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六十七話

 倉庫から地下道を通って私達は城へと戻る。姫様にカタパルトの破壊が成功したこと、そしてもう巨大な岩の投石攻撃は無いと報告すると喜んでくれた。

 

 「では早速騎士と兵士達を地上に戻しましょう。それで様子を見て大丈夫と判断したら、他の人達も戻します。ですが、地上があの様子では、地下の方が快適かもしれませんけどね」


 姫様がほろ苦い笑みを浮かべている。魔族を撃退しても、町と国の復興にどれだけの時間と費用が必要になるのかを考えたのかもしれない。


 「物事は良いほうへ考えませんか? 昔の偏執狂のおかげで国家の財政は傾きかけたけど、そいつが作った倉庫は、今、こうして役に立ってます。地下は雨風を凌げるけど、ジメジメしてるし閉塞感が強くて、そのうち精神的に疲弊した人が出たはずです」

 「建物は崩れてるけれど、外の空気にふれて星空を見ていられたら、それも吹き飛ぶ、ですか?」

 「そうですよ。私達は目の前にある物事を一つ一つ解決しましょう。あとは子供や孫に押し付けるんですよ」

 「子供や孫ですか? 何だか私には実感がありません。アルマ様はもう子供がいらっしゃるのですね。お孫さんは?」

 「孫は、まだですけどね~、子供達を見てると、五年もしないうちにお祖母ちゃんと呼ばれる身になりそうですよ」

 「アルマ様を見てると、私と同じ年齢にも見えるのに素敵ですね」


 姫様と子供や孫の話、いつまでも若い秘訣などを聞かれて、意外と長く話し込んでしまった。でも実を言えば肌の張りとか目じりのシワとか、何となく気になってきてるんだよね。

 まぁそんなことは、どうでもいいや。あんまり気にしても老け込んでしまいそうだしね。今、気になるのはニコが見つけた人なんだ。どうして、彼か彼女か知らないけど、魔族がウヨウヨいるところにいて無事だったんだろうか?


 「ニコ、さっき助けた人に色々と話を聞きたいんだけどさ。ここにいるのかな?」


 ニコの部屋をノックもせずに、いきなり開ける。そこにはニコとフードを被った人がいた。あんなの被ってたら、どんな奴か見えないじゃん。室内なんだし脱げばいいのにさ。


 「先生、部屋に入るときはノックくらいしろよ」


 セクハラとか平気でやりやがったニコに、常識で説教されると何だかムカッとくるんだけどね。でも私は大人だから、ちゃんと謝ったよ。


 「悪かったね。ところで、そこの人はさっき助けた人だよね? なんで魔族に殺されることもなく、平気で町を移動してたのか聞きたいんだけどね」

 「先生、今日はこの人も疲れてんだから、明日でいいんじゃねえかな? そういうのを聞くのはさ」

 「そう思うよ。でもね、あんたも忘れたワケじゃないだろ? カレドニアの王都では人間に化けた魔族がいたじゃないか。もしかしたらって疑いもあるんだよ。それを晴らしてスッキリしてから休みたいんだよ。私達だけじゃない、姫様も一般の人もいるんだから、当然の用心でしょ?」


 私が言うとニコは少し焦ったような表情になって助けた人物を背後に匿う。そういう動作は余計に怪しいと相手に疑わせるんだけど、切羽詰るとやっちゃうもんなのかな? フードを被ってる人物は私から隠れるようにニコの背後で小さくなっている。こういう動作を見ると、もしかして女の子なのかなって思うんだよね。ニコが積極的に庇う時点で、100%女の子だって確信はあるんだけどさ。


 「ニコ、どきな!」

 「先生、ちょっと待ってくれよ!」


 私が歩いていくとニコは立ち上がって両手を広げて通すまいとする。内力を込めた掌底をニコへ向けて伸ばすと、ニコも応戦するように掌底を伸ばしてくる。掌底がぶつかり合うと、ここからは内力の強さがものをいうんだけど、ニコは私の敵じゃない。少なくとも今はね。


