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七十五話

 マース王国のトレゴールは堅固な城塞都市だ。それがようやく見えてきた。でも、何もないんだよね。兵隊とか出てきて捕まったりするかな、とか考えてたんだけどね。ここまで何もないと拍子抜けしてしまうんだよね。

 でも近くにきて嫌でも分かってしまった。トレゴールは陥落したんだ。近くで見ると城壁は無惨に崩れている。中の町並みも廃墟になってた。



 「姐さん、どうしたもんですかね? ここは通り過ぎて王都へ行きますかね?」

 「そうね、私達の目的はマース王国の援軍を求める事だから、ここが廃墟なら王都へ急いだ方が良いかもしれないわね。でも、マース王国と魔族の戦闘の経緯は知っておきたいのよね」



 生き残りがいれば話が聞けるかもしれないし、ちょっと探してみる価値はあると思うんだよね。待ち合わせの場所を町に入った入り口と決めて、数時間ほど探してみたけど誰も見つからなかった。スレッジが言うには、生き残りがいたとしてもトレゴールに留まらずに王都へ逃げたんじゃないかって言うんだ。



 「何でスレッジさんは、そう思うんですか?」

 「シードも戦闘だけじゃなくて色々と覚えておくといいぞ。人間ってなぁ生きてりゃメシも食うしクソもするんだ。そして安心して寝れる場所だって必要だ」

 「それは分かりますけどね」

 「例えば火を焚いた痕跡は見つけたか? 食べ物を食った形跡は? 人間が隠れて生活できそうな場所を探してみたが、何もなかったんだ」



 オーロンにだって魔族に怯えながらも生きてる人達がいたのに、ここには誰もいない。それは王都へ行けば安全で、しかも指揮系統もある戦闘集団が健在だったから、っていうのが理由ではないだろうか?

 だとしたら、やはり王都へ向かうべきだよね。そう自分の考えを言ってみたらスレッジは賛成してくれた。じゃあ、翌朝に出発して王都へ行くとしようか。

 王都へ向かう数日間も実に平和な旅程だったんだ。魔族がいるなんて、ここで生きてたら信じないだろうなってくらい平和なんだ。盗賊も出てこない、兵隊も出てこない、商人も移動してないし、畑を耕す農家の人達も出てこない、近くにはあれほど巨大な森があるっていうのに、狩人も出てこない。



 「人間が滅ぼされてるなら魔族の一匹くらい出てきても良さそうなのにね。静かすぎて不気味だわ」



 皆の口数が減った事に耐えられなかったのか、サラが独り言を言ってる。そんなサラにシードが話しかけて何とか安心するようにと気を使ってるんだけど、若いっていいねぇ。

 さらに数日ほど進んでいくと、ようやくマースの王都が見えてきた。心のどこかで覚悟してたけど、それが現実として目の前にあると、やはりショックは大きかった。マース王国の王都は陥落して滅びてたみたいなんだ。遠目に見ても分かるほどに、崩れてボロボロになっているんだよ。



 「マースが滅んでるかもしれないって思ってたけど、何で魔族がいないんだ?」

 「そうよね。魔族軍がトレゴールからも援軍を出してたら、私達はオーロンを占領できなかったんじゃないかしら?」



 シードとサラが話してるのを聞いて、私もまさにそれが疑問だったんだ。とにかく王都へ入れば何か分かるかもしれないよね。その疑問の答えが知りたくて、全員の足が自然と速くなっていく。そして王都の東門の前に到着したんだ。東門は魔族の攻撃にも耐え抜いたようで壊れてなかった。ここからは入れないので、門の脇にある小さな扉を使おうとしたんだけどね。



 「王都へ入ろうとするのは誰だね?」



 いきなり声をかけられて驚いた。油断してたわけじゃないんだけど、全然人の気配を感じなかったんだよ。何日ぶりだろう、マースへ入ったメンバー以外の声を聞いたのは。振り返ると、そこにいたのは門番の服装をした老人だった。



 「私達はクロヴィアとカレドニアの連合軍の者です。私達はクロヴィアに侵攻した魔族を撃退、カレドニア軍と共に人類の領土を取り戻す為の戦いをしてるんです。今は旧スラール王国のオーロンを制圧してるんですよ。だからマース王国とも手を取り合って戦いたくて使者として来たんです」

 「そうか、クロヴィアは勝ったのか」

 「クロヴィアは、と申しますと?」

 「この王都を見て分かるだろう? 我らマース王国は滅びたんだよ」


 

 やはり滅びたのか。正直なところ聞きたくなかったセリフだよね。



 「では何故御老人は、ここにいるんです? 魔族に滅ぼされたのならば、何故魔族はいないんですかね?」

 「いいかね、お若いの。我らマース王国は滅びた。だが魔族に滅ぼされたんじゃないぞ。魔族共は追い払ったんだ。私がここにいるのは、もしかしたらアンタ達みたいな者が来るかもしれないと思ったからだ。いや違うな。それは口実で、マースで死にたいから残っているんだ」



 そういや地震や火山なんかの災害で逃げろって言われても、生まれ育った地元で死にたいと言って残ろうとする老人とかいたっけ。この老人もそうなのかな。だけど、それだったら廃墟でも王都の中のほうが、まだ安全じゃないのかな? ここだと森も近いし、魔物とか出てきたりしないのかな?



 「何故、中で生活しないかと思ってるのかね?」



 私を見て老人は尋ねてきた。私ってば、そんなに顔に出るのかな? 老人に手招きされた私達は門番の控え室へと入っていった。

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