八十一話
スレッジの部下が帰ってきて報告を受けたんだけども、ちょっと困った感じ。というのは偵察に行ったサイロスには、私が待ち望んでたルージュの仲間達がいたらしい。人数は五千から一万くらい。人数がはっきりしないのは、見つかりかけたからだそうで、戦闘だけじゃなく敵を探知する能力に長けた者もいたんだろうね。
彼らに接触することも考えたらしいけど、戦闘準備をしていたようで、そこへノコノコと出て行ったら下手をすると捕まって、こちらの情報を全部引き出されるかもしれないと、スレッジの部下は判断したようだ。
「不意に『そこにいるのは誰だ?』と誰何された時は驚きました。察知されるようなヘマはしてないはずだったんですが……」
「よく生きて帰ってこれたわね?」
「誰何された時に僅かでも動けば、相手に私がいるとの確証を与えてしまいます。すぐにでも逃げたい衝動を抑えて、そこから動かずにいたのです」
「それは、なかなか出来る事ではないわね」
「もう一回やれと言われたら出来るかどうか……、ですので、あれ以上は無理と判断して戻りました」
スレッジの部下が藪の中で身動きせずにいたところ、相手は短刀を投げつけてきたらしい。耳を浅く斬って短刀は背後の木に音を立てて刺さった。気配を探る者と気配を消す者との静かな、しかし激しい戦いは数分間は続いたみたいだね。体感時間では数時間に感じたらしいけどね。来客を告げる声がして、二人の戦いは終わった。相手が席を立ち、十分に時間を置いてからスレッジの部下も戻ってきたらしい。本当にお疲れ様。
ゆっくりと休むように言って私達は考え込んだ。戦闘準備をしてたって事は、行く先はどこか? それが問題なんだよね。少なくともラデックスの一万五千の兵は動かせない。一方でスラール王都の方は、これまで落とした都市と違って、かなり高位の魔族が数多く駐屯していたとの報告を受けた。その数は五万ほどだそうだ。これにサイラスの軍勢が五千ほど加わると厄介だ。
スラール王都には人間の住人が何万人も生き残っていて、これが奴隷として魔族に使役されてるらしいんだよ。この奴隷に武器を渡して中から蜂起させることができないか検討してみたけど、武器を運び込むにしても一苦労だし、戦えるような屈強な人間は殺されてしまってるらしい。
私達が魔族を倒す為には、どうしても数で勝たなきゃダメだ。これまでは数と内力という技術で勝ってきた。しかし、高位魔族が相手なら数は最重要となるんだよね。そこでスレッジ達に奴隷達と接触して、戦わないまでも陽動を行える程度に組織を整えるように依頼したんだ。
「ホントに姐さんは我々をこき使いますなぁ。まぁ、いいんですがね」
「スレッジ達は全員、王都に潜入してちょうだい。こっちとの連絡用に数人残して全員ね。中にいると外の私達の状況が分からないし、それじゃ不安でしょ? だから何かあれば連絡するわよ。そうしたら奴隷になってる連中も私達の指示を安心して遂行できるはずだわ」
「そう上手くいきますかね? もしかしたら我が身可愛さに裏切るかもしれませんぜ?」
「それは捨て駒にされて、無駄死にするかもって不安から裏切るんじゃないかな? だから、ある程度したら私も中に入って陽動作戦のほうに参加するわよ」
「姐さんが来てくれるなら安心ですな。では私は付け焼刃とは思いますが、内力を教えておきますぜ」
「そうしてちょうだい」
スレッジと打ち合わせしてるときに朗報が舞い込んできた。ガーネルの都市からバージルへ向かう最初の川に砦を建設するように助言してたんだけど、それが完成したらしい。守りに徹するなら五千あれば大丈夫との連絡が来たのよ。
あれからまだ、数週間くらいしか経ってないのに、よほど戦いたいのかな。守りが五千ってのは不安が残るけど、このくらいのリスクは仕方ないと割り切って一万五千を呼び寄せた。これで五万対四万五千になったけど、まだ足りない。
スレッジからは奴隷達から千人ほどの仲間を得たとの連絡が来たんだけど、この連中をどこで使うか、どのタイミングで使うか悩むよね。そろそろ私も王都へ潜入するかなぁ。




