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六十六話

 一人、また一人と討ち取られていくと、帰りに敵を突破できるだけの戦力が残るか不安になってしまう。スレッジが手早く作業を進めてくれると良いのだけれど……。

 なるべく兵士の損耗を避ける為に、やられそうな者をみつけるたびに、援護するのだけど些か苦しい。

 別方面から魔族が押し込まれてくるので、そちらに目をやるとシードとサラが到着したところだった。


 「先生、遅れました」


 僅かに呼吸が乱れているシードが、そう挨拶してくる。律儀な子だよ。

 ここに来るまでに、4人ほど兵士が戦死したらしい。ちょっと連れてくる人数が少なかったかなぁ?

 私とニコとシードとサラ、この四人で動き回りながら兵士達の援護をしつつ戦い続ける。兵士は複数で私達の目の届く範囲内で戦う。シード達が来た分だけ、戦闘は楽になったけど気は抜けないのよね。それなのに、その連携をニコが乱した。


 「先生、あっちに人間らしいのが見えた。俺、行ってくるから」

 「こら、ちょっと待ちなさい! 見間違いじゃないの!? せめてスレッジが作業を終えて撤収ってとこまで動くんじゃないっ!!」

 「そこまで待ったら、殺されちゃうかもしんないだろ!?」

 「アホかっ! 人間一人の命より、こっちの作戦が大事なんだよっ!! 失敗したら篭城してんのが全滅すんだよっ!!」


 行っちゃったよ、あのクソガキ! あとでヤキ入れなきゃダメだね。もちろん私だって分かってるんだよ。人の命に貴賎はないし、大勢救うためなら一人くらい見殺しにしていいってわけじゃないけどさ。でも私達は神様じゃないんだから、どっかで線を引かなきゃダメじゃんか。それなのにニコめ。


 「先生、ニコの分はボク達で埋められますから大丈夫です! 今はこの場を支えましょう!」


 おっとシードに怒られた。幸いなことにニコが抜けても、まだ戦死者を出さずに戦えている。でも、どう転ぶか分からないから油断はできないね。


 「アルマの姐さん! お待たせしました。さぁ逃げましょう!」


 スレッジが部下を連れて戻ってきたのよ。「仕掛けはどうなのよ?」そう聞くと、スレッジは笑って親指を立てる。


 「ここで火をつけて、あとは逃げるだけですぜ」

 「じゃあ、点火しちゃって!」

 「了解です、おい」


 スレッジは仲間のシーフ達に声をかけると、カタパルトへ何かを投げつけた。


 「今、投げたのは何なの?」

 「壷の中に油を入れておくんでさ。壷の口に布をつめて火をつけて叩きつければ、割れて飛び散った油が燃え広がるって寸法ですがね。カタパルトの上の方に油をたっぷり撒いて、火薬も仕掛けてきましたんで、たぶん大丈夫でしょう」


 私に説明しながらスレッジ達は壷を次々と投げつけている。違うところへ飛んでいった壷は地面で割れると燃え広がって、近くにいた魔族を火達磨にしていた。カタパルトに命中したものは、そこから勢いよく燃え広がっている。


 「よし、これでいいでしょう。姐さん、撤退しましょう!」

 「まだニコのバカが戻らないのよ」

 

 そこへニコが人を一人連れて戻ってくる。いち早く気がついたサラがニコの元へ走っていき、魔族を蹴散らしながら一緒に戻ってくる。


 「先生、サラとニコが戻ってきます。このまま撤退しましょう」


 念のためにシードもニコの元へ向かわせて私は殿を引き受ける。スレッジ達は先頭に出て向かってくる魔族の群れの中心めがけて余った壷を投げつけている。今までの戦闘で疲労している兵士は中団に入れて少しでも消耗をしないようにしてるんだけど、これで帰還できるということで兵士達も、頑張ってくれている。これ以上の戦死者は出したくないよね。


 「さぁ急いで!」


 倉庫から騎士隊が数名出てきて手招きをしている、きっと倉庫近辺の敵を倒してくれてたのだろう。まず消耗した兵士達を倉庫へ入れるが、背後から魔族の集団が追ってきている。全員が入るまで間に合いそうもないので、私はここで全員が入るまで戦って、あとは城まで撤退しよう。


 「アルマ様も早く!」

 「敵が来ちゃうわよ。私は大丈夫だから、あんた達も早く入りなよ」


 そう言ったときに、ザーッと音がした。見れば倉庫の屋根や窓などから弓を構えた人達が一斉に矢を放っていた。背後から魔族達の悲鳴が聞こえる。倉庫からは第二射、第三射と波状攻撃が続けられていた。


 「さぁアルマ様、はやく中へ!」

 「分かったわ」


 騎士に言われて私は悠々と倉庫内へ入った。倉庫の中は弓を射た人達もいてごった返していたんだ。この人達のおかげで倉庫へ入れたので感謝の意味も込めてハイタッチしながら、倉庫の屋根に上っていく。

 そして、つい先ほどまで攻撃してたカタパルトを見た。スレッジ達が火をつけたおかげで黒煙が立ち込めている。やがてドーンと何度か爆発音が聞こえた。

 

 「あんたが仕掛けた火薬が爆発したみたいね。どうやら成功かな?」

 

 カタパルトは激しく燃え上がり黒煙は空へと昇っていく。

 私は改めてスレッジと握手をした。


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