六話
村長から行儀作法の先生を紹介してもらってから半年が過ぎた。スパルタ教育のおかげで、私は猫を被るのが上手になった。
一人称も『私』に変更させられた。
そんなある日、私は村長に呼ばれた。
もちろんアルスも一緒だ。
「私に何か御用ですか?」
「私はこの一年半、お前を見てきた。アルマという人間を理解したつもりだよ」
「私が努力家だって事ですね?」
「それもある。が、とにかくアルマは信頼出来る人物だと理解したのだ」
「ありがとうございます、嬉しいです」
「そこで私は、お前が知りたがっていた勇者の居場所を教えようと思う」
「マジっすか!? あいたぁ!?」
最近、女性らしさの追求で本来の目的を忘れかけてた。そうだよ、私は勇者を探してたんだよ。
思いがけない村長の言葉に思わず男時代の喋り方をしてしまった。
そしてこういう時、アルスは無言でツッコミを入れてくるようになったんだ。
「アルマ、ボクは悲しいよ。またそんな品の無い言葉を使ってさ」
「だからって頭を叩くなよ」
後頭部をさすりながら抗議したが、アルスは知らん顔している。
「それで勇者の居場所だが・・・」
「はい、どこにいるんですか?」
「この村だよ」
「・・・はい?」
アルスが私の顔を見て笑い出す。よほど愉快な顔をしていたのだろう。あの優しかったお前はどこにいった。
「それで勇者は誰なんです?」
この一年半で村の連中とは仲良くなったけど、これだってのが思いつかない。強いて言うならアルスなんだけど・・・。
「ボクは勇者じゃないよ。勇者には体のどこかに、証が浮き出てくるんだ。ボクにはそれがない」
私の視線に気がついてアルスは否定した。
アルス続いて村長が教えてくれる。
「まだ勇者は現れてないのだ」
じゃあ、何で勇者が村にいるって断言できるんだ?
「この村はね、勇者の血を引く者達の村なんだよ。だから、この村から勇者は現れるはずなんだ」
まだ出てこないけどね、とアルスは笑う。
なるほどなぁ、この世界に来たばかりの頃、ワケありの村だと思っていたけど、大当たりだったな。
「俺なんか、勝手に呼び出されて魔王退治を押し付けられたけど・・・」
「俺なんか?」
アルス、お前厳しいよ。
「私なんか勝手に呼びだされて、押し付けられたけどなぁ・・・」
「他の世界は知らないけど、この世界は勇者の証が体に出ると神の加護で人の限界を超えた強さを得るんだよ。そして勇者の仲間の実力も底上げされるんだ。今のままだと、人間として強いだけで、魔王に対抗できるかどうか・・・」
ふ~ん・・・だけど、すでに王国が一つ滅びて大勢の人間が苦しんでるのに、勇者の証が出ないから戦いませんっていうのは、どうなのかなぁ?
例え証が出なくても、人々の為に立ち上がってこその勇者じゃないのかな?
俺、じゃない、私はそんな風に言ってみた。
「滅びた王国は魔族に対する国民の戦意高揚の為に、国内に勇者が出現したってウソの発表をしたんだよ。ボク達以外に血を引く者が絶対にいないとは断言できないし、村に勇者が出ないのは王国に現れたからだって納得してたんだ」
状況を見てたら実はウソで滅びたわけか。
「それにしても、こっちの魔王は勤勉だよねぇ・・・私が倒した奴なんて、自分で倒しとけば良かった~って言ってたのに」
「油断してくれた方が、ボクらとしては楽なんだけどね」
そりゃそうか。
「勤勉というか真面目と言うのも変なんだが、こちらの世界の魔王は勇者を恐れていて、少しでも兆候があれば自ら出向いて滅ぼすのだ。私がアルマに対して慎重になった理由は分かってもらえたかね?」
「ええ、まぁ」
よそ者は下手したら、この村を、そして世界を滅ぼす引き金になるってことか。