七十二話
魔族がクロヴィア王国から撤退したらしいと聞いたのは、クロヴィアの王都を奪還して半月後のことだったわ。スレッジの部下達が、国内を探索して一匹も見なかったらしい。
「もしかすると、フォースティンからランドーへ侵攻したのが効いてるのかもしれません」
そう言ったのはランスローだった。フォースティンってのは勇者の村の南にあった港町だと聞いた記憶があるなぁ。
「ランドーっていうのは?」
「エドリアル大陸から出てる半島の先端にあるスラール王国の町です。魔族がスラールを滅ぼす前はフォースティンと交易をして栄えてました。我々がクロヴィアの王都へ進攻するのと同時に攻め込んでるはずです」
「まさか、負けたりしてないよね?」
「アーサーとトリスタン、ユーウェインが軍を指揮してるので、まず負けはしないでしょう。アルマ殿に内力も指導して頂いたおかげで、兵士の戦力も格段に向上しましたからね」
そうか、勇者の村を奇襲した魔族達のルートを逆に辿って侵攻してるんだね。
「アーサー達はその後、どうするつもりなの?」
「あの半島は細く長く延びてますからな。そのまま進んでライレール、トラスカンと制圧する予定です。その後は我々次第ですな!」
そう言いながら、ガレスが地図を広げて見せてくれた。半島ってのは元の世界のイタリアみたいな地形だった。それがもっと細くなってエドリアル大陸からカレドニア大陸へ向けて出てる感じなのよね。ランドーからトラスカンまでは一本道で背後に回りこまれる心配も無さそう。逆に言えば魔族が防御を固めたら、進めなくなりそうなのよね。
「左様、ですからトラスカンまでは、出来る限り早く制圧する予定ですぞ」
ライレールって町が半島の根元にあるんだけど、この地図を見るとその西から大陸を東西に分断するように巨大な山脈があって、トラスカンは海と山脈に挟まれた狭い平野にあるのね。だから、ここまでは一本道で来れるわけか。
「アーサー達は地形の関係で迷いなくトラスカンまで攻めることができる。魔族は、そちらの対処の為にクロヴィアを離れたってことか。おかげで軍の再編も王都の復興作業も邪魔が入らないってわけね」
「ですが、トラスカンからはガーネル、サファル、カティフと三つの都市と繋がってます。二万の軍で、これらを制圧するのは無理でしょう。魔族はこれら三方向からトラスカンに進攻できますから」
となると、アーサー達はトラスカンで守りを固めることになるんだね。私がそう言うとランスローは頷いた。
「そうなりますと、今度は私達が動くべきではないでしょうか?」
「姫様、どうすんの?」
「国境を越えた最初の都市、オーロンを一刻も早く制圧すべきでしょう。それが出来れば北はマース王国です。魔族と戦っていると聞いておりますし、上手くすれば味方が増えると思います」
「オーロンから南下すればカティフですな! アーサー殿と連携できますぞ」
クロヴィア王国はカレドニア大陸とエドリアル大陸を繋いだ橋のような地形に建国されてるんだよね。元の世界で言うとアラスカとシベリアが陸続きだったらって感じ。ベーリング海峡が陸地になってるのを想像すればいいのかな。
だから、攻撃するとしたらエドリアル大陸側の最初の都市、オーロンしかないんだよ。あとは、いつ攻撃するかってタイミングの問題だったんだ。クロヴィア軍の再編もあるし、国内に残る魔族を一掃しなければならなかったし。
だけど、スレッジの部下達の報告では魔族の残党も大丈夫なようだし、アーサー達もトラスカンまで制圧した頃だろうし、時は今って事なんだろうね。
「シン隊長に千名の兵隊を与えて国内を任せます。私は五千を率いてカレドニアと共に戦います」
姫様も参戦するそうだ。あの武力なら大丈夫でしょ。だけどシン隊長には、くれぐれもよろしくと、しつこいくらいに念を押されてしまったわよ。まぁランスローもガレスも、その辺は心得てると思うけどね。これで総勢三万五千の軍勢がオーロンに向かって進撃を開始したわけ。
一方迎え撃つのはオーロンにいた魔族軍なんだけど数は五千。少ないけど魔族軍は人間よりも個々が強いので侮れない。スレッジの部下達が偵察して次々と最新の情報を報告をしてくれるんだけど、それによれば、オーロンと隣接してる都市から続々と援軍が到着してるようで、クロヴィア出発の五日後には一万にまで膨れ上がったとか。
オーロンからは、カティフ、ラデックス、そしてマース王国のトレゴールへと通じてるんだけど、魔族の援軍はカティフとラデックスから来てるみたい。この事実をもってマース王国はまだ、魔族と戦ってるんだって、私達は確信したわよ。そして援軍の大半がラデックスから来たもので、カティフからは少数だったみたいなんだ。だからアーサー達もトラスカンまでは到達してる可能性が高いって喜び合ったわね。
あとは私達が勝てばいい。私達は敵の三倍だけど、どれだけ被害を出さずに勝てるか。オーロンに集結した魔族一万は、私達を迎え撃つ為に都市を出てきたようだ。三倍でも人間など敵ではないと思っているんだろうね。スラール奪還戦の始まりだ。




