七十九話
カティフの残敵掃討を終えた頃、私達の元へラデックス攻撃隊からの使者が来た。たぶん陽動作戦の任務を終えて、無事にオーロンへ撤退しましたって内容だろうと、私達は思ってたんだ。だけど違ってたんだよ。
使者が言うには、ラデックスの町には一万以下の戦力で雑魚しかおらず、その士気は限りなく低くて陽動で攻めただけなのに勝ってしまったのだそうだ。勿論、サイロスやスラール王都、サファルから大軍が来るんじゃないかと警戒していたけど、それも無いらしい。
元々は占領する予定では無かったしオーロンへ撤退した方がいいか、その指示が欲しいと言って使者は話を終えた。
「どういうことなんだ?」
ガレスが呟き、それを聞いたランスローは罠の可能性があると答えた。
「我々が性急に進軍して、補給線も何も整ってないところを狙って、逆撃を加えるつもりなのでは?」
でも、それだと変だと思うんだ。そういう作戦は人間同士ならあると思うんだよね。焦土作戦っていうのかな。広大な領土の奥まで引っ張り込み、その一方で町や村を焼いて補給も何も出来ないようにする。そして疲労がピークに達し、また補給線が延びきったところで反撃を行う。
でも、これってさぁ、格下がやる戦法だと思うんだよね。
この世界の魔王は勇者の村を滅ぼした事で、魔族の絶対の勝利を確信してる。だから、いつでも潰せるという余裕を持って人間の反撃を楽しんでるフシがある。そのパターンから考えれば、例えばオーロン辺りで魔族の大軍を駐留させて、攻めてくる人間を撃退し続ける、みたいな事をやると思うんだ。
そして撤退する人間の軍には追撃しないし、クロヴィアへ攻めて滅ぼす事もしない。また軍備を整えた人間が攻めてくるのを待つ、そして撃退するって事を繰り返すんじゃないかな。
ここまで雑魚ばかりにして、どうぞいくらでも領土を広げて下さい、とはやらないと思うんだよね。
「魔王が何を考えて、こんな真似をしているのか。それが分かれば、この状況で我々はどう行動すべきなのか答えが分かる気がするのですがね」
ランスローの発言を聞いて、魔王と魔族側の状況を考えてみる。何か抜けてる事があるかもしれないからね。で、一つ思い当たることがあったので、それを皆に話すことにしたのよ。
「クロヴィアの首都での攻防は、魔族側もかなりの軍勢を出してたわ。さっきの例で言えば、クロヴィアを陥落させた後、ここを魔族の要塞としてカレドニアからの攻撃を撃退し続けるつもりだったのかもしれないのよね。だけど私達は防衛に成功した。その後、オーロンの攻略の時にはクロヴィア攻防戦並の苦戦をすることだって有り得たのに、あっさりと落とすことができた。つまり、クロヴィア攻防戦以降で魔族側に何かが起きてるのよ」
「で、その何かってのは? それが分からないとダメだろうよ」
と、ガレスが言う。だからぁ、それをこれから言うんだってば。私は一つ咳払いをして話を再開する。
「それは勇者の出現よ。私の子供は勇者の血をひくアルスの子供なのよ。あの子達は6人で旅に出たんだけど、それを魔王が察知したのかもしれない。大勢の人間が進軍する軍隊と違って、わずか6人では神出鬼没で、いつどこに現れるか分からないからね。だから魔王は強い戦力を自分の手元か、重要な拠点に配置した。それで、私達の相手は雑魚ばかりになってるのかもしれないわ」
ランスローとガレスは大きく頷いた。
「だとするならば、我々のやる事は一つしかない。この機会を好機として反撃を行う!」
ランスローは矢継ぎ早に指示を出し始めた。ラデックスの使者に守りを固めるように伝えた。ラデックスの使者には、スレッジの部下を同行させる。これはサイロスとスラール王都の偵察を行い、ランスローに報告させるためだ。そしてサラに五千の兵を与えてトラスカンに派遣する。サラの部隊がトラスカンに到着すると同時に、トラスカンの二万は、その全戦力を持ってガーネルを攻略する。カティフ駐留の二万五千は即進軍してサファルを攻略する。サファルが陥落したらトラスカンに使者を送り、その使者の到着次第、サラの五千はサファルの本隊に合流する。
以上の指示を元に、私達人間の軍隊は一斉に行動を開始した。




