七十三話
私達、クロヴィアとカレドニアの連合軍は、中央の前方にガレスの騎馬軍五千。その後ろにランスロー率いる本隊が一万、そして右に布陣するのが姫様が指揮するクロヴィアとカレドニアの混成軍一万、そして左に布陣するのが私が率いる一万。合計で三万五千なのよ。
作戦は簡単。ガレスが騎馬隊で敵陣を突破、敵が混乱した隙を狙ってランスローの本隊が突撃。さらに左右から私と姫様の軍が挟撃を仕掛ける。ただタイミングが悪いと、せっかく数で勝っても各固撃破されてしまうので注意が必要よね。そこは何度も打ち合わせをしたわね。
そして、ついに本番なわけよ。もしも、ここで私達が大敗したら魔族がクロヴィアを蹂躙してカレドニアに雪崩れ込む。そして軍隊の大半がエドリアル大陸に出ているために、ろくに抵抗も出来ずに滅びる事になるんだよね。指揮官は分かってるし、兵隊も分かってる。ここで負けたら人間は滅ぶ。そうはさせないと、全軍の戦意が高揚している。戦うのは今しかないよね。
まず左右から挟撃する私達が軍を進め始める。魔族軍は左右に分かれて私達を迎撃しようと動き始めたみたいなんだけど、それを牽制するためにガレスが騎馬隊をゆっくりと前進させる。左右に分かれようとしてた魔族軍は、再び中央に集合してガレスの騎馬隊へ向かって前進を始める。
でも一度左右に分かれようとして、また中央へ集まるなんてマネをしたら隊列が乱れるよね。そこは個々が強い魔族は気にしないのかな?
ガレスが前進を始めると、ランスロー隊も前進を開始する。魔族とガレスの騎馬隊がある程度の距離を縮めると、ガレスは騎馬隊を全速で突撃させた。魔族の攻撃で落馬した者もいたが一切気にしない。速度を落とさずに魔族軍を突き抜けた。小型の魔族は騎馬に踏み潰され、大型の魔族は速度の乗ったランスに身体を貫かれて絶命したみたいだね。
ガレスは魔族軍を突き抜けると、反転してもう一度突撃を仕掛けた。この二度にわたる突撃で魔族軍も完全に混乱の極みに達したのよ。そこへランスローの本隊と私達の左右の軍が襲い掛かったわけ。
人間同士の戦いだったなら降伏も許しただろうけど、魔族と人間は相容れない。出来うる限り殲滅するしかないんだ。殺戮衝動の塊のような魔族など、いくら殲滅しても心など痛まないんだ。だって、今は私達が勝ってるけど負けたら、立場は逆転する。助けを請うても聞いてもらえないんだからね。
ただ、心に思い浮かぶのはルージュだ。あの子が、あの子と同じ存在が敵として現れたら、私は剣を無慈悲に振り下ろす事は出来ないだろうなって思う。ルージュを知らなければ倒せただろうけど、あの子達のメンタリティは人間と同じなのだと知ってしまったんだから。
出来る限り助けたいし、人間として扱ってあげたいと思うんだ。でも、それだけの余裕が我が軍にはないんだよね。たぶん殺されるだろう。戦場で殺すなら、まだいいんだけどね。あの子達は外見上であまり人間と変わらない。捕虜になった場合、どんな目にあうのか考えると心が痛む。おそらくは陵辱されるだろうね。
そうなったら、きっと人間を憎むだろう。魔族の血をひいても人間として仲間になってくれるかもしれない存在だけど、憎いとなったら人間と敵対するかもしれない。それを考えると心が痛い。ニコはルージュと上手くやってるのだろうか。幸いな事に私の心配は杞憂に終わっている。今の所は。
逃走した魔族軍の残存戦力は三桁程度だろうか。魔族軍の殆どを私達は打ち倒した。戦いの疲れは残っているけど、それをものともせずに、オーロンへと向かう。やがて見えてきたオーロンは無残な姿を晒していた。町は廃墟と化していた。
生き残りの人間達がいたので話を聞くと、奴隷として働かされていたらしい。ただ、何か気にいらない事があれば、すぐに殺されたりして心の休まる時は無かったようだ。生き残りの人間はクロヴィアへ送り届けて休んでもらうことにした。
「これから、どうするか?」
そう言ったのはガレスだった。「俺はカティフを攻めてトラスカンのアーサー軍と連携できる体制を作りたいと思うのだが」とガレスは続けた。
「私もそう思う。ただ、その場合の手順が問題だと思う」
ランスローは賛成したけど、手順を決めたいと言うんだ。オーロンからはカティフとラデックスへいけるんだよね。カティフへ攻撃するとなると、ラデックスから攻撃を受けた場合の防衛戦力を残さなきゃいけない。
仮にクロヴィア軍五千に守備を任せるとして、攻撃に使えるのは三万だ。カティフはオーロン、トラスカン、サファルと街道でつながってる。そうなるとラデックスとサファルから援軍が来るんだよね。トラスカンからアーサー軍の援軍をもらう手もあるんだけど、トラスカンが手薄になると、ガーネルから攻撃を受けてしまう。
「魔族達も、私達を倒す為に軍を移動させてるはずですから、クロヴィア勢だけで守れるかどうか不安です」
姫様が意見を述べた。そして私を見る。周囲を見ると、ランスローもガレスも私を見てる。
「オーロンの守備を固めようよ。それでカレドニアの本国に残ってる部隊を呼びなさいよ」
「カレドニア首都を守る部隊は、王が手放さないと思いますが」
「ランスロー、私達が負けたら首都に残る一万でどうやって国を守るのよ? 首都が守れてもアルコンやフォースティンは滅びるのよ。今は攻撃が最大の防御なのよ。そう言ってやんなさい。で、私は援軍が来るまで、シードとサラを連れてマース王国へ行ってくるわよ」
「確かに一万の兵を遊ばせておくのは勿体無いですね。では私が王を説得するために首都へ向かいましょう。その間はガレスに指揮を任せます」
「了解したぞ! 俺はオーロンを要塞化して守備を固めよう!」
「では、その為の資材はクロヴィアからも持ってこさせましょう」
ガレスと姫様が、それぞれに発言する。
「じゃあ私はマース王国へ行ってくるわね。あっちも魔族相手に防戦で精一杯なのか、それとも私達と共に戦う為に様子を探っているのか調べてくるわよ」
私はシードとサラに声をかけて出発の準備に入った。




