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六十話

 姫様がやってきた。責任者として今後の事を知りたいと言う。やっぱり色々と気になるんだろうね。


 「そうそう、廊下で倉庫のパスワードを記した巻物を預かりましたよ」


 姫様が隊長に巻物を渡すと隊長は恐縮して受け取った。どうせ私が行くんだから、私に渡せば良いのにって思うんだけど、考えてみれば姫様は知らないんだっけ。


 「良いタイミングで届きましたな。では中を確認致しまして……」


 隊長は巻物に軽く目を通していたけど、だんだん表情が険しくなっていくのよね。というか、あんなに読み込むほどパスワードって長いわけ?


 「隊長さん、私にも見せてよ。どうせ私がやるんでしょ?」

 「あ、い、いや、これはその、どうやら巻物を間違えたようですな。後日、私が担当の役人に確認してからアルマ様にお渡しした方が良いかと思います」

 「それに間違いはないはずよ? 私が廊下で預かった時に『第1倉庫開錠呪文』と書いてあるのを確認致しましたから」


 ちゃんと確認してますよと微笑む姫様に、隊長は何か知らせようと目配せしてるんだけど、気がついてもらえない。そんな隊長の挙動は悲しいほどに目立つんだよ。巻物には私やニコやスレッジのような部外者には見せられない事が書いてあるんだろうか?


 「いやいや、それが姫様。どうしたことか、中身が違うようでして、後日にでも……」


 私はチラッとニコを見る。ニコは頷いてさりげなく隊長に近寄り、姫様に懸命に言い訳をしている隊長の手から巻物を取り上げると、瞬時に目を通して大爆笑した。スレッジもニコから巻物を受け取り、目を通して吹き出した。


 「なんなのよ? 二人で笑ってないで私にも見せてよ」

 「い、いかん! 渡してはダメだ!!」


 隊長が巻物を奪い返そうとするけど、ニコに阻まれて私のところへ来れない。


 「言っておくけどね、そんな態度と物言いじゃ、却って相手の好奇心を刺激するだけよ」


 私は早速巻物を広げて、開錠の呪文を読むことにする。


 『目が覚めたアルマは手足を縛られて身体が動かない事に気がついた。そんなアルマを数名の兵士が囲んでいる。「ちょっと! 縄を解きなさいよ!」アルマが怒鳴ると、一人の兵士がアルマの縄ではなく胸に手をあてて揉み始めた。それをきっかけに他の兵士達もアルマの身体を弄ぶ。服に手をかけ、一気に引き裂くと、むき出しになった白く大きな胸に兵士がむしゃぶりつき、赤子のように吸っている。「イヤだ! やめてよ! お願い!」アルマの命令は怯えがまじり、やがて懇願へと変わっていく』


 まだ半分も読んでないけど、もう十分だった。

 私は巻物を床に叩きつけたい衝動を必死に抑えながら隊長を睨みつけた。


 「この出来損ないのエロ本みたいな文章が開錠の呪文なのね!? 間違いないのね!?」

 「は、はい。おそらくは……」

 「センセー、後半が傑作だぜ。センセーが泣きながら『アルマ、いっちゃうぅ、もう、らめぇ!』とか言ってんの。あ~っはっはっはっはっは!」


 隊長と話をするのに、ニコの笑い声が邪魔だったので、「姫様もいるんだから静かにしてね」と注意してから気を込めた拳をニコのボディに叩き込んだ。「ぶげらっ!?」だか「もべらっ!?」なのか聞き取れなかったけど、恐らくは意味の無い音声を発しながらニコは壁にぶつかって静かになった。

 うん、よし。ニコはバカだけど、私が注意したら、ちゃんと守ってくれる。そこがニコの可愛いところなんだよ。

 隊長は静かになったニコを何故か気の毒そうに見ながら、私に釈明している。


 「音声で解除できてしまうために、ありふれた言葉では誤作動してしまいますし、ある程度以上長くないと、簡単に覚えてしまう危険もあります。それで担当者の趣味嗜好に合わせた長文をパスワードとしているのです」

 「ふ~ん……じゃあ、今回の担当者は私を縛り付けて集団で嬲るのが趣味なんだ?」

 「そ、そこまでは、まぁその、はい、そうなんでしょうなぁ」

 「分かったわ。出撃の時は、担当者も連れて行くからね? こんなの長すぎて覚えられないし」

 「ええまぁ、自業自得ですからな。御自由になさってください」


 後刻、担当者を呼び出して連れて行くことを告げたら、わりと冷静に受け入れてた。

 そしてとんでもない爆弾発言をしてくれた。

 パスワードの私のセリフの部分はイントネーションも設定してるので、リアルにやらないで棒読みだと、開錠できないらしい。

 担当者を思いっきりぶん殴った後に、セリフ部分の練習を出撃直前までやることになったよ。

 まったくもう、なんでこんな目に会うんだかね。


 

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