六十三話
東門と南門から出撃した味方の損害は、怪我人のみで死者は出なかったそうだ。ニコと姫様が活躍したらしい。その後の2週間の間に私達は五つの倉庫を同じような手法で手に入れた。そのうちの一つでは作戦ミスなどにより、かなりの死者が出た。
「もうすぐカレドニアからの援軍が到着するとの情報が入ったそうですね?」
姫様がスレッジの顔を見る。
「私の部下が解放軍のところで、カレドニア軍の使者と会ったそうです」
「やっと来たのかぁ。で、どれくらいで来れるんだって?」
「騎兵のみであれば5000の軍が五日もあれば来れるそうです。ただ、歩兵まで入れると、あと二週間は必要だそうです」
「内力を使えってのよ。歩法が改善されて馬より少し遅いくらいで走れるってのよ」
私がイラついて言うと、隊長が宥めるように言ってきた。
「カレドニア軍にすれば、ここは敵地ですからな。いつ襲撃があっても対処できるように、また疲れを残さぬように進軍してるのでしょう」
「そっか、でも、うん、分かるんだけどさ。歯がゆいんだよね」
「アルマ様、もう少しで援軍は来るのです。それまでに私達で出来る事を考えませんか?」
姫様の提案に、私が頷こうとした時だった。大きな破壊音と共に、いきなり部屋が大きく振動した。隊長が血相を変えて部下に何事が起きたのかを問い質した。部下が言うには巨大な石が飛んできたらしい。
「隊長! ここは危険かもしれないわよ! 姫様を地下へ!」
「了解した! 姫様、こちらへ!」
「スレッジ、私達は城の高い所へ行って確認するよ!」
「正直に言えば私も地下へ逃げたいところですなぁ」
逃げたいと言うわりに、スレッジは怯えた様子も見せずについてくる。城の展望台のような所へ上がって、スレッジと共に周囲を見渡すと、それが見えた。
「ありゃあ、なんですかね?」
スレッジが私に聞いてきた、というより独り言なのかな。それは巨大な岩を砲弾の如く撃ち出すカタパルトのようなものだった。魔族の巨人が岩をのせて、勢いよく飛ばしてる。あれなら、この城のどんな場所も射程距離内だろうね。
「スレッジ! 降りるよ!」
「了解でさぁ! あんなもんが飛んできたら命がいくつあっても足りねえ!」
階段を走り降りてると、さっきまでいた場所に命中したらしい。天井から色々と落ちてくる。私達は頭を両手で庇いながら、更に速く降りていった。
一階まで来ると隊長が指揮をしているのに出会った。
「アルマ様、姫様は地下の安全な場所へ避難して頂きました。今は一般人を避難させているところです」
「東西南北の跳ね橋を上げた方がいいわ。全員を避難させたら、この砲撃が止んだタイミングで敵が突撃してくると簡単に城内への侵入を許してしまうわよ」
「仰る通りですな。部下に命じて跳ね橋を上げる事にしましょう。上がらないものに関しては燃やして落とします」
「その方がいいわね」
私は地下の姫様に、自分の見たカタパルトについて報告をした。
「では、それを破壊しない限り、この攻撃は止まらないんですね?」
「止まらないわね。一般人と兵士の一部を城外の食料倉庫へ移動させた方が安全だと思うわ」
「早速、手配します」
姫様が役人へ指示を出してる間に、どうするかを考えをまとめる。
「姫様も最初に取った倉庫へ避難した方がいいわよ」
「それは出来ません。私が逃げたら、ここへ残る人達が絶望してしまいます。大丈夫です、ここは安全ですから」
確かに上に立つ者が逃げたら士気が低下しちゃうんだよね。そこへ騎士が来たんだけど、隊長からの応援要請かな?
「報告します。東西南北の跳ね橋を上げることに成功しました。地上にいる者を撤収させても敵は侵入することは出来ません」
「ご苦労様。では引き続き、民衆を地下へ避難させてください」
「了解しました!」
「ねぇ、隊長はどうしたのよ?」
「隊長は……北の橋を上げるときに、岩が直撃して名誉の戦死を遂げました。現在は副隊長が指揮をしております」
やられたなぁ、あの隊長は武勇も優れた人材だったのに。悔やむ私の隣でスレッジが小さく祈りの言葉を唱えていた。




