七話
勇者の血を絶やさない為の隠れ里を作った。これが正しいのか間違えてるのか。それを判断するのは難しいと思う。
木の葉を隠すなら森の中って言葉もあるし、普通に町の中で暮らしても良かったんじゃないかな。
一つ言えるのは終わった後なら、何とでも言えるって事だよね。
今回は隠れ里を作った事が最悪の事態を招いてしまった。
魔王が隠れ里をどうやって見つけたのか、今となっては分からない。
奴らは突然襲ってきた。
村を十重二十重に取り囲み、蟻も這い出る隙間も無い状態にしてから奇襲してきた。
村人達は武器を持ち、勇者の子孫として恥ずかしくない戦いをした。
でも、私はこれほど凄惨な戦闘を見た事がない。まず弱い老人や子供が殺された。
逃げ惑う子供達が大型の魔物に踏み潰されて、肉の塊になっていた。子供を救おうとした老人は、巨大な鈍器に弾き飛ばされて壁に叩きつけられていた。
女性達も肉食の魔物達に五体を食いちぎられて絶命した。
数が違いすぎるんだ。
異世界へ来たけど、どうやら年貢の納め時らしい。
なるべく多くの敵を道連れにしよう。
そんな覚悟を決めた時、アルスが来た。
「こっちへ来て!君は部外者だ。生き延びなければならない!」
「もう逃げられないよ。こうなったら異世界で勇者と呼ばれた俺の力を見せてやるよ!」
アルスは俺の後頭部を軽く叩くと
「俺じゃなくて、私でしょ?」
と笑顔で言った。
こんな時まで筋金入りだな、おい。
「アルマには頼みたい事もあるんだよ」
頼みたい事があると言われては、一緒に行くしかない。ついていくと村長宅の地下に案内された。
「アルマは、ここに隠れてるんだ。ここは魔法の結界があるから、静かにしてれば大丈夫」
「アルスは?」
「最後まで戦うよ」
「みんなが死んだら勇者の血筋は!?」
「君に探し出して欲しい。それがボクの、いやボク達の頼みだよ」
「いなかったら、どうするんだよ!」
「異世界で魔王を倒したんだろ?この世界の魔王も倒してよ」
「無茶言うなよ!この世界は俺に勇者の力を与えてくれなかった。お、私じゃダメなんだよ!アルスも隠れてろよ」
「奴ら、主な勇者候補をマークしてるみたいなんだよ。さっきボクは散々に狙われた。ボクの死体を見つけるまで、奴らは村を隅々まで調べるだろう」
ボクは死ななきゃダメなんだと、アルスは言った。ふいに私はある事を閃いた。自分が女性である事、これは神の一手だ。
「アルス!」
「なんだい?」
「もう、お前を止めたりしない。そのかわりに・・・」
「かわりに?」
「私を抱け!!」
「アルマ、君、正気かい?」
「うるさい!私が勇者の血筋を妊娠すれば、勇者は生き延びるんだよ。オマケに私は異世界の魔王のせいで、魔の力がまとわりついてる」
「上手く誤魔化せる・・・か」
私は身を固くして、抱かれるのを待った。
「アルマ、時間が無いから悠長にやってられないけど、ごめんね?」
「いいからやってくれ」
この後の行為については私は黙秘する。
時間が無かったわりには、気持ち良くしてくれたし、なんかそれが悔しくもある。
「不思議だねぇ、アルマとこんな事をするとは夢にも思わなかった。ねぇアルマ」
「なんだよ?」
「愛情を感じてない男の子供を産ませてしまうね、ごめんね」
「友情は感じてるから安心しろ」
「そっか、じゃあ子供を頼んだよ」
「ちょっと待て」
不思議そうに立ち止まるアルス。
私はポケットに入ってた腕輪を取り出して、アルスの右手につけた。
「この腕輪をやる。これをつけた時はアルスに負けなかったんだ。幸運の腕輪なんだぞ」
「じゃあ、ボクがつけたら最強だね」
鎧を着るとアルスは笑顔で、私にさよならと言って出ていった。
あの笑顔は生涯忘れないだろう。