表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/133

八十二話

 魔族五万対人間四万五千。それ以外の戦力としてスラール王都にはスレッジが組織したレジスタンスが千。一方魔族にはサイロスの五千前後。どう考えても私達が不利でしかないんだけど、これ以上時間をかけても私達が不利になるだけっていうのが、会議の場で出た結論だったんだよ。


 カレドニア本国から兵を募集して訓練を施し、こちらへ送らせても千人規模でしかない。だけど魔族側はスラール王都が取られても、その向こうにデルゴー、リゲール、スバル、フォボス、ダイモスって都市がある。


 フォボスとダイモスは大陸の西の端、エドリアル山脈と海の間にある回廊のような狭い平野にあるんだそうで、そこを通ればエドリアル山脈の向こう側、大陸の南へ行くことができるんだってさ。そっちの状況は正直な話、分からなくてね。ランドーから海で海岸線沿いに南下しても、上陸を阻むかのように山脈が城壁の役割をしていて、内陸へ入る事ができないんだって。

 もしかしたらカレドニアのような、あるいはクロヴィアのような国家があって魔族に抵抗してるかもしれないんだけど、恐らくは魔族が大陸の南半分を支配してると思うんだ。そうなると、魔族の兵力回復は無限って言っても良いくらいで、時間をかけるほどに私達は不利になるって事なんだ。


 一つだけ光明があるとしたら、私の子供達がエドリアル山脈の向こうで活動してるって事だね。こっち側はスラール王都に迫る勢いなのに、あの子達の消息がまったく追うことができない。ということは山脈の向こうにいるって事でしょ?

 あの子達の動きを気にして魔王は兵を引き上げている。だから互角に戦えている。だけど、それがいつまで持つか分からない。このままにらみ合いをしてれば魔王を倒してくれるかもしれないけれど、敗れた場合を考えればフォボス、ダイモスを取って要塞化して魔族の侵攻を食い止める。

 そして内力を練り上げて強くなった人間を数多く育成して、その上で魔族との戦いに挑む。これが最良の策じゃないかってランスローは言うんだ。その為に多少不利でも王都を落とすしかない。ここが対魔族戦の天王山なんだ。


 私はスレッジと共にスラール王都に忍び込んだ。シードとサラも一緒だよ。少しでも魔族側の混乱を大きくして、私達の勝利の可能性を増やすためにね。

 

 「しかし、何とか千人程度の同志を集めましたがね。この広い王都で魔族は五万でしょう。陽動でも何でも構いませんが、成功しますかね?」


 大勢の仲間が集まっている中で、スレッジが殊更にそんな事を聞いてくる。言葉の意味だけを考えれば不安なんだろうけど、スレッジの表情も物腰も、それを否定している。要するに不安で仕方が無い他の連中に私の言葉を聞かせたいのだろう。


 人間の軍が進撃してきてるのを、魔族も察知していて防衛の為に下級の魔族は慌しく動いている。高位の魔族は王都の中で定めた住処に陣取っている。奴隷の人間達が普段徒党を組めば怪しまれて殺されてしまうだろうけど、今回に限っては大丈夫だ。

 何しろ人間の軍が迫ってる中で外壁に近い所にいれば、脱走を疑われて殺されるけど、王都の中心付近へ逃げる分には戦争に巻き込まれたくないだけ、と思ってもらえる。また脱走する気はないとの意思表示にもなる。奴隷を脆弱だと見下してるだけに軽蔑はしても警戒はしてない。

 そして私達は人間の軍が、いよいよ王都付近まで来た機会を逃さずに、私達は高位魔族の住処の裏手にある大きな屋敷に逃げ込んだ。大きな屋敷に脆弱な奴隷が大勢逃げ込んでも警戒されない。また何か企んでるにしても、高位魔族の住処付近に隠れ家など作らないだろうという思い込みも下級魔族にはある。

 そういう理由で、まるで台風の目のように私達が集まってる場所は無風地帯、無警戒地域になっていたんだよ。


 「この王都にいる魔族は五万。数では私達より上だけど、真に注意すべきは高位魔族のみ、なのよ。恐らく数は1%未満ってとこかしらね。つまり五百の高位魔族をどうにかできれば勝てるわけ」

 

 私の言葉に不安そうな顔をした男が立ち上がって発言する。


 「では残りの下級魔族どもは問題ないんですかね? 俺達はスレッジさんに内力の手ほどきを受けて、ちったぁ強くなったって思う。でも、あのゴブリンやコボルトどもと戦って、一騎当千の働きが出来るとは思えねぇんです」

 「そうね、数の暴力ってのは恐いもんだと認めるわよ。五万の下級魔族が襲ってきたら、どれほど強くても、いつかは力尽きて倒されると思うよ」

 「じゃあ、俺達は全員死ぬんですね。覚悟はしてるし、まだ生きてる家族を助ける為なら死んでも構わねぇけど……」

 「そりゃあ一人も死なないなんて保証はできないけどね。あいつらも私らと同じ知能を持ってるのよ。強い者を怖いと感じる情緒があるのよ。今回は、そこを突くのよ」

 「と、いうと?」

 「ここは高位魔族の住処の裏手でしょ? 奴らは奴隷なんて何処にいても気にしない。奴隷の反乱だって起ころうが気にしない。だって連中は強いから奴隷如きが、どれだけいても負けるはずがないからね。でも下級魔族は違う。奴隷の反乱を恐れてる。徒党を組み武器を持って人間が襲ってくれば殺されてしまうからね。だから人間が集まってると神経質になる。そんな下級魔族が戦争から避難する為とはいえ、ここに大勢の奴隷がいるのに、何も警戒してない。何故だと思う?」

 「高位魔族のお膝元で反乱なんか起こせば、あっという間に滅ぼされちまうからじゃないですか」

 「その通り。ゴブリンやコボルトは、実は高位魔族を恐れてる。いなくなればいいのにとさえ思ってる。もし、連中が高位魔族に反抗するなら、気分的になるべく離れた遠い場所に隠れて計画を練るって思ってるよ。だから自分達よりも脆弱な奴隷も行動は同じだと考えている。故に、ここにはいる奴隷は反抗する気がないと確信してるのよ。だから警戒してないってわけよ」


 私は話すのをやめて全員の顔を見る。そして言葉を続けた。


 「でも内力を極めた人間は高位魔族と対等に戦える、いや倒せるわよ。まず、すぐそこの高位魔族を、私達が血祭りに上げてやるわよ。他にも近くの高位魔族を倒してやるわ。そして倒すところを下級魔族に見せ付けてやるのよ。人間の強さをね! あいつらは高位魔族が倒されたら心が折れる。そこへ、あんた達が襲い掛かるのよ。数の優位も忘れて逃げ出すわね。そうやって混乱を巻き起こせば、高位魔族を倒された恐怖が伝播して下級魔族は烏合の衆へと落ちぶれる。数なんか関係なくなるわよ。人間の軍が雪崩れ込めば勝手に自滅してくれるよ」


 だから心の奥から勇気を振り絞って戦いなさい!!


 そう言って全員を見渡す。もう、そこには負け犬はいない。必ず駆逐してやるって決意に満ちた勇猛な兵士達だけだったよ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