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五十八話

 スレッジが指し示した場所を全員でのぞき込む。


 「この城の堀の近く。一番近くて手頃なのは南門と東門の間にある食料倉庫ですぜ。ちょうど倉庫の真下に通路がありますなぁ」

 「では姫様、その食料倉庫を我ら騎士団で回収しましょう」


 スレッジはニンマリと笑って言う。


 「この食料倉庫は、かなり頑丈な作りで中で篭城すれば相当に戦えますぜ」

 「なるほどねぇ。ちょっとした砦になるってわけかぁ」

 「そのあたりの戦術については、隊長に立案してもらいましょう」


 姫様が隊長に指示をだした。


 「倉庫が砦に使えるとしたら、城から行ける倉庫はどのくらいあるのかしらね?」

 「正確には分かりませんがね、思いつくだけでも3~4はあると思いますぜ」

 「倉庫は全部でいくつあるのかしら?」

 「十箇所ですわね」


 私の問いに姫様が答える。なるほど、特に手を加えなくても半数弱が労せずして手に入りそうか。

 

 「カレドニアからは軍が出撃してるし、彼らに与える食料も必要だからね。なるべく多く確保したほうが良いと思うのよ」

 「アルマ様の御意見に賛成致しますぞ。補給が出来ずにカレドニアに撤退されたら、その時こそ我らクロヴィアは滅んでしまいます」


 まぁ、カレドニア軍も糧食は十分すぎるほど持ってくるとは思うけどね。彼らの出撃が遅くなったのは、その辺の手配なんかもあると思うし。ただ、こちらでも十分とは言えなくても用意しておけばスラールへ進撃する余力が生まれるかもしれないしね。


 「そういえば、一つ聞いておきたいんだけどさ。その食料倉庫の扉とか頑丈なのかな? 魔族でもゴブリンだの何だのは、私達人間の食料を見つけ次第、食い荒らしてる気がするんだけど」

 すると、何故か姫様、隊長、スレッジの三人が意地悪そうな笑みを浮かべた。恐いよ、あんた達!!


 「アルマ様の懸念は尤もですわね。ですが、心配は御無用ですわ」

 「左様! 姫様の仰る通りでございますぞ!」

 「あの倉庫の鍵は盗賊泣かせで有名なんでさぁ。アレを破れた者がいたら問答無用で次期盗賊ギルドの長になれますぜ!」

 「まぁスレッジ殿も手を焼くほどでございますか?」

 「そりゃあ、もう。倉庫を狙うなら他を狙えと言い合ってたくらいですぜ」

 「そんなに凄い鍵なの?」

 「あの鍵を考案したのは我が国のセキュリティを一手に引き受けた御仁でした。こう言っては何ですが、病的なまでの偏執狂でしてな。下手に壊そうとしたりすると、鍵穴から毒が噴出してきたり、トラップが発動したりと、それは凄まじいものでしてな」

 「今頃は魔族にも犠牲者が出てるんじゃないですかね」


 それは確かに凄いなぁ。だけどさ、トロールやオーガみたいな大きな魔族が力で破壊しようとしたら、どうなるのかな? あっさり壊されると思うんだけど。そう言ってみたら、またしても三人は悪い人の笑みを浮かべてんだよ。だから、恐いんだってば。


 「それも大丈夫ですぞ! あの倉庫を作った当時の最高の魔道師に依頼してカウンターの魔法がかかっております」

 「カウンター?」

 「はい、物理、魔術を問わず力で破ろうとした者には、その破壊に使った力が使用者に反射するのですよ。あの倉庫を力で壊そうとした者は次の瞬間にミンチになってるでしょうな」


 隊長、遠い目で言わないでよ。この人ってば、誰かがミンチになった瞬間を見たことあるのかな?

 だけどさぁ、そんなに凄い技術を持ってるなら、倉庫じゃなくて首都の門や城壁に使えば良かったんじゃないのかな? そう言った瞬間に地雷を踏んだって思ったよ。姫様と隊長が地獄の底まで落ち込んでるんだもの。


 「そうですわね、アルマ様の仰る通りなのですわ」

 「あの当時、すでに首都の城壁は難攻不落と言っても良いものでした。当時の陛下は、その城壁に加えて食料を豊富に準備しておけば、裏切り者など出ないと言うのが持論だったのです。固い守りを誇る城は大抵が裏切り者の手引きで落ちますからな」

 「ただ、盗賊に限らず色々な者達が食料を盗んだのですわ。そればかりか警備を担当した兵士や騎士までが物資の横流しをする始末でしたのよ」

 「それで当時の陛下が激怒したのです。これは余の贅沢の為ではない。諸国の侵略を受けて篭城した時に、皆が食べるものを備蓄しているのである。それなのに重要性を理解せず盗むとは許せん! と仰いましてな」

 「もう誰も信用できないと鍵を厳重にすることを命じたのですわ。ただ、当時の陛下も誤算だったのが、彼を雇ってしまった事で、国を傾けるかというほどの予算を使って完成させたのです」


 姫様と隊長が交互に説明してくれたけど、なんつーか馬鹿だな~と思ったよ。ニコがいなくて良かったと思うわね。ニコがいたら、絶対に「馬鹿じゃね」とか言ったと思うしさ。


 「陛下も、あれだけ怒った手前、引くに引けなかったんでしょうな。何にしても真面目な人間を怒らせたらダメってことですぜ」


 スレッジが話をまとめようとしたんだけど、私はもう一つ疑問が浮かんできた。


 「あのさ、その倉庫が難攻不落ってのは、よ~く分かったんだけどさ。地下から穴をあけたらカウンターってのは大丈夫なの?」


 私の疑問に残る三人が顔面蒼白になっていた。 

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