八話
アルスが地下の隠し部屋から出ていった時も、まだ屈強な村人は多勢生き残っていたらしい。
人間の歓声が響き渡っていた。
彼らは各個撃破されないように固まって戦闘しているらしい。
そこへアルスが加わったのだから、魔物達は災難だっただろう。
やがて時間が経つにつれ、人間の怒号よりも、魔物の咆哮が目立つようになった。
疲労から倒されていくのだろうなぁ。
彼らの奮戦を激闘を、せめて見届けたいけど見つかる可能性がある以上は、それも出来ない。
私に全てを託したアルスの為にも、危ない橋は渡れないんだ。
そして、ついにその時は来た。
魔物達の歓喜の咆哮が響き渡る。
おそらくは最後まで生き残って戦い続けたアルスが戦死したのだ。
魔物達は立ち去った。
私は十分に時間をおいてから外へ出た。
周囲を見渡して魔物がいない事を確認する。
村長宅の地下の隠し部屋付近は、わりと家の原形が残っていたけど、他は木っ端微塵にされてる。
この瓦礫が無いあたりは、村で一番広い道だったところかな。
魔物の死体は消滅して、残るは村人達の死体ばかり。
「わ、わわっ!?」
私は足元に転がる何かに躓いて、転びそうになった。
それはアルスが装備していた鎧だった。
新品みたいに綺麗に手入れしてあったのに、今はボロボロになっている。
留め金が壊れて落ちたのか、それとも脱ぎ捨てたのかな?
そしてその先にアルスはいた。
左腕は食いちぎられたのか無かった。
身体は傷が無い場所を探すのが難しいほどに損傷している。
そして頭が無くなっていた。
別人であればと思った。
でも、右手には私があげた腕輪があったんだ・・・。
どうにも目から涙が溢れだして止まらない。こいつは本当に良い奴だったんだ。
久しぶりに泣いたよ。
泣くだけ泣いたら、アルスや村人の遺体を埋葬した。一人で作業したから、日が暮れる直前までかかった。
私は村から出た事が無いから、夜間の旅は避けたい。
村長の地下の隠し部屋に戻って眠る事にした。外は風の吹く音ばかり。
でも不思議と寂しくないし恐くもない。
お人好しのアルスは死んでからも心配して、その辺にいてくれてるのかも。
翌朝、私は埋葬した所へ行った。
「悔しくて死に切れないなら、しばらく現世にいるといいよ。必ず勇者の血は私の子供となって現れる。そして魔王を倒すよ」
じゃあ、その日まで。
さよならだ。
私は村を去った。