五十九話
翌日の夜、隊長から会議室へ来て欲しいと連絡がきたんだ。私はニコを連れて会議室に向かったのよ。
会議室には苦虫を噛み潰したような顔をしている隊長とスレッジがいた。
「昨日、姐さんが言ってくれたんで助かりましたぜ」
「やっぱり罠があったの?」
「本当にアレを作ったのは陰険な野郎だぜ」
「実はですな……」
隊長が事の顛末を話してくれたんだけどね。倉庫の真下の通路から穴を掘り始めて、倉庫の床というか土台部分っていうの? それにぶつかって慎重に穴を開けはじめたところ、小さくゆっくりと削る分には何も問題は無かったんだって。それで問題無しって事で、一気にガツンと大穴を開けようとしたらカウンター発動で作業者は大怪我。
幸いにもその作業者は、問題無しって判断後も慎重論を唱えていた人で、念のために鎧を着用してたそうで、鎧はベッコリと凹んだけど命だけは助かったんだって。
「じゃあ、24時間コツコツと穴をゆっくり慎重に広げていけばいいと思ったんですがね。それ以降は塵一つ分だって削れやしないんですよ。最初に少しでも削れたのは、こちらの油断を誘う為の罠だったのかと思うともう、悔しくて仕方ないんでさ」
スレッジが肩を落としている。ニコが「人生、そんなこともあるさ」とスレッジの肩を叩いてるんだけど、本当に偉そうな態度を取るよね、コイツってば。まぁニコのことはおいといて。
「そうなると、穴を開けて運び出すのは困難を極めるって事になるのかしらね?」
「隊長さんと話したんですがね。倉庫の中から穴を開ける分にはカウンターは発動しないんじゃないかって思うんですよ」
「そうなるとですな、誰かが倉庫に普通の手続きを経て入らなければならんのですよ」
そっか、それなら城から軍を出して強行突破して倉庫へ行くしかないね。十人くらい倉庫へたどり着けば作業はできるかな?
「センセー、東門と南門で大規模な陽動作戦をすりゃいいと思うんだ。倉庫に入る奴は城の堀を小船で渡ったら良いんじゃねーか?」
「そうね、それしかないと思うわ」
「アルマ様、城から倉庫へ行く者は最悪の場合、少数でも敵の大軍を相手に戦える剛の者でなくてはならぬ、と考えるのですが」
なんだよー、隊長さんってば私に行けってのかよぅ。失敗したなぁ、子供達の出発を遅らせれば良かったよ。そしたら、あの子達にやらせたのになぁ。
「安心しろよ、俺が護衛をしてやるってばよ!」
ニコかぁ……弱いわけじゃないんだけどね。いまいち頼りないんだよ。
「うん、じゃあニコ来て。それからスレッジも。あと隊長さん、騎士団の中で内力に秀でた強いのを何人か選んでちょうだい」
「了解しました!」
「決行は、いつにするんですかい?」
「そうですなぁ。我々騎士団で囮作戦の詳細を決めます。また民間から遠距離攻撃を得意とする者達を募って支援攻撃の部隊も編成しませんと。ですから五日後では如何でしょうか?」
そんなに時間が必要なのかな? いや、篭城してるし人的資源だって限りがあるから、なるべく損害を出さないようにってのは分かるんだけどさ。
「それくらいあれば、アルマ様もパスワードを覚えられるでしょうからな」
へ? パスワード? なにそれ?
「なにそれ? よく分からないんだけど」
「実はですな、あの倉庫は鍵ではないのですよ」
「はい?」
「倉庫を作った偏執狂は、カウンターや毒が噴出す仕掛けなど数々のトラップを作りましたが、その後に一つの心配事があったそうでして」
「どんな?」
「鍵を盗まれたら? あるいはコッソリ持ち出して鍵の複製を作られたら?」
そんなの、そこまで心配したらキリがないじゃないの。第一、信頼できる者、例えば騎士団長とかに管理させたりすれば良いじゃない。
「ええ、当時の王様を始め、皆がそう説得したそうです。が、どうしても実験的に作りたいと新しい仕掛けというか鍵を作ったのですよ」
「……どんな?」
「音声に反応する魔法の板に、正しい文言を唱えるとドアが開くというものです」
「本当は、あと五つは倉庫を作る予定が、この仕掛けの為に予算が足りなくなって十になったってのは、有名な話ですぜ」
補足説明のつもりか、それともマメ知識なのか、スレッジが教えてくれる。
隊長さんが、あとでパスワードを教えてくれるそうなので、それを待つことにしましょうか。




