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七十話

 早朝、東の空が明るくなり始めた。この城に籠城してから、どれだけの日数が過ぎたのか、もう覚えちゃいないんだけどね。

 こうして夜明けを迎えて朝日を見ると、ホッとするんだよ。あぁ、無事に夜が明けたんだなってね。

 もしかしたら夜明けと共に魔族の全力攻撃を受けて、城をまくらに討ち死にする事だってあるかもしれないんだけどね。それでも朝日を見ると何だか安心できる。

 もしかしたら、魔族の連中も私達と同じなのかもしれないね。ニコが連れて行った娘を見てからは、そう思うようになったよ。

 ニコは、ちゃんとやってんのかな? あの娘を押し倒したりしてないだろうね。私の名をあげた子も、しっかりしてそうだから大丈夫かな。


 そんな事を考えていたら、ガレスの部隊が突撃を開始した。五千の騎兵が全速で突撃をかけてくるのは想像以上に凄いものだったわよ。馬群の突撃してくる足音の地響きというか轟音がね。

 騎兵が突撃すると知ってる私でさえ、これほど驚いたんだから、不意打ちを受けた魔族は混乱の極みだったようね。ここから見ていても、うろたえて右往左往してるのが分かるよ。

 ガレスの騎兵部隊は突撃の勢いを殺さずに、いくつかの隊に別れて路地に入り元の南門へと迂回して戻っていく。

 元の位置へ戻って別れた隊と合流してから再突撃をする気なのだろう。そこを狙われたらマズイし、何より混乱してる今が奇襲のチャンスだよね。


 「よし、行くよ!」


 私達は静かに、だけど迅速に駆けていく。狙うは、この南に布陣する魔族軍の大将首だよ。私についてくる兵士達には言ってあるんだ。足を止めて斬りあうなってね。魔族の手でも足でも斬りつけて、戦闘力を奪えれば良し、だよ。

 私は目の前の魔族を斬り倒す。魔族の死体が私に向かって倒れてきたので、それを避けながら周囲を見渡した。私の後ろを100人の兵士がついてくるのが目に入るんだけど、その装備はまちまちだ。寄せ集めの部隊って印象も人によっては受けるかもしんない。


 けど、その戦いを見れば、それは誤りだと気がつくだろうね。何故、装備がまちまちなのか。それは各人の戦闘方法が違うからだ。一人は二刀流で戦っていて魔族を文字通り斬り刻んでいた。別の兵士は巨大な盾を構えて猛烈な勢いで体当たりをしている。受けた魔族はボロ雑巾のようになって吹き飛ばされていた。槍を持った兵士は渦を描くような軌道で槍を突き出している。装甲の厚そうな魔族の表皮をいとも容易くぶち抜いていた。もう一人槍を持ってる兵士がいると思ったら杖だった。この兵士は2メートルはある杖を振り回しているんだけど、材質はどうみても金属だろうに、まるで柳の如くしなっている。杖を振る速度が尋常ではないからなのか、私にも分からない。確実なのは一振りするたびに、魔族が叩き潰されているってことだね。

 全員が内力を上手く使いこなしてる。あの戦い方は各々が身につけた内力に応じて編み出した戦法なのだろうね。この魔族との戦いが長引けば、それだけ新しい剣術、槍術、杖術が生まれてくるのかも。それは私ですら想像のつかない素晴らしい技術になるのかもしれないね。

 

 一騎当千


 そんな言葉が頭を過ぎる。この兵士諸君が、さらに腕を磨いていけば、いつか手合わせを願いたくなったりしてね。こんな頼もしい兵士が後方にいるのなら、私は前方にだけ集中すればいい。一番強い魔族は、どれなのかな?

 ザコを斬り伏せながらキョロキョロと見回していると、一際大きな目立つ奴がいた。きっと、あいつが大将に違いない。私はそいつに向かって駆けていく。


 「そこの魔族! 首をもらうよ!」


 私は全身を内力で満たしているので、力も速度も常人を遥かに超えているんだよ。そして、私の持つ剣にも内力が宿っているんだ。内力が宿った剣は刀身が光り輝いている。切れ味は恐ろしいほどに増してるはずだ。

 私は高くジャンプすると、上から魔族へと輝く刃を振り下ろした。魔族は腕を上げて頭を庇う。でも、甘いんだよね。切れ味は増してるんだよ。腕ごと頭を唐竹割りしておしまいだよ。


 「え!?」


 思わず声が漏れた。悔しいけど甘かったのは私だった。私が振り下ろした必殺の一撃は、魔族の腕の半分ほどまで斬れたけど、そこで止まってしまった。地面に着地するときに魔族の顔を見たんだけど、あっちも驚いてた。私が斬れると信じて疑ってなかったように、こいつもまた傷一つつかないで防御できると信じていたんだろうね。

 おかげで助かったよ。奴が肉を斬らせて骨を絶つ覚悟でいたんだったら、私は攻撃を防がれた時点で隙だらけだったもんね。致命的な一撃を受けてたかも知んないし……


 自分達の大将を狙われた事で、激高した周囲の魔族が私に一斉に襲い掛かる。一匹を斬り捨てた後、後方に下がるしかないと諦めかけたとき、さきほど見た味方兵士が遅れて飛び込んできた。二刀流が私の背後の魔族を斬り刻む。槍使いが周囲の魔族を次々と串刺しにしていく。


 「私の背中についてください。道を開けましょう!」


 盾を使った強力な体当たりをする兵士が、声をかけてきた。


 「分かったわ!」


 私が背後につくと、兵士はすかさず盾を全面に出して突撃をしかける。まるで猛牛の突進だよ、これ。

 

 「今です!!」

 「はいな!!」


 盾使いの作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかないよね!

 盾使いの背中に飛び乗り、そこから大きくジャンプして再び魔族の上空から剣を振り下ろす。でも魔族の方も、さっきの私の一撃を過小評価はしてなかったようだ。武器をかざして、それで防御する気らしいのよね。下手をすると私がカウンターで斬られるか?


 「させるか!」


 そんな叫びと同時に、杖術の兵士が魔族の武器を持った腕を目掛けて杖を振るう。杖が強烈な速度で柳の如くしなって見える。杖は見事に魔族の腕に命中した。そしてその衝撃で防御の為にかざした武器が、ずれてしまう。そしてそれは私にとって大いなるチャンスだった。

 今度こそ魔族の頭を真っ二つにして私は地面に着地する。すぐに首を切り離して私は首を高く掲げて叫んだ。


 「魔族の大将を討ち取ったァ!!」

 「おーーーーーーーーーーーー!!」


 私と共に攻め込んだ兵士達が勝鬨をあげた。魔族の方は意気消沈しているようだ。うん、これで目的は果たしたかな。


 「撤退!!」


 私の命令で今度は一斉に城へ向かって撤退を開始する。魔族は大将を倒されたことで混乱してて、全軍で私達を追いかけてくる事はないようだけど、小数の者達は執拗に追ってくる。こいつらを相手してる間に魔族が総出で追いかけてくると困るので、相手に出来ない。

 しかし、魔族達は忘れていたようだ。騎馬隊が南門で合流し、再突撃の準備をしていたことを。

 二度目の突撃に備えることもできなかった魔族は完膚なきまでに蹂躙されて壊滅したのよ。わずかに生き残った魔族の残党は東と西にいるはずの魔族軍に合流するために落ち延びていった。

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