間が勝っているのに?」

 「だからこそ、どこまで油断していたんだって思っていたようです。勿論、人間と戦ってその強さを知っている者は止めたようですがね」

 「井の中の蛙どもが、相手を舐めきって出撃したってワケね」


 ようするにバカの集団か。ランスロー達に殲滅される瞬間も、こんなはずじゃないのにとか思いながら死んでったんだろうなぁ。しかし、そういう連中こそ私達が蜂起した時に真っ先に心が折れてパニックになって、下級魔族が烏合の衆に成り下がるキッカケになるはずだったんだけどね。

 そう考えると実に惜しい連中を亡くしたもんだわ。冥福を祈りましょう。願わくば王都にいる他の下級魔族の連中に油断と慢心という加護を与えますように。


 「先生、結構不謹慎なことを考えてませんか?」

 「失礼ね、私はバカなゴブリンズの冥福を祈ってあげただけよ」

 「本当ですかぁ? すんごい意地悪な笑みを浮かべてましたよ?」


 サラに指摘されて私は表情を引き締める。どうも思ってることが顔に出るのは私の欠点だよね。おかげでカードゲームをやっても連戦連敗なんだよ。ババ抜きなんか必ず負けるんだ。まぁそれはいいや。


 「じーちゃん、スレッジ、教えてくれてありがとう。今の話を聞いて思うんだけどね。まず五千って敵が減ったのは大きいね。これで人間と王都の魔族と兵数では互角になったからね。まぁ敵の城を攻めるなら三倍くらいの戦力が欲しいけど、そこは私達が内から突破口を開いてあげるってことで。残念なのは矛盾するけど、その五千が去って滅ぼされたことかな。蜂起した私達の予想外の強さを見て真っ先にパニックを起こして、王都内の下級魔族を烏合の衆にしてくれるはずだったんだけどね」

 「そうなると、ワシらが蜂起しても成功する確率は大きく下がったんでしょうかのう?」


 じーちゃんが落ち込んだので、私は励ますために努めて明るく話すことにした。


 「じーちゃん、必ず成功するから大丈夫だよ。高位魔族を倒せば、どのみち下級魔族の心は折れるからさ。ただね、私達が高位魔族と戦ってる間は、皆が攻め寄せる下級魔族の相手をするワケよ。その時に攻め寄せてくる連中は武装した人間は強いと認めて、慢心を捨ててるかもしれないから手強くなっちゃうなぁってだけでね」


 高位魔族を倒すまでの間、無数の下級魔族を相手にすることになる連中は、一斉に青ざめたけど覚悟決めなよ。勝ち戦でも死ぬ奴はいるんだし、そうならない為に、わずかな時間も内力を練ってなってんだ。


 それから数日後、ついに人間の軍が到着して王都の魔族軍との間に激しい戦闘が開始された。人間の軍は東門を攻撃してるようで大部分の魔族は東へ急行してるようだ。若干だけど南北の門にも魔族は向かっているらしい。東門から回り込む別働隊がいると見ているのだろうか。


 「さぁ、御近所の目障りな高位魔族をぶちのめしに行こうか!!」


 私の声に全員が力強い鬨の声を上げた。

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