 「うわっ!?」

 「どきな、私に内力で勝とうなんて100年早いんだよ」


 ニコの身体を吹き飛ばして、フードの人物に近寄り、勢い良くフードを剥ぎ取った。


 「きゃっ!?」


 小さく悲鳴をあげた、その娘は頭の獣耳を寝かせて両手で頭を庇うようにしゃがみこんでいた。


 「なんなの、この子は?」

 「魔族と人間のハーフだよ」


 私の問いに答えたのはニコだった。へぇ? 失神しなかったんだね。結構内力も鍛え上げたみたいで、先生も嬉しいよ。でも、今はこの獣人娘の件が先だよ。


 「俺が見つけて駆けつけた時は、この子は魔族に暴行を受けていたんだよ。その時は必死だったし、耳に気がつかなかったんだけどさ」


 む~、それを言われると面目ない。私も撤退する事に夢中で気がつかなかったなぁ。


 「先生がさっき言ってたけど人間に化ける魔族。そいつらが興味本位で手慰みに人間の女性を犯して生まれたのが、こいつらなんだとさ。人間の血が混ざってるんで、魔族の中では最下級の地位で奴隷みたいなもんなんだって。だからムシャクシャした魔族が殴る蹴るの暴行を加えたり、色んな雑用を押し付けたり、時には犯されたりするんだとよ」


 それはまた不憫な境遇だねぇ。私が見ると獣人は怯えている。そしてニコは、いつになく真剣な表情をしている。昔からこういう雰囲気だったら、こいつ女の子にもてただろうなぁ。

 

 「見た感じ、とても可愛いけどね。ニコ、あんたはどうするの? あんたの専属の奴隷にでもするの? それとも仲間を殺された兵士達に手渡して嬲殺しにする? それとも誰でも使用可能な性的な捌け口にするの?」

 「そんなマネはしねえし、させねえよ!」

 「そお? だけどね、その娘は目立つよ? 差別され迫害されるかもね。私だってアルスを殺した連中の血が混ざってると思えば、この子を嬲り殺してやりたいと思うよ。あるいは死ぬよりも屈辱的な目にあわせてやろうか、とかね」

 「先生を軽蔑すんぞ。そいつは悪くないんだ。魔族と人の戦いが産んだ犠牲者なんだよ」

 「人と魔族のハーフとして同情を買い、ここへ潜り込む。それに同情したどこかの間抜けを味方につけて、魔族が城へ侵入する手引きをする、あるいは城へ入る通路を調べて魔族へ伝えるかもよ?」

 「絶対にないよ。俺が保障するってばよ!」

 「あんたの保障なんて何の役にも立たないよ。この子は兵士達の慰安の役にでも立ってもらおうかな」

 「そんな事はさせねえぞ!!」


 ニコが私に戦いを挑んでくるんだけど、怒りに飲まれてるんじゃダメだね。壁に叩きつけてやると、大人しくなった。私は獣人の娘を連れて部屋の外へ出る。改めてみると、フードの下は破れた服を着ている。


 「これだから、男ってのは気が利かないんだから。こっちへおいで」

 

 大人しく獣人娘はついてくる。まぁ逃げても無駄だと諦めてるんだろうなぁ。私の部屋へ連れていき、身体を拭いてから服を手渡すと獣人娘は不安そうに問いかけてきた。


 「あの……私は何人もの兵士の相手をさせられるのですか?」

 「あぁ、あれはウソ。そんなマネさせるワケないでしょ? あんたが見ず知らずの男に抱かれるのが好きで好きで堪らないって言うなら、やってもらうけどさ。やりたい?」


 獣人娘はぶんぶんと勢いよく首を振る。だよね~、好きでもない男に抱かれたくないよね。


 「ただね、今は魔族と戦闘中で、しかもこっちは篭城戦で普通じゃないんだよ。下手をすると、あんたの身に危険が迫るかもってのは本当だよ」


 服を着替えさせて、ぼさぼさになった髪の毛を梳いてやると獣人の娘は、くすぐったそうにしてたが大人しく私に身を任せていた。 


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