六十九話
ニコが旅立ってから数日間は膠着状態で何も起きなかった。起きても困るんで平穏無事の方が良いんだけどさ。
やるべき事と言えば地上の邪魔な瓦礫を撤去するくらいで、非力な私は指図をする係を引き受けてたわけ。
そしたら姫様が包囲する敵に、何か効果的な攻撃はないか会議をしたいから来いって言うんだよ。だから、今は籠城して時間を稼いで、援軍を待つ方が良いんじゃないのって、使いの騎士に言ったわけよ。
そしたら、その御意見を会議の場で仰って下さいとか言うんだよ。そりゃそうかもしんないけどさぁ！
それで仕方ないから、会議室に来たんだけどね。そこへスレッジの配下が会議室に駆け込んできたのよ。
欠伸を噛み殺してたから眠気覚ましに、ちょうど良かったわ。
「おい、姫様もいらっしゃるんだぞ。バタバタすんじゃねえよ」
スレッジが注意したけど、部下の方は聞いちゃいないみたいだね。顔が笑ってるから、良い知らせなんだろうな。
「それがアニキ、姫様もアルマの姐御も聞いて下さいや！ ついにカレドニアの援軍が来たんでさ！」
「まぁ！ ついに来てくれたんですね」
姫様が立ち上がって喜んでいるのが微笑ましいなぁ。配下のシーフも姫様の喜びようを見て、嬉しそうにしているし。
けど、先に到着する予定なのは騎兵５０００だっけ？ 不意を突かれたら潰走しちゃうよね。
「クロヴィアの首都奪還の軍が奇襲を受けて敗走してるし、その件を教えて注意を喚起しないとダメよ」
「アルマ姐さん大丈夫ですぜ！ その軍も再編して一緒に来てますぜ。もう奇襲なんざぁ食わないと思いますよ」
なるほど、前回苦い教訓を叩き込まれたから、同じ手は食わないか。逆に、こっちから奇襲をしてやるのも面白いかもね。
私が奇襲攻撃を提案してみたら、姫様も乗り気になったのよ。
「アルマ様。それで、どのように奇襲するのですか？」
「敵は私達の援軍が、すでに到着してる事を知っている、と思うのよ」
援軍は首都の南門の外にいるので、そのまま進撃して魔族の軍勢と戦ってもらう。魔族は中央の城を包囲してるので、大軍ではあるけど包囲してるが故に戦力は分散されていて、援軍と戦うのは一部分に過ぎない。
南側にいる魔族は反転してカレドニアからの援軍と戦闘を開始するだろうから、そこを私が１００の兵を率いて背後から攻撃する。
東西と北の魔族軍が包囲を解いて、南へ向かったら、それぞれの背後から奇襲攻撃を仕掛ける。各奇襲部隊を率いるのは、シード、サラ、姫様とシン隊長。スレッジ達は、各倉庫で近くを通る魔族に弓矢で遠距離攻撃を仕掛ける指揮をする。
「とまぁ、こんな感じでどうかな？」
「問題ないと思います」
姫様が賛成してくれたので、これでいく事になったんだけど、カレドニアの先鋒を率いてる将が誰か気になったんだよね。魔族の相手をするなら、相当な勇将じゃないとダメだと思うし。
「カレドニアの先鋒は誰が大将なのかしら？」
「ガレス将軍です。本隊はランスロー将軍、副将はローエングリン将軍ですぜ」
すかさずスレッジの部下が教えてくれた。そうかガレスか、あの猛将なら、数倍の大軍が相手でも怯まないだろうね。すぐに奇襲計画をガレスに知らせるように指示して、ついでにガレスと相対する魔族軍の背後を攻撃するのは、私だと伝えてくれるように使者に頼んだんだ。そうすればガレスもガンガン暴れると思ったからね。
作戦決行は四日後、それと作戦は一部変更となった。
作戦内容の変更については一部から指摘があったんだってさ。
ガレス達が南門を包囲する魔族と激突するよね。それで東、西、北の各城門を包囲する魔族は、南へ援軍に向かうとき、背後からの奇襲を警戒してるはずだと指摘があったのよ。でね、どうするか考えたわけよ。
魔族が警戒してるなら、予想通りの行動をとってやろうって事になったわけ。
つまり、魔族が援軍に向かう為に、ある程度の距離を移動したら城門の跳ね橋を下ろして出撃する。魔族が反転攻勢に出たら再び篭城する。
撃退させたと思わせて、しかもまた背後から来るかもと警戒させて、本命の奇襲部隊は、いきなり横から攻撃するってわけよ。
一度警戒した魔族が一回背後からの攻撃を撃退したくらいで安心するだろうか、なんて思ったりもするけど、ウラのウラのそのまたウラまで考えて行動しようとか思うと、余計にワケが分からなくなるからね。一見、深く考えてるようで、実は出たとこ勝負。それで良いんじゃない、もう。
攻撃前夜、奇襲をかける部隊が地下を通って静かに出撃する。奇襲予定地点の最寄の倉庫まで地下を通り、倉庫から廃墟に移動して潜む予定なのよ。さぁ、これで成功すれば私達の勝利は間違いないよね。
